『Gravitation』インタビュー
黒崎真音が『禁書目録』新OP「Gravitation」で受け取った、偉大な先達からの言葉のバトン
黒崎真音のクリエイティビティを形作るもの
ーー細かく韻を踏みまくる歌詞とドラマチックに展開しまくるメロディを持ったこの曲を面白がれてしまうのには、「Magic∞world」から8年のキャリアのなせる業を感じますけど……。
黒崎:いや、あんまりキャリアのことは考えてないですね。レコーディングもステージングもそうなんですけど「できるようになったな」って思ったらそこで終わっちゃう気がしていて。いつも「ダメだった」って思っているほうが逆にがんばれるタイプなので、最高到達点をイメージしたりとか、「よくできたな」「成長したな」って納得したりはしないようにしてるんです。むしろ日々研究というか……その研究自体が趣味になっていて、毎日なんらかの刺激を求めている感じですね。
ーーなんらかの刺激?
黒崎:なにを観たり聴いたりしても、歌や音楽に結びつけちゃうクセがついてるんですよ。だから逆に気が休まる瞬間がないとも言えるんですけど(笑)、自分には全然縁遠い世界のものであっても、もしかしたらなにかヒントになるかもしれないと思って、体験したくなるんです。
ーーじゃあ最近「我がことながら変わったものをヒントにしたなあ」っていうものってあります?
黒崎:新大久保と新宿のあいだくらいにSHOW BOXっていうライブハウスがあって、その前を通るたびに「ここはなんなんだろう?」と思ってたんですけど、ある日、急に「行ってみよう」と思い立って入ってみたことがあって。
ーーどんなライブハウスだったんですか?
黒崎:まだメジャーデビュー前のK-POPのアイドルの子たちが毎日出ているライブハウスでした。私が行ったときには20人くらいのお客さんを前に5人くらいの男の子が拙い日本語でがんばってMCをしていたんですけど、いざ歌うとなったらものすごく上手で。そのときは歌って踊る子だけじゃなくて、踊りだけで表現する子もいれば、逆にアカペラで魅せる子もいたり。その幅の広さに感動してしまって、なんかそういうたまたま観に行ったものが「いいな」って思うことがすごく多いんですよ。
ーーなんなんでしょうね。その素敵だと思えるものを見つけられる勘のよさって。
黒崎:ホントですよね。普段あんまりK-POPを聴くわけでもなくて、なんかSHOW BOXという場所に興味があっただけなのに(笑)。でも私、もともと宝塚が好きで独特の様式美やルールが素敵だなと思っていたんですけど、SHOW BOXにもそれに似たものが感じられたんですよね。
ーーインディK-POPアイドルなりの様式美やルールがあった?
黒崎:地下のフロアでライブをしていて、上のフロアではまた別のグループがサイン会をやっている感じなんですけど、そのあいだファンの方はずっと写真を撮り放題みたいな。日本のアイドルさんとはまた違う独特の文化があって、そういうのを見ていると「面白いな」っていう感じでワクワクドキドキするし、そういう刺激が自分のクリエイティブにはすごく必要なんですよね。直接それがステージングや歌にフィードバックされるわけではないんだけど、例えばサソリみたいな食べたことのないものを友だちと一緒にギャーギャー言いながら食べたり、そういう体験をすることと、その驚きや刺激が音楽活動のための元気や活力になるんです。
ーーちなみにサソリのお味は?
黒崎:意外と普通でした(笑)。ただの揚げ物というか。
ーーあっ、唐揚げだったんですか。
黒崎:だからビジュアルはすごかったですけどね。ちゃんと脚もしっぽも残っていて。それでギャーギャー騒いでたんですけど、食べてみたら、まあ小エビの唐揚げとそんなに変わらないなあって感じで。そういう発見を一つずつしていくのが好きみたいです(笑)。
ーーとなると、カップリングの「Hazy moon」が主題歌になっている映画『BLOOD-CLUB DOLLS 1』にご出演もなさったのも刺激や活力になった?
黒崎:楽しかったですね。映画での演技なんて私にできるのかどうか? っていう現実的な不安はあったんですけど、監督さんとじっくりお話をさせていただいたら「そんなにセリフもないので大丈夫です」「ゲスト出演みたいな感じなので」と言っていただけて……。
ーーへっ!? キャスト表の4番目くらいにクレジットされてますよね?
黒崎:そうなんですよ。最初に「ゲストで」ってお話を聞いて「がんばります!」って答えたんですけど、いざ撮影に入ったらだんだんセリフと出番が増え、最終的にメインキャストの1人になっていき……。
ーーダマされた!(笑)。
黒崎:でもスケジュールは決まっているから「もうやるしかない!」っていう感じで体当たりで演じてみたんですけど、ホントに刺激しかなくて楽しかったですね。……自分の演技の引き出しの少なさみたいなものは痛感させられましたけど(笑)。
ーーそりゃそうですよ。黒崎さんの本業はボーカリストであり、作詞家ですもん(笑)。
黒崎:でも演技の世界でも自分自身納得できる表現をしたいですし、期待されている以上、それ以上のものを表現するのがベストだと思いますから。そういう課題が見つかったという意味でも刺激的な体験でしたね。
ーーで「Hazy moon」という楽曲を通じて黒崎さんが『BLOOD-CLUB DOLLS 1』の世界に与えた言葉が、まあなんというか、まったく明るいものが見えてこないというか……。
黒崎:あはははは(笑)。映画は二部作なので『〜1』の段階だとストーリー的になにも光が差していないような状態なんですよ。散りばめられた謎も解けてないし、あの人誰だったんだろう?っていう登場人物も多いですし。すごく断片的なんですよね。なんかその核が見えてこない感じにHazy moon=朧月っていう言葉が似合うかな?と思って、こういうタイトルにさせていただいたんです。