岡村靖幸のアーティストコラボはなぜ最高なのか? 小出祐介、DAOKO、KICKら楽曲から考察

 改めて言うまでもないことだが、どのような形であっても、少しでも作品に関わった途端に、その楽曲の隅々にまで広がり、「岡村靖幸」をにじみ出させてしまうのが、岡村靖幸が岡村靖幸たる所以であろう。それは彼の独特のボーカルや声質といった、表層的な部分ももちろんだが、たとえばリミックスとして制作された在日ファンク「爆弾こわい 岡村靖幸REMIX」でさえも、ベースの展開のさせ方や、躁病的とも言えるビートの刻み方とその“間”のとり方から、岡村ちゃんがだだ漏れてしまうのである。

 ……と、書きながら思い出したのは、同様に岡村ちゃんがリミックスを手がけたハルカリの「Strawberry Chips (Fascinate Remix)」のことである。この楽曲も上記のように岡村節がだだ漏れているのだが、それまでのだだ漏れ方とはかなり違う感触がある。特に「爆弾こわい 岡村靖幸REMIX」と比較して聴いてもらえば共感していただけるかもしれない。リミックスの出来云々を除いたとしても、「Strawberry Chips (Fascinate Remix)」には、やや自己模倣的な感触を覚える部分や、思いきりの悪さを感じる部分があり、この当時の状況というエクスキューズはつくが、「岡村靖幸に求められているもの」を作品に落とし込んでしまっているきらいを感じる作品だった。なんというか、「岡村靖幸のアク」をあえて出しているというか……。その意味でも、桜塚やっくんに提供した「あせるんだ女子は いつも 目立たない君を見てる」といった佳曲はあったものの、00年代の岡村ちゃんの提供楽曲は、諸般の事情も影響してか、ちょっと精彩を欠いている感触は否めない。

 しかし、2011年に2枚同時リリースとなったセルフカバー盤『エチケット』と、DJユニット・OL Killerの結成、そして2016年の『幸福』などなど、10年代の岡村ちゃんの活動の充実ぶりと制作物のクオリティの高さは、筆者が改めて言わずとも、多くのリスナーが認めるところだろう。そして同時に顕著になっていくのが、コラボレーション仕事の増加と充実である。

岡村靖幸 w 小出祐介「愛はおしゃれじゃない」

 その先陣を切ったのが、2014年にリリースされた「岡村靖幸 w 小出祐介」名義でリリースされた「愛はおしゃれじゃない」。2012年リリースのBass Ball Bear「君はノンフィクション」を岡村ちゃんがプロデュースした流れを受けての制作であろうこの楽曲は、岡村ちゃんで言えば「チャームポイント」や「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」、ベボベで言えば「17才」のような、両者が作品性の中に持つ、そして制作テーマとしても大きい「(ある意味では幻想や願望の)青春やピュアな恋愛感情」が、この曲でもテーマになっており、お互いのそういった志向性の接着面を止揚させた楽曲だと感じさせられる。また、ベボベがその翌年リリースした、ファンクビートに乗せてフラッシュバックするような記憶を描いた「文化祭の夜」も、「予め失われている過去の記憶の断片」を描くような側面があり、「アンリアルゆえのリアリティ」を感じさせる岡村作品へのオマージュとも思わされた。

DAOKO × 岡村靖幸『ステップアップLOVE』MUSIC VIDEO

 オマージュという部分では、バスケコートでロングシュートを決めようとする岡村ちゃんに対して、さらに超ロングシュートを決めるDAOKOというシークエンスから始まるMV、そしてタイトルからして「ステップUP↑」を意識したような「ステップアップLOVE」を、DAOKO × 岡村靖幸のタッグでリリース。川本真琴や朝日美穂などの楽曲プロデュース、そもそも職業作曲家として渡辺美里作品を数多く手がけて来た彼だけに、女性アーティストとの相性はそもそもが抜群。加えて、「パラシュート☆ガール」のCharaや、「Dog Day」や「聖書(バイブル)」のCHAKA(PSY-S)のように、DAOKOも独特なボーカルが特徴だが、そういったクセと岡村ちゃんのクセがぶつかった時の化学反応は、本当にスリリングだ。

 また、「ステップアップLOVE」の特徴は、その押韻だろう。タッグ相手が、アーティスト活動の原点にラップをおいているDAOKOということも影響してか、岡村ちゃんはこの曲では押韻を特徴的に使っている。そもそも「Shining(君がスキだよ)」や「彼氏になって優しくなって」、川本真琴に提供した「愛の才能」など、顕著な例を出さずとも、明確な押韻にしろ、言葉を崩しての強引な踏み方にしろ、岡村ちゃんの楽曲は、ライミング(感覚)を音感として効果的に使っている。

KICK THE CAN CREW 「住所 feat. 岡村靖幸」Music Video
KICK THE CAN CREW『住所 feat. 岡村靖幸(通常盤)』

 故に、昨年再始動を遂げたKICK THE CAN CREWが、今年リリースした「住所」に、岡村ちゃんをフィーチャリングとして招聘したのは、これまた非常に筋が通っているのである。「住所」は一聴すればラブソングなのだが、その実は「自分たちの住所は韻なのだ」と明言しているように感じるほどの、韻フェチズムが炸裂した楽曲である。『声に出して踏みたい韻』を書かれた細川貴英さんのBlogでも、この曲のライミングについて非常に興味深い解説がなされているので、ぜひご一読願いたい。岡村ちゃんも(もちろん押韻の情報量的にはキックほど濃厚ではないが)、ライミングを通して歌詞を構築しており、そこからはこの二組がタッグを組む必然性を感じることができる。

 また、前述のHALCALI「Strawberry Chips」の原曲は、RIP SLYMEのDJ FUMIYAとRYO-ZによるO.T.Fが手がけていたり、ライムスター宇多丸も岡村ちゃんのファンであることを公言するなど、ライムスターやMellow Yellow、そしてキックやリップの所属するヒップホップクルー・FUNKY GRAMMAR UNITと岡村ちゃんは、惹かれ合う部分が強いのも興味深い。

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