ローレル・ヘイローからマイルス・デイビスまで 小野島大のエレクトロニックな新譜10選
2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜を紹介します。
まず紹介したいのは、ポストダブステップ的テクノ/エレクトロニカで知られる英国のローレル・ヘイロー(Laurel Halo)の新作ミニアルバム『Raw Silk Uncut Wood』(Latency)です。どういう経緯かフランスのレーベルからのリリースですが、この才女の研ぎ澄まされた感性の鋭さが痛いほど伝わってくるような大傑作になりました。シンフォニックでアブストラクトな現代音楽的アプローチによる静謐で幽玄なアンビエント〜ドローンで、現実と幻想の境目で浮遊しているような非日常感覚がたまらなく魅力的です。ドキュメンタリー映画の音楽制作の経験、そして老子の『老子道徳経』からインスパイアされたということですが、チェロ、ピアノやドラムなどの生楽器と電子楽器を巧みに融合して瞑想的な世界を作り上げています。これまでの作品も良くできた佳作揃いでしたが、これはレベルが違う感じ。恐れ入った才能です。30分余りと短い収録時間ですが、今年度を代表する作品になるのではないでしょうか。
今年6月に突如日本公演を行った英国エレクトロニカ/IDMのベテラン、オウテカ(Autechre)の新作『NTS Sessions.』(nts.live / Warp / Beatink)です。
前作『elseq 1-5』も4時間を超える大作でしたが、今作は全36曲8時間超というとんでもないボリューム、しかも全部新曲というから、その創作意欲には頭が下がります。4月に行われたラジオセッションの音源をコンパイルしたもののようですが、長い曲は1時間近くにも及びます。その場での即興もあるのかもしれません。徹底して硬質で冷ややかでダークで斬りつけるようなカッティングエッジで変則的な電子ノイズが8時間以上もの間絶え間なく襲いかかってくる。修行でもしているような気分になってきますが、漆黒の闇で行われる彼らのライブがそうであるように、これは一種の恐怖を伴った「体験」と言えます。白昼夢のようなアンビエントドローンノイズが1時間近くにもわたって展開する終曲「all end」など、ほとんどサイケデリックです。ライブと同じように、部屋の電気を消して爆音で聴けば、「第三の眼」でも開いてくるかもしれません。生楽器との融合だの歌ものだの踊りやすい四つ打ちだのポップなメロディだのを一切排除した、徹底してストイックでシリアスなピュアエレクトロニックミュージック。その揺るがぬ意思の鋼鉄の強さには圧倒されます。6月の日本公演は音の小ささや観客の態度(照明を消した暗黒ライブなのに、スマホを見てる客多数)に不満が残ったので、ぜひ近々の来日を期待したところ。
ハイレゾ(24bit/44.1kHz)、アナログ12枚組、CD8枚組の3種で発売。デザイナーズ・リパブリックがデザインしたジャケも含め、これはもうコンテンポラリーアートそのものといえるでしょう。限定日本盤は8月24日発売です。
シリアスな作品が続いたのでとびきりポップなやつを。DÉ DÉ MOUSEの新作『be yourself』(not records)。フィルターハウスや80年代ディスコやユーロビートなどを意識して作ったということですが、弾けた感じのアッパーでキラキラした開放的かつ青春的なダンスミュージックに仕上がっていて最高に楽しい。インタビューによれば(https://ototoy.jp/feature/20180802)、いろいろ裏ストーリーやメッセージを含んだ内容のようですが、そんなことは知らずとも、この楽しさは伝わるはず。このアーティストの美点が見事に凝縮された傑作で、京都では8月、東京では9月に予定されているライブも期待できそうです。
DÉ DÉ MOUSE / be yourself