エレカシ 宮本浩次、他者から引き出される“新たな顔” スカパラ、椎名林檎…コラボ続きの要因探る
さて。「獣ゆく細道」、作詞作曲は椎名林檎、アレンジは笹路正徳。誰の目にも耳にもあきらかなように、メロディも歌詞も「椎名林檎純度100%」な曲、宮本浩次は詞にも曲にもノータッチ、いちシンガーとして与えられた曲を一生懸命歌います、という作りになっている。
多くのエレファントカシマシファン、宮本浩次ファンにとって、このコラボのもっともうれしい点は、まさにそこである。こういう宮本浩次を、我々は聴きたかったし、観たかったのだ。どういう宮本浩次を? 自分の意志じゃないことを人にやらされている宮本浩次を、だ。
宮本がジャジーでシャンソンな、「半拍食う」「半拍タメる」多用のメロディを歌う。宮本が女性ボーカルとハモる。MVでは、宮本が無精ヒゲを生やしている。和装している。踊り狂う4人のダンサー(elevenplay)と共演する。
いずれも、自分の意志では絶対にやらないことばかりだ。でも、やったら絶対かっこいいことばかりだ。あ、「宮本、もともと江戸趣味じゃん、和装とか好きそうじゃん」と思われるかもしれないが、だから逆に普段はNGのようなのです。
そして、「自分の意志ではないことを人にやらされた」時こそが、エレファントカシマシの重要なポイントになってきたことは、ファンならご存知だろう。たとえば『ココロに花を』『明日に向かって走れー月夜の歌ー』をプロデュースし大ヒットに導いた佐久間正英。たとえば2000年のアルバム『ライフ』を手がけた小林武史。2008年にEMIから移籍した時に「俺たちの明日」を書かせたユニバーサルのディレクター(当時)近藤雅信。その時その時の宮本は、どうしても納得がいかなかったり、多大なストレスを抱えたり、出来上がりが気に食わなくてウォークマンを地面に叩きつけたりしていたことを、インタビュー等で明らかにしている。でも、結果的に彼らの方が正しかったことも、認めている。
現在のエレファントカシマシは、蔦谷好位置や村山☆潤といったプロデューサーは入っているが、宮本と対等、もしくは宮本のやりたいことを実現する的な組み方であって、佐久間正英のような「上から言うことをきかせる」「ほっといたらやんないことを無理にでもやらせる」感じではない。そうなってから、もうずいぶん経つ。そういう「上からの力」を、宮本が必要としなくなった、というのもあるだろうが(それがなくても今のエレカシめちゃくちゃ成功してるし)、ただ、たまにはそういう境遇に叩き込まれた時の宮本を見たくなるのも事実なのだった。新しい顔が見られるので。宮本本人にもそういう意識があったから、このオファーを受けたのだと思う。
なお、先日、ファンクラブの会報で、宮本にインタビューした時にきいたのだが、MVの無精ヒゲも和装も、椎名林檎からのリクエストだったそうだ。やはり。「ミヤジ、おヒゲ。あと和装ね。絶対似合うから。ファンみんな、絶対喜ぶから」と言われたそうです。椎名林檎、一緒に歌いたいとかいう以上に、「やってほしいけど自分じゃ絶対やんない」宮本を引き出したい、というプロデューサーとしての欲望から、オファーしたのかもしれない。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「SPICE」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中