『未来のミライ』音楽プロデューサーインタビュー

『未来のミライ』音楽プロデューサーが語る、細田守監督&山下達郎との“音楽制作の裏側”

「『おおかみこども』と重なる部分もある」

――そういうやりとりのなかで、北原さん自身が大事にしているものと言ったら何になるのでしょう?

北原:最後の工程まで、関わることでしょうか。映画というのは、最終的に台詞と効果と音楽をミックスしながら映像にシンクロさせていく「DB」、ファイナルミックスという作業があるのですが、私はその作業が大好きなんです。2チャンネルのLRでやり取りしながら作っていった音楽を、5.1チャンネルの立体音像で仕上げていくわけなんですけど、そこで音楽の感じ方や聴こえ方みたいなものも、いろいろ変わってくるわけです。私は、その音楽表現を考えるのがすごく好きでして。この音楽が、台詞と効果の中で、どう響くのかを、いろいろと想像して……。

――音楽プロデューサーというよりも、ほとんど音楽監督の仕事のように思えてきましたが。

北原:実際の音楽監督は、やっぱり作曲家であるべきだと思いますけど、私は全行程に携わる前提で最初から入っているので、それが自分の強みなのかなとは思いますよね。そこまで付き合いながら、現場に介入していく音楽プロデューサーの方は、あまりいらっしゃらないようなので。でも、そこがわからないと、映画の音楽って、なかなか作りづらいところがあると思うんですよね。即決、即断が必要な場面も多いので自分内で行えますし。

 たとえば、「実際に完成したものを観たら、音楽のレベルがすごく低くてがっかりしました」みたいな話を、音楽家からよく聞いたりします。それはなぜかっていうと、映画はやっぱり台詞が主体だからなんです。ただ、しっかり立体音像を考えながら音を作っていけば、全体のフィットの仕方は、いろいろ変えられるところがあって。同じ音楽でも、全く聴こえ方が変わってくるんです。そういう音楽の可変みたいなものが、私にとってはものすごく面白いというか、ファイナルミックスというのはそういうことをやる場なので、映画の見方の主観も客観も変えてしまうぐらい大事な作業なんですよね。実際に劇場で流れる最終的な仕上がりの音像を常に考える。そこがブレなければ大丈夫だとは思っています。

――なるほど。

北原:あと、特に今回の『未来のミライ』は、本当にいろいろな場面があるので、音の仕掛けという意味でも、たくさん面白いことをしているんですよね。音響効果の柴崎憲治さんが、いろんなトライをされていて。

――音響効果の調整もやられるわけですね。

北原:監督と音楽家が、音楽でこういうことをやろうと思っても、映画の場合、そこに音響効果の表現も入ってくるわけですよね。そこで「あれ? 同じ音になっちゃったね」ということが、結構あったりするんです。そういうときに、ここの帯域を譲って、こっちの帯域を使おうとか、音の高低に合わせて、いろいろ住み分けをしたりとか。やっぱり、どちらも音の表現なので、そのどっちを立てたほうが監督の求める場面になるかが重要で。そこからまたディスカッションがあって、それを監督に聴いてもらったら、そこで監督のほうからまた新しい意見が出てきて、違う解釈が生まれていったりとか。音楽も含めた映画の音は、非常に複雑な工程を経た上で、最終的に仕上げられているんですよね。

――ちょっと気が遠くなりそうな作業ですよね……。

北原:そうですね(笑)。さらに、今回の映画に関して言うと、非日常な要素も結構多いんです。日常と非日常のあいだの飛距離がものすごいというか、小さなお話のようでいて、ものすごくユニバーサルなテーマでもありますし。かといって、そこをあんまりデフォルメすると、ちょっとコメディというかギャグになってしまうところもあるので。その音の表現は、高木さんともすごく悩んだし、柴崎さんや録音技師の小原さんともいろいろお話しながら作り上げていきました。

――そう、今回の『未来のミライ』は、同じ高木さんが担当していても、前作『バケモノの子』とは、かなり違ったテイストの音楽になっていますよね?

北原:同じ座組とはいえ、やっぱり作品ごとにトライしたい音楽は違います。『バケモノの子』は、どちらかと言うと、エンターテインメントの部分を意識しながら音楽を作っていったところがあって。ただ、『未来のミライ』は、どちらかと言うと、ちょっと『おおかみこどもの雨と雪』と重なるところもあるというか、その精神性という意味では、そちらに近いと思うんですよね。パーソナルな部分と、より大きな世界のバランスの取り方という意味でも、非常にデリケートなところを意識しながら作っていったので。そこはひとつ、高木音楽の聴きどころになっていると思います。

――確かに、前半の日常のシーンは、非常に高木さんらしい繊細な音楽になっていたように思います。

北原:あとは、やっぱりインデックス・シーンですよね。あのシーンで、ああいう音楽を書けるのは、本当に高木さんならではというか、あのくだりのテーマも、非常に苦労してできたものなので、そこの場面は是非、聴いていただきたいところですね。

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