今だからこそ評価すべきSPEEDの功績 日本中が熱狂した“愛らしさ”と“スキルフル”の両立
今年9月の引退に向けて、コンサートツアー以外にも『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)出演など話題を振りまく安室奈美恵。「U.S.A.」のヒットでその実力が改めて注目を浴びたDA PUMP。『球体』で新境地を開拓し、新曲「Be Myself」でも新たな国産ダンスミュージックのあり方を提示する三浦大知。この3組には、「90年代にその活動をスタートして支持を集めた(名義やメンバーなどに一部違いはあるものの)」、そして「沖縄アクターズスクールに出自を持つ」という共通項がある。
この系譜に連なるのが、女性4人組のダンス&ボーカルグループのSPEEDである。1997年に「Body & Soul」でデビューし、2000年に一度解散。その後3度の再結成を果たし(1日限りのものも含む)、また各メンバーがソロ作をリリース、さらにはリードボーカルの一人だった今井絵理子は現在参議院議員として活動中と、長年にわたって様々な話題を振りまいてきたグループである。
そんなSPEEDの全音源が、8月1日より各種ストリーミングサービスに解禁された。本稿では、彼女たちの音源にアクセスしやすくなったこのタイミングで、SPEEDというグループの存在意義について改めて考えてみたい。
彼女たちが発表したオリジナルアルバムは全部で5枚。そんな中でも特に音楽シーンへの影響が大きいのは、1st『Starting Over』と2nd『RISE』だろう。CDバブル絶頂期においてそれぞれ250万枚、300万枚というセールスを記録したこれらのアルバムに収録されているのは、アメリカのR&Bを意識したトラック(彼女たちのフェイバリットとして真っ先に挙がるグループがTLCだった)に当時日本で主流となりつつあったハイトーンボイスが乗るユニークな楽曲群である。収録されたシングル曲だけを取り上げても、ハイテンションで押し切るアッパーな「Body & Soul」「Go! Go! Heaven」、ミディアムテンポの「Steady」、ファンクテイストの「Wake Me Up!」など、彼女たちが様々な形で海外のトレンドを消化しようとしていたさまがうかがえる。また、「Body & Soul」で発せられる島袋寛子(当時小学生)の〈平凡な毎日じゃつまんない!〉というラップに代表される大人びた歌詞も注目を浴びた。
一方で、最初の解散直前にリリースされた『Carry On my way』(1999年)、再結成後に発表された『BRIDGE』(2003年)『4 COLORS』(2012年)は、前2作に比べればそこまでの大きなインパクトを残したとは言い難い。それでも、ブランディ & モニカの「The Boy Is Mine」あたりを意識したと思われるメロウなサウンドにもチャレンジした『Carry On my way』、今まで以上に大人っぽさを強調した『BRIDGE』、EDM的なアプローチを駆使した『4 COLORS』といったように、その時々の海外シーンの動きやメンバーの年齢的な成熟を踏まえて最適なアウトプットを生み出そうとしていた形跡が各作品に見られる。
「リアルタイムの海外の音楽を意識しながら独自性を付加した楽曲を発表する」という価値ある取り組みを続けていたSPEEDだが、その存在感が発揮されるのに大きな役割を果たしていたのが、スクールで鍛え上げられた歌とダンスである。数多の歌番組で大人たちに混ざってハイレベルなパフォーマンスを堂々と披露する彼女たちのステージには、新世代の胎動とも言うべきワクワク感がいつも充満していた(筆者は新垣仁絵と同じ学年ということもあり、そんなエネルギーを特に強く感じていたのかもしれない)。