THE CHERRY COKE$が新アルバムで提示した“答え” 新体制で進化を遂げたサウンドを分析
THE CHERRY COKE$が、8thアルバム『THE ANSWER』を6月13日にリリースする。シンプル且つ意味深なタイトルには、昨年“ニューアルバムという形ではなく、ライブで新曲を初披露する”という方針のもと行われたツアー『THE LIVE』の“答え”が詰まっているとのことだが、私には、もっと大きな「THE CHERRY COKE$とは何ぞや?」という問いに対する“答え”も詰まっているように思えてならない。
そう思った理由のひとつに、ここ数年、彼らが何度かのメンバーチェンジを経てきたことが挙げられる。2015年にリリースされた前作『THE CHERRY COKE$』も、メンバーチェンジを経たからこそ、改めて自分たちに向き合い、セルフタイトルを掲げたアルバムだった。あれから3年、さらなるメンバーチェンジがあり、現体制に落ち着いたのは昨年12月のこと。歌詞を含めた“チェリコ号の世界”をフロントで引っ張り続けるKAT$UO (Vo)。ほとんどの楽曲の作曲を務めるMASAYA(Gt)。加入4年目ながらリズム隊を引っ張るLF(Ba)。紅一点となり、新たな役割を担うこととにもなったsuzuyo(A.Sax・T.Whistle)。彼らの音楽性の肝でもあるアコーディオンを奏でる、2016年加入のMUTSUMI(Accordion)。そして昨年12月に加入したばかりのTOSHI(Dr)……と、傍から見ていてもメンバー6人全員が奮闘していることが伝わってくる。しかし、今作には無理な背伸びはまったく見当たらない。今だから、この6人だから鳴らすことができる言葉と音が、伸びやかに翼を広げているのだ。
改めて記しておくと、THE CHERRY COKE$は、1999年に結成されたアイリッシュパンクバンドだ。当時から今まで、日本の音楽シーンにおいてアイリッシュパンクバンドは稀有な存在であり、国内外において圧倒的な支持を集めている。アイリッシュパンクの第一人者と言えるFLOGGING MOLLYとの親交も知られており、昨年は彼ら主催の『Salty Dog Cruise』というカリブ海クルーズツアーに、アジア圏のバンドとして初出演したことも記憶に新しい。
とは言え、アイリッシュパンクのみならず、彼らは様々な音楽に影響を受けてきたバンドだ。これまでのディスコグラフィを振り返ると、彼らはあえてアイリッシュパンクど真ん中を避けた楽曲も数多く生み出してきた。しかし今作においては、彼らが初期からライブで欠かさず演奏してきたアイリッシュトラッドのカバー「John Ryan’s Polka」や、同じくアイリッシュトラッドのカバーで、The Poguesなど数多くのバンドが演奏してきた「The Irish Rover」が収録されているところに象徴されているように、彼らはアイリッシュパンクど真ん中に向き合っているのだ。それができるようになった理由は、聴けば明白。どちらも、彼らのオリジナルに昇華されているのである。聴いた瞬間に彼らのライブが思い浮かぶ「John Ryan’s Polka」、そしてスピーディーなアレンジに「最新型アイリッシュパンク」と名付けたくなる「The Irish Rover」。アイリッシュパンクに敬意を表しながら、自らの技巧や精神を奔放に発揮したかのような、高揚感溢れる仕上がりだ。
また、「最新型アイリッシュパンク」は、オリジナルソングにおいても息づいている。特にめくるめくスピードで展開していく前半は圧巻だ。勇ましさと柔らかさ、トラッドとキャッチー、そんな両面が感じられる「No Man, No Cry」。彼らのライブの雰囲気をストレートに言い表した“ドンチャン騒ぎ”を曲名に冠し、さらに三三七拍子を取り入れ、日本のトラッド(!!)とアイリッシュを融合させた「Dong Chang Swag」。イントロからアコーディオンとアルトサックスが高速で引っ張る「Gypsy Moon」。血沸き肉躍るフットボールソング「Fight For The Pride」。――どれも、自由なセンスと遊び心、そして確固たる知識と実力がなければ生み出せなかったであろう楽曲ばかりだ。