ニューアルバム『Gracia』インタビュー

浜田麻里が語る、音楽的快感を作品に求める理由「同じ自分で居続けるのが面白くない」

 浜田麻里のニューアルバム(通算26作目)『Gracia』が凄まじい。ここ数作続いていたヘヴィメタリックな音楽性をさらに突き詰めた、究極とも言えるハードでヘヴィでアグレッシヴでパワフルなロックアルバムに仕上がっているのだ。仕掛けと展開の多い恐ろしくテクニカルで変則的な楽曲を、マイケル・ランドウ、ポール・ギルバート、クリス・インペリテリ、ビリー・シーン、グレッグ・ビソネットといったLAの超一流ミュージシャンが正確無比に演奏。さらに強烈なのは浜田のボーカルだ。技巧の限りを尽くしたパワフルなハイトーンのボーカルが時にソロで、時に多重録音による分厚いコーラスで突き抜けるように駆け上がっていく様子は「快感」以外の何ものでもない。そして彼女のもうひとつの持ち味でもあるメロディアスでメランコリックでスケールの大きなバラードもたっぷり聴ける。ハードなロックとソフトな楽曲のバランスが完璧だ。

 今年デビュー35周年を迎えたベテランなのに、歳を重ねて丸くなったり渋くなったり枯れてきたりする様子は全くない。むしろそれどころか、キャリアを重ねるにつれさらに攻撃的に、エネルギッシュに、挑戦的になっている。声は昔から衰えるどころかどんどん凄くなっている。音域など昔よりも広くなってると思えるほどだ。女性ロックシンガーとして、浜田麻里は世界的に見ても前人未踏の域に達している。

 間違いなくここ最近の浜田麻里の最高傑作であるばかりか、今年を代表するアルバムになるのは間違いない。しかしいざ話をしてみれば、ギラギラした欲や威圧感など全く感じさせない、おっとりとして穏やかな話しぶりは相変わらずだった。(小野島 大)

 “今の自分にしか作れないもの”にしたい

ーー凄いインパクトでした。これ、大傑作だと思います。浜田麻里をよく知っている人もそうでない人も驚くと思います。

浜田麻里(以下、浜田):そうですか。ああ良かった!

ーー2年7カ月ぶりの新作が、古巣・ビクターレコードに28年ぶりに復帰しての一作になりますね。

浜田:そうですね。初期のビクター所属の時代から結構時間がたってるので、自分としては新たなところに移籍する感覚で選ばせてもらったんですけど、でも戻ってきたらやっぱり昔の匂いもあるし、安心感もおぼえますね。

ーービクターへの移籍はいつごろ決まってたんですか。

浜田:正直いうと、アルバムの制作の開始の方が先ですね。レコーディングのブッキングをやりながら心を決めたというか。

ーーなるほど。今回の作品の制作はいつごろスタートしたんでしょうか。

浜田:徳間ジャパンの最後の作品がライブのブルーレイだったんですけど(『Mari Hamada Live Tour 2016 “Mission” 』2016年2月発売)、その編集が終わってから取りかかって、約1年半ぐらいで制作しました。

ーーこういうものにしたい、という構想はあったんでしょうか。

浜田:デビュー35周年記念盤でもありますし、“今の自分にしか作れないもの”にしたいという気持ちはまず、ありました。

ーー集大成というよりは、今の浜田麻里を表すもの。

浜田:そうですね。

ーー今回は完全LAレコーディングという形になるわけですか。

浜田:ほぼそうなんですけど、日本でもいっぱい作業してますんで。昔みたいに何カ月も行きっぱなし、みたいなレコーディングではなく、行ったり来たりしながら。日本のエンジニアにお願いしているところもあります。高崎(晃)さんや増崎(孝司)君のギターは日本で録りましたし、歌は自分のプライベートスタジオで録ってますから。

ーーでも音の抜けやクリアさが前作とはかなり違う印象を受けました。

浜田:そうですね、はい。

ーーやはりアメリカ西海岸の音という感じがします。乾いていてスカッとしていて、とてもいい音で鳴っている。

浜田:ありがとうございます!

ーーミュージシャンのブッキングもご自分でなさったそうですね。

浜田:基本的には自分でやってます。まとめは、アメリカのエンジニアに委ねることもありましたけど。後半のオファーは一部、ビクターの窓口から。私の担当が洋楽のトップにいた方になったので、ミュージシャンの連絡先を調べてコンタクトしてもらい、私が引き継いで、そこからは直でやりとりしてます。

ーーそこまでご自分でやられてるんですね。ここ数作のレコーディングは同様の態勢ですか?

浜田:やり方自体はほぼ同じですけど、今回はほとんどのミュージシャンが外国人になってますね。

ーーあえて海外のミュージシャンを起用する理由があったわけですね。

浜田:世界視野で、今自分の作品に誰が必要かっていうところで選ばせていただいたんです。おこがましいですけど(笑)。高崎さんや増崎君も、日本人だからというより、ワールドワイドな視点で考えて、自分にとってベストなミュージシャンとして選択させていただきました。

ーー今作は「今の浜田麻里」を表現した作品で、ミュージシャンも「今の浜田麻里」を表すのに適任な人材を選んだということですね。「今の浜田麻里」とはどういうモードなんでしょうか。

浜田:ここ10年ぐらいなんですけど、結構ハードというかエッジィな感じになってたので、今回もよりハードに、というのが第一です。でもそれだけでは私じゃないので、幅も持たせて、対極にあるような曲も作っていく。より広がりを持たせつつ、ハードなところはよりハードに、というところでしょうか。基本的にはギターサウンドで、よりハードに、よりテクニカルに。

ーーお言葉通り、今作はハードロック/ヘヴィメタルといっていい内容だと思いますが、ご自分の指向がそうなってきた理由を改めて教えていただけますか。

浜田:周りからの影響とか、そういうのは全くないんですね。やっぱり“内なる自分”がなんかこう、攻めの姿勢になってるというか。その精神性を強く表現した曲をどうしても作りたい、という気持ちの流れの中から自然に出てきたんですよね。

ーー自分の精神性を強く表現したい。

浜田:そうですね。“強めのタッチ”の表現。歌のスタイルもそうですし、サウンド傾向もそうですし、歌詞の内容も含めて。そうなるとどうしてもハードなサウンドの曲が作りたくなってくる、ということですね。

ーー「強く表現したい」と思うようなものが、ご自分の中に湧き上がってきている?

浜田:そうですね……うまく言葉が見つけられないですけど、今の社会状況の中で、少し攻撃的な気持ちにはなってる気がします。

ーーあまり雑に一般化するのは良くないですが、アーティストは年齢を重ねキャリアを積むと、だんだん練れてきて丸くなり、表現も柔らかくなっていく傾向が強いと思うんです。でも麻里さんは逆にどんどん尖ってハードになっている。

浜田:(笑)。そうなんですよ。おかしいんですよ。

ーーそれだけ燃え上がるようなものがなにかあるんでしょうか。

浜田:なんでしょう?(笑)。ほんとに自然なんで、原点回帰しようとか、気をてらったものにしたいとか、そういう感覚もなく。

ーーヘヴィメタリックになっているとは言っても初期の感じとは全然違いますよね。

浜田:違いますね。初期はわりとシンプルな……今から考えれば、ですけど。でも作品を重ねるにつれ、もっともっと、という気持ちになって、どんどん演奏もメロディの幅も広いものになっていきますからね。どんどんビルドアップしてる感じですね。

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