「テレビが伝える音楽」第7回

『うたコン』番組プロデューサーが語る、“掛け合わせの美学”と“NHKホールから生放送”へのこだわり

「『うたコン』は生放送で心を動かされる体験が得られる番組」

ーー出演者からはどんな反応がありますか。

原田:毎回、「出し切った」という声を多くいただきます。また、あまりこういう番組に出ないアーティストも、出演すると「やって良かった」とおっしゃってくださったり。歌声が目の前の観客に届いて、それが拍手になって返ってくるような、舞台の上の“ライブ感”を出演者のみなさんも楽しんでいると思います。こうしたスタイルで毎週生放送するのは、『うたコン』の個性であり強みです。

ーー『うたコン』での経験が今年の『紅白』にも活かされるんでしょうか。

原田:『紅白』は『うたコン』などで日々の積み重ねがあるからこそ放送できているんです。毎週喜んでもらえる内容を放送できているからこそ、『紅白』でもツボを押さえたアプローチに取り組むことができます。

ーーこれまでの放送で特に印象に残っている企画はありますか。

原田:ここ半年くらいの放送では、作詞家の松本隆さんの特集。日本のポップスの歴史を辿るような作業で、アイドル時代のアグネス・チャンさんから始まって、松田聖子さんや薬師丸ひろ子さん、大瀧詠一さんの名曲もほとんど松本隆さんが手がけていて。演奏するミュージシャンのみなさんにとっても刺激的な回だったんじゃないかなと思います。今年6月にワールドカップを機に放送した、「パワーソング 選手を支えたこの1曲」という特集も印象的でした。普段スポーツ選手がどういう音楽を聴いているか、インタビューなどでは時々流れますが、音楽番組の中で取り上げるのはなかなか珍しいことですよね。色々な選手のエピソードや、ちょっと泣ける話が出てきたり、意外な人が意外な曲に勇気づけられていたことがわかって、興味深かったですね。こんな切り口でできるんだな、と。

ーー中継が入るのも、生放送らしいです。

原田:先日、V6のパフォーマンスでは東京湾を周遊しているクルーズ船を貸し切りにして。ドローンを使って上空から撮影したんですが、ライブ感を熱く表現できましたね。風がすごくて心配になりましたが(笑)。あと、5月に放送した「歌姫スペシャル」ではaikoさんを東京タワー近くから中継したんですが、直前まで雨が激しく降っていて焦りましたね。SEKAI NO OWARIの時もすごい風と雨でしたが、無事に終えられました。毎回思い出があります。

ーー今後取り組んでみたいことは。

原田:毎回新鮮な切り口で届けられる企画を日々考えたいです。もともと日本人って“歌”が大好きで。『NHKのど自慢』は第二次世界大戦が終わったすぐ後、1946年に始まっているんです。混乱した時代でも、人前で歌声を披露したい、好きな歌を歌いたいという欲求が本能的にあった私たちだからこそ、音楽、歌という財産を大事にしていきたい。知らなかった音楽もある方向から光を当ててみるとすごく良い歌だと感じたり、食わず嫌いで聴かなかった楽曲もあるエピソードと一緒に聴くとちょっと感動したり、『うたコン』は生放送でそんな心を動かされる体験が1曲ごとに得られる番組だと思います。

(取材・文=村上夏菜)

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