『ULALA TOUR 2018』ファイナル公演レポート
ビッケブランカ、ライブで爆発させた有り余るエネルギー ビッグスケールで魅せたツアー最終公演
オーケストラの壮大な映画音楽風の曲が流れるなか、ステージ上はライトがついたり消えたり。紗幕の向こうには定位置にスタンバって演奏を始めるバンドメンバーたちの姿が透けて見えていて、オープナーの途中でその紗幕がストンと落ちると、歌いながら勢いよくビッケブランカが前に飛び出してきた。「出方、いろいろ考えてるんすよ」「マイケルみたいに下からポーンと飛び出すやつとかもやりたいっすね」みたいなことを数年前のインタビューで話していたが、どうやらこれも気に入っている登場の仕方のようだ。
メンバー全員が薄ピンク色のツナギ(フライトスーツ)を着用。鍵盤担当のにしのえみはツナギじゃなくミニのワンピだが、色は一緒。ビッケはキャップもかぶり、ステージ後方には5機のヒコーキがやはりピンクで描かれいた。いや、なかなかいませんよ。全身薄ピンクの衣装が似合って、同色で揃えたメンバーたちを引き連れ歌うシンガーソングライターなんて。春の色だし、ウララのツアーだからってことなんだろうけど、ヘタしたら昭和のアイドルグループみたいにならなくもない。あ、そういえば「ウララ」は昭和歌謡を意識して作ったと言ってたから、そういうひっかけもあるのかな。わからんが、何しろそんな爽やか色の衣装で歌ってもまるで違和感がないのがビッケであって、むしろこれが原色だったら、あの濃いめのパフォーマンスだけにちょっとトゥーマッチかも……と思いながら観始めた。
ちなみにそんなことを考えつつ聴いたオープナーは『ウララ』のカップリングに収録されていたチア感ありの「Get physical」で、これで始めるあたりもまた大胆やねぇなどと思った。曲は「Natural Woman」から初期曲「Bad Boy Love」へと続き、同曲ではパッパッパーというコーラス部分にくると鍵盤のにしのえみが両手でパッパッパーとやり、観客のみんなもそれを真似ていた。彼女はこうしてちょっとした動きで観客を一体にする役割も果たしている。ビッケと共に、ある意味バンドのツートップ。なくてはならない存在だ。
いや、なくてはならないのは、井手上誠(Gt)も、大澤DD拓海(Ba)も、若山雅弘(Dr)も一緒。今回観ていて強く思ったのは、バンドアンサンブルの強度がグッと増していることだった。ツアーファイナルってこともあるだろうが、5人が完全に一体となった音の鳴りはグルーヴを伴って観ているこちら側を巻き込むよう。インディーズ時代からビッケのライブを観ているが、バンドサウンドとしての強靭さは今回が過去最高だと感じられた。そしてそういうバンドサウンドにのせ、でっかく歌うビッケの歌唱のパワーたるや。
4曲目はビッケのピアノのイントロから一気に跳ねたくなる「アシカダンス」。サビ前の「ワン・ツー・スリー」のカウントを合図に観客たちはハンズアップで応え、続いてジャジー&ファンキーなテイストありの「Alright!」へ。この段階で既にインディーズ時代の初作『ツベルクリン』から2曲やってるわけで、つまり『FEARLESS』の収録曲は前回のツアーなどでたっぷり歌ってきたことだし、今回はインディーズ期のいい曲もいろいろ聴かせたいといった気持ちでセットリストを組んだのだろう、きっと。
といっても『FEARLESS』からも当然やるわけで、続いてはそこから「Broken」と「 Want you back」を。「Want you back」では観客に“ア~ハ”の声を一緒に出してほしい、いやもっと大きく出してほしいと促し、一度やってみたあと「ちょっと早い人がいるんですよね。音楽っていうのはリズムですから」とビシっと言って再トライしたりも。さらに最後のフレーズ〈Aha Aha Booyakasha〉で曲が終わったかと思えば、すぐにまたそこを繰り返し、今度こそ終わったかと思えばまたそれを繰り返し……結局5~6回やっていたか。この場面や、(10曲目「TARA」のあとの)大学の後輩ベーシストである大澤DD拓海いじりの繰り返しなどに象徴されるように、ビッケは天丼(同じフリやボケを何度か繰り返して笑いをとる手法)が大好きなのだ。そういえば場面の転換時に照明が徐々に明るくなる際、自分がコントロールしているかのように両手をス~っと広げるアレも相当気に入ってるようで、何度もしていた。
ライブの中盤となる8~10曲目はピアノ弾き語り(一部バンド入り)。弾むミディアム曲「SPEECH」、英語詞によるバラード「Your Days」、そして切なさがたまらない「TARA」と3曲を続けた。ここはもうピアノマンとしての本領発揮コーナーとでも言おうか。筆者はビッケの抒情的なバラードが大好物であり、わけても「TARA」はビッケの全楽曲のなかでもトップ3に入る大名曲だと思っている。この夜もビッケはとても気持ちをこめて歌っていたから、それはもう心に沁みまくった。因みに「SPEECH」と「TARA」はインディーズ期の2作目『GOOD LUCK』に収録。先の「アシカダンス」、終盤の「ファビュラス」を合わせるとそこから4曲も演奏されたわけで、改めて「あれ、粒ぞろいのいいアルバムだったよなぁ」と思い返すことにもなった。
続く「Stray Cat」でバンドと共に再びギアを入れ、ビッケは「新しいことにチャレンジしたいと思います」と言いながら変形ギターの代表格であるエクスプローラーを手に。「オレについてこいや!」と衝動的に叫んだあと、こういう場面でロッカーが口にしそうなセリフを観客に尋ね、誰かが言った「やれんのか、渋谷~」といった掛け声をシャウトすることで無理やりロッカーになりきると、そのままビッケ初の激しめギターロック曲「Black Rover」に突入した。高校時代にLinkin ParkやLostprophetsといったバンドにハマってギター&ボーカルを担当していた彼であるゆえ、ビッケブランカとしては初の試みであっても、ギターを弾いて歌う姿は様になったもの。間奏では井手上誠とギターバトルを繰り広げ、会場内の熱もグンと上昇した。
ここからはもう誰にも止めることのできないパーティモード。「Moon Ride」「Slave of Love」ときて、代表曲「ファビュラス」へ。いつもそうだが、この曲の頭、「ドーンスドーンスドーン」ときて「ヘイ!」と叫ばれる瞬間、多幸感が自分の内側から噴火するような感覚がやってくる。そしてサビに至って実感するのだ。ああ本当に人生ファビュラスじゃないかと。キラーチューンとはまさにこのこと。そのときカラフルな多数の風船が観客たちの頭上で弾み、それもまたそこにいる全員の気分の高まりを表わしているようだった。さらに間髪入れず、新たな代表曲となった「ウララ」へ。あの口笛と“オ~マイ”のあとのピアノによるイントロから昂揚感を誘ってくる。「ファビュラス」のあとで一拍おいたりMCを挿んだりして勿体つけるのでなく、間髪入れずにそのイントロに移ることこそが肝心であり勝因でもある。高くあげた手を大きくふる観客。高くジャンプする歌い手。ビッケ史上最高にラジオフレンドリーな同曲は、かくしてライブで最高の盛り上がりを生む曲であることも証明された。