渡辺志保の新譜キュレーション 第15回
ビッグ・フリーダ、ドレイク、ワイファイズフューネラル……真夏のバウンシーなヒップホップ5選
そんなドレイクが6月末に発表したアルバム『Scorpion』の中から、特にヒットしているのが「In My Feelings」というシングル。シギーという、インスタグラムなどで人気のユーザーが発明(?)した同曲の振り付けを行う「#InMyFeelingsChallange」の爆発的ブレイク(ドレイク本人を始め、ウィル・スミスまで!)も伴って、現在、世界中のチャートを席巻中です。
この曲も、思いっきりニューオーリンズバウンスのテイストを取り入れており、ニューオーリンズを代表する人気ラッパーであり、ドレイクのボスでもあるリル・ウェインのヒット曲「Lollipop」や、同じくニューオーリンズを代表する女性ラッパーのマグノリア・ショーティーによる「Smoking Gun」のサウンドをサンプリングしています。他、マイアミを拠点とする女性MCデュオ、City Girlsの声ネタを加えており、JTとリーシャ、City Girlsそれぞれの名前もリリックにも織り込むという巧者っぷり! MVもニューオーリンズで撮影され、ビッグ・フリーダやシギー、City Girlsのリーシャ(MCネームはヤング・マイアミ)らもカメオ出演している豪華な内容です。
そして、こうしたニューオーリンズバウンスの波は若者の間でもキているようです。ニューヨークに生まれ、現在はフロリダを拠点としている新鋭ラッパー、ワイファイズフューネラルがリリースしたアルバム『Ethernet』(MC名によく合った、ぴったりのタイトル!)からのリード曲として発表された「Juveniles」は、ワイファイとともに、XXL誌の「10 FRESHMEN」企画に選出されたYBNナミアーを迎えたバウンスチューン。
なんとここでは、ニューオーリンズを代表し続けるヒップホップレーベル、キャッシュ・マネー・レコーズに所属する地元の人気ラッパー、ジュヴィナイルの「Back That Azz Up」を思いっきりサンプリングしています! この楽曲、1998年に発表されて以来、ケツ振りチューンの殿堂入り楽曲と言っても差し支えないほどで、特徴的なライミングやトラックは幾度となくサンプリングされたり引用されたりしている超定番アンセムなんです。最近ではお騒がせMCのシックスナイン(6ix9ine)も「KEKE」でそのまんまフロウを引用していました。実は私も今年の6月にニューオーリンズへ行ってきたばかりなのですが、ニューオーリンズの中心部にあるバーボンストリートの酒場で、DJがこの「Back That Azz Up」をプレイし、その間MCがステージ上に女の子を呼び込み即興のケツ振りオーディションを開催しているほどでした。ちなみにワイファイくんは1997年生まれとのこと。ネタ元の楽曲が生まれたのとほぼ同じ頃です。しかも「Juveniles」のアツいところは、「Back That Azz Up」のアウトロ的に使われているリル・ウェインのラインを引用してバースをスタートさせているところなんですよね。思わず「そこかよ~!」とニヤリとしてしまいました。この辺りは、プロデューサーのジャリル・ビーツによる仕掛けなのでしょうか。『Ethernet』に収録されている「25 Lighters」は、ヒューストンラップのクラシックである同名曲を引用していますし、色々とサウス偏重心をくすぐられてしまいます(このフレーズはケンドリック・ラマーも「Backseat Freestyle」で引用していましたね)。