DEZERTが語る、リスナーとの向き合い方「“共感”してほしいわけではなく、“共振”したい」
DEZERTというバンドをご存知だろうか。2011年の結成後、現在のメンバー編成になってからの彼らは、ビジュアル系シーンにおいて何かと注目されてきたバンドだ。
ボーカル千秋による過激な言動をはじめ、予定調和や馴れ合いを嫌うライブパフォーマンスの突飛さなど、何をしでかすかわからないフロントマンとそれを野放しにするメンバーたち。ゆえにビジュアル系に限らず、「最近はお行儀のよいバンドマンばかりでつまらない」と感じている人たちからの支持と喝采を浴びているバンドでもある。
そんな彼らが8月にリリースしたアルバム『TODAY』で、ようやく本来の姿を露わにしたようだ。まっとうかつ整理されたバンドサウンドと、イノセントな内面をさらけ出した歌詞と歌。今までの彼らのイメージとは何かが違う、ストレートなひたむきさがあるのだ。
現在行われているツアーも、やはりこれまでとは異なる意識で向き合っている模様。そんな彼らが今、どんな気持ちでバンドと向き合っているのか、を聞いてみることにした。“彼らの今”、がここにある。(樋口靖幸)
「今の僕の人生で確定してるものって、ライブをやることだけ」(千秋)
ーーアルバムのツアー(『DEZERT LIVE TOUR 2018 「What is ”Today”? 」』)が始まってますけど、アルバムの反応だったりライブの手応えはどんな感じですか?
Sacchan(Ba):まだわかんないですね。とにかく一生懸命やってます。
SORA(Dr):個人的には「今、すげえバンドしてるな」って思いながらやってますね。
ーーもっと具体的に。
SORA:えっと……今までの俺って適当だったのかな? って思うぐらい一生懸命やっているというか。やっぱりそれは今回出したアルバムに、4人のいろんな思いが詰まってるからだと思うんですけど。
ーーMiyakoくんはどうですか?
Miyako(Gt):初日が終わった後、みんなと楽屋で話してて思ったんですけど、今までのツアーと違って、すごく希望の見えるような感じがあって。ライブにしてもアルバムにしても、まあ粗削りで良い部分ばかりじゃないんだけど、すごく前向きにやれてるよね、って。だから今は次のライブが楽しみです。
ーー千秋くんはどうですか。なんか今までと違いますか?
千秋(Vo):……普通です、僕は。普通にやってます。
ーー「普通」ってどういうことですか(笑)。
千秋:もちろん練習もたくさんやったし、ツアー出る前にはこの歌をどう届けよう? とか考えたんですけど。でも普通にやってます。
ーー質問の答えになってませんが(笑)。
千秋:だって僕の中ではアレが普通だから。バンドしてるとか、前向きだとか、そんなのどうでもいいです。僕はもう次の博多のライブ(※8月26日の福岡DRUM Be-1公演。取材は8月22日に実施)のことしか頭になくて。そりゃ細かいこと言えばいっぱいありますよ、ライブに関して。ありますけどーー。
――次のライブのことで頭がいっぱいで、過去のことをどうでも良くなっていると?
千秋:うん(笑)。次のライブどうしよう? ってずっと考えてるから。他のことどうでもよくて。ていうか色々考えても仕方がないから、全部どうでもいいです。
ーー投げやりな感じですね。
千秋:だって考えてもしかたないでしょ? 今の僕の人生で確定してるものって、ライブをやることだけなんですよ。だからそれをやる。反省点もあるし改善点もあるけど、そんなのあって当たり前。いちいちそういうことでウダウダ言うのとかどうでもいい。
ーー……誰かこの発言の通訳をお願いします(笑)。
Sacchan:(笑)。完璧には無理ですけど……まぁ僕らに対しては「勝手にやって」っていう感じなんだと思います。たぶん僕たちも前向きにというか、今までにないくらい一生懸命やっていることは千秋くんもわかってる。そこはわかってるからそっちでやってくれ、俺は俺で頑張るからってことなんだと思います。細かい話は俺のいないところで勝手にやっとけ、なんか問題が起きたらまたガーガー言うから、と。そういうことじゃないですかね(笑)。
ーーだいたい合ってます?
千秋:……うん(笑)。
ーー『TODAY』自体がそうですが、ライブだったりこういう取材だったり、今までのDEZERTとは明らかに違うモードになっている、単刀直入に言えばすごく素直になっていて。歌っている内容含め、以前の捻くれた態度や発言で煙に巻くことよりも、ちゃんと自分の歌をまっすぐに届けたい、伝えたい。そういう気持ちがあることを雑誌の取材でも言っていましたが。
千秋:僕、このアルバムを説明するのに最初は「まっすぐ」って言葉を使っていたんですけど、今ライブをやってみて思うのは、『TODAY』は特定の誰かに向けてのものじゃなくて「不特定多数の誰か」としか言いようがなくて。それは50のオジサンだろうが死にかけのじいちゃんだろうが小学生だろうが、全員に聴いて欲しいと思ってるし。言い換えると音源が出た時点で誰に届くとかもうわからない。だから僕、たぶんこれ誤解を招くかもしれないけど、ライブではお客さんはまったく見ないようにしてます。届いて欲しいから。
ーー不特定多数に届いて欲しいから、目の前にいる人を意識しないと。
千秋:こないだの大阪2DAYSにしても、もちろん目には入るんですけど、顔は一切見てないです。で、そんなことは初めてかもしれないし、1日目はそれで自分を貫き通せたんですよ。でもやっぱり物足りない部分があって、どこかでフロアとの一体感を求めたりしてしまう。それでもフロアの様子に動じなかった自信はあって。
ーー届けたいから、人のことを気にしないと。
千秋:そんなの今回のツアーが初めてで。今までちょっと……恥ずかしがり屋って言ったらあれですけど、臆病だったんですよ。人にどう思われたいかを考えて言葉をチョイスしていたところがあって。だから批判されたりしたら傷つく部分もあったし。でもそういうのを気にせず、どれだけ自分の体重が乗った言葉を出せるかっていうことだけ考えて歌うようになったら、何も思わなくなったというか。人前に出る時に自分の体重がしっかり乗った言葉を言えてれば傷つかない、ちゃんと前に進める、っていうのはアルバムを作った過程とライブで披露した過程ーーまだその途中ですけどーーそこの核心に迫っている部分はあります。
ーーすごく前向きってことなんですね。
千秋:はい。でも今回アルバムを出して、今までやったことないところのインタビューとか受けて、それこそビジュアル系が好きっぽいインタビュアーの人にガンガン来られて、すっげぇムカついたんですけど。昔がどうとか、今のDEZERTをどう思いますか、とか。「は?」みたいな。
ーーどうムカついたんでしょうか。
千秋:ビジュアル系どうこうとか、昔は俺らもそういうテーマで変なこと言ってたかもしれないけど、今回のアルバムってマジでそれ関係ないから。自由に作ったものだし、さっき言ったように不特定多数の人に届けたいから。で、ライブをやってみてみんなが俺の歌を、何を歌っているのかをちゃんと聴こうとしてくれてる感じがあって。俺らの心構えもあるだろうけど、前のツアーに比べて聴き耳を立てているような。
ーーそこが今までのDEZERTと一番の違いでしょうね。
千秋:ヘッドバンキングが全員揃ってるとか、暴れっぷりがすごいとか、そういう物差しでしか見れないヤツとは話をしたくないんですよ。だからそういう人のインタビューには「普通です」としか言わない。いちいちメディアだのライブのMCだの、そういう場所で自分の魂の部分を言うのをやめようと思ったんです。だってそれは今、歌に乗せてるから。それをハッキリさせようと思って。
ーー以前は取材でも話が脱線したり、思いついたことをそのまま話してましたけど。
千秋:そうですね。僕のインタビュー、前よりつまんなくなりました?
ーーそんなことないです(笑)。
千秋:でも最近はそれも飽きたんですよ。今日のインタビューも俺の知らない人が来たら喋らないでいようと思って。
ーーどうして?
千秋:「この人は喋らない人なんだ」って思われたいなって(笑)。リアルサウンド……さん? のことも申し訳ないけど知らなかったし。だけどライターはよく知ってる人が来て(笑)。
ーーそれは良かったです(笑)。これはビジュアル系に限ったことではないけど、やっぱり目の前にいる人たちがバンドにとって一番大事な存在だし、大事なお客さんであることはたしかで。つまりその人のためだったりとかその人にそっぽをむかれないような音楽をやることも大事だったりするわけで。
SORA:そうっすよね。
ーーつまり、お客さんとバンドの関係性が活動の主軸になってる。特にそれがビジュアル系は顕著というか。で、今までのDEZERTもそこを主軸に活動していたんだけど、このアルバムだったりバンドのモードはそうじゃなくて。目の前にいる人ではない不特定多数の誰かに向かっている。
Sacchan:要するにまっとうになったというか、一般的になったっていうか、そういうことですよね? 実際こういう小さいシーンだと、目の前に向けて発信しないとビジネスにならないのが現実なんですけど、目の前の人たちだけを相手にしてるとジリ貧になっていくっていう話をどこかで聞いて。別にそれを考えて作ったアルバムじゃないけど、結果的にそういう方向にバンドが動いてるってことだと思います。