Yaeji、Peggy Gouらアジア系女性プロデューサーになぜ脚光? “異文化間のギャップ”越える存在に

Qrion

Qrion『Trip EP』

 札幌出身のプロデューサー、Qrionは、高校時代にリリースした2枚のEPで名を上げ、2014年には日本のシーンと交流が深いカナダのプロデューサー、Ryan Hemsworthとコラボレーションし、国内外での評価を確立。アメリカツアーやSXSW出演を果たしたのち、2016年、サンフランシスコに移住した。トラップを基調としたベースミュージックにエモーショナルな展開を持ち込むセンスが彼女の持ち味だが、NYLON誌やRedbull Radio、The FADERのポッドキャストにフィーチャーされた際には、環境音からアコースティックなサウンドまでを自在に取り入れるプロダクションも高く評価された。めざましく活躍する日本の若手プロデューサーを代表するひとりと言えるだろう。

Qrion - Crystal (Official Music Video)

Sapphire Slows

Sapphire Slows『Time』

 2011年の東日本大震災をきっかけに、ミュージシャンとしてのキャリアを開始した東京のプロデューサー、Sapphire Slows。80年代のシンセポップと90年代のIDMの実験性を融合させたような彼女の楽曲は、エクスペリメンタルなエレクトロニックミュージックとして、無国籍的な普遍性を持っている。たとえば、彼女もしばしば自身のボーカルを楽曲にフィーチャーするが、それは自らのアイデンティティを主張するよりも、深いリヴァーブに包まれて、テクスチャーのひとつにまで溶解してしまう。これまでのリリースは欧米のメディアやミュージシャンからも注目を浴び、最近では、2017年にリリースしたミニアルバム『Time』からの先行曲、「The Edge of My Land」がThe FADERから“ブレイクスルー”と評され、今後の発展に期待が高まっているところだ。

Sapphire Slows - The Edge of My Land

 今回紹介したプロデューサーたちは、ダンスミュージックの持つ快楽性や匿名性の力をポジティブに活用し、性別や民族のバリアを乗り越えようとしている。ダンスミュージックのなかに言語というフックを効果的に持ち込むYaejiやPeggy Gou、異ジャンルとのコラボでポップスターとしての存在感も持つCIFIKA、ストイックな音作りでキャリアを着実に築くQrionやSapphire Slows。華やかなK-POPやKAWAII文化の浸透がアジア文化の世界的な認知度を高める一方で、そうしたきらびやかなキーワードからこぼれ落ちる、アイデンティティをめぐる繊細な問いを、彼女たちの活動は投げかけている。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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