>  >  > 椎名林檎『(生)林檎博'18-不惑の余裕-』レポート

椎名林檎のライブにはエンターテインメントの全てが含まれていた 『(生)林檎博’18-不惑の余裕-』

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 デビュー20周年を迎えた椎名林檎が全国4カ所8公演に及ぶアリーナツアー『椎名林檎 (生)林檎博’18-不惑の余裕-』を開催。その11月22日、さいたまスーパーアリーナ公演が行われた。今春の全国ホールツアー『ひょっとしてレコ初2018』改め『椎名林檎と彼奴等の居る真空地帯』からわずか5カ月後という短いタームであり、“Ringo EXPO”としては、2008年の『10周年記念祭』、2014年の『年女の逆襲』に続く3度目の開催。デビュー20周年と40歳を迎える特別な年の特別なライブとなっていた。

 「不惑の余裕」というタイトルは、当然ながら、孔子の論語「四十にして惑わず」からきているのだろう。陽のあたる「目抜き通り」や、誰も通れぬほどの「獣ゆく細道」も迷わずに自由に進んでいくという意思の表れであろうが、“不惑”の“惑”には“惑星”の意も含まれているのではないか。そう感じたのは、バンド名とオープニングを観たからだ。みどりん(Dr)、鳥越啓介(Ba)、ヒイズミマサユ機(Key)、名越由貴夫(Gt)に斎藤ネコが指揮を執る総勢27名のオーケストラを加えたバンドは「The Mighty Galactic Empire(銀河帝国軍楽団)」と名付けられ、LEDスクリーンには、巨大な宇宙船のようなものが映し出されていた。バストロンボーン、バリトンサックス、トランペット、テナーサックス、ハープ……とそれぞれの楽器が音を鳴らすたびに、船体に楽器の名前が浮かび上がり、スネアからハットへと変わった瞬間、見事に息があったキメからライブはスタートした。

 まず、椎名ではなく、ダンサーのBAMBI、AIとともにMummy-Dが登場し、デビュー20周年記念作品第1弾としてリリースされたトリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』でカバーした「本能」を椎名のサンプリングボイスとともにジャジーにフロウ。やがて、ガラスケースに囲まれた椎名が現れると、19年前のMVを思わせるかのようなポーズでガラスを叩き割った。ステージ中央へと降り立った彼女はマーメイドラインのロングドレスに、総スパンコールの金のガウンを羽織りパールの施された王冠を被って、まさに銀河帝国軍の女王の風格を漂わせる佇まい。続くソロ4thアルバム『三文ゴシップ』収録の「流行」のアウトロでMummy-Dは林檎にハイタッチしてバトンを繋いだ。TOKIOに提供した疾走するポップロック「雨傘」の英語詞によるセルフカバーではシンセやドラムとシンクロした電子の雨を降らせ、PUFFYに書き下ろした乱調の中から美が浮かびあがるオルタナティブロック「日和姫」でスペーシーな電脳空間へとダイブしながら、音楽を通して「HELLO」と観客に挨拶した。

 ここで、タイトルバックが流れ、TOWA TEI with Ringo Sheena名義でリリースされた「APPLE」が、パーティーの始まりをコケティッシュに告げた。ハープが夢と鏡の世界へと誘うフランス語の歌詞で始まる「マ・シェリ」、椎名が叩く鐘の音が煩悩を解き放つロックな唱歌「積木遊び」、彼女が生まれる前のヒット曲であるフィンガー5「個人授業」のカバーと、どこか少女のような声色の楽曲が続いた。大きく膨らんだパフスリーブが特徴的なブラウンカラーのジャケットを脱いでオフホワイトのスリップドレス一枚になっていた彼女は、向井秀徳(ZAZEN BOYS)のラップとフルートによるソロが交錯する中で、松の柄が鮮やかに映える江戸紫色の振袖着物で顔を隠しながら「神様、仏様」を切実に歌いあげ、思わずスタンディングオベーションしたくなるようなオーケストラによる迫力のある演奏によって、女の子の時代の幕が盛大に引かれたことが示されたようであった。

 そして、ダンサー紹介を兼ねたインストによるサンバ「化粧直し」(東京事変)のアウトロでは、5歳になった娘からの丁寧な挨拶が流れた。「こんばんは、黒猫堂の若女将です。古代文明が好きな5歳です。若旦那こと、私の兄はただいま17歳です。間も無く40歳になる母の博覧会にお越しくださり、誠にありがとうございます。皆様に繰り返しお楽しみいただける作品をお届けしたいと母は考えております。精一杯努めて参りますのでこれからもどうぞよろしくお願い申し上げます」というアナウンスに場内からは大きな歓声と拍手が上がった。10年前の博覧会では当時7歳になる息子が椎名林檎の生い立ちをナレーションで紹介していたことを思うと、時の流れの早さを感じずにはいられない。

 プリーツにフリルを配した、ビスチェのラインが美しいピンクのロングドレスに着替えた椎名は、朝ドラの主題歌としてヒットしたスロウワルツ「カーネーション」で、少女や女の子ではなく、女の本質に迫り、「ありきたりな女」で真実の愛と出会い、シングルリリースされた「いろはにほへと」と「歌舞伎町の女王」で、母と娘の関係をビビッドに歌い上げた。続く、ピアノとボーカルだけで囁くように歌い始めた「人生は夢だらけ」は、高畑充希が出演するCMに書き下ろした楽曲のセルフカバーだが、MVでは椎名が自身の母から譲り受けた45年もののビンデージのコートを羽織り、長女が針と糸を用いて作ったネックレスを身につけたことが話題を集めた。ここで、改めて、先の長女による無垢で澄んだ声が思い出される一方、かつて母の娘だった椎名による歌声には、現在は母として日々を生きるリアリティが込められており、アカペラからオーケストラが一気に入っていくクライマックスの輝きには、自然と涙が溢れるほどの感動と興奮を覚えた。

      

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