小野島大の新譜キュレーション 第17回
serpentwithfeet、デビューアルバム『soil』で今最も注目されるべき存在に 小野島大の新譜8選
2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜をご紹介します。
以前この欄でEPを紹介したボルチモア出身のシンガーソングライター、サーペントウィズフィート(serpentwithfeet)ことジョシア・ワイズ。そこで「今フルアルバムがもっとも待たれている」と書きましたが、2年たってようやく『soil』(Tri Angle Records / Secretly Canadian / Hostess)が完成しました。期待に違わぬ傑作です。NYのクィア・ミュージック・シーンから出てきた人ですが、幼い頃から地元の聖歌隊に所属し、フィラデルフィアの芸術大学でボーカルパフォーマンスを学んだ経歴を持つ実力派。昨年ビョーク「Blissing Me」のリミックスにボーカルとしてフィーチャーされ話題となりました。
貴重なインタビューはこちら。発言は案外普通です(笑)。
今作の共同プロデュースはアデルやU2、マーク・スチュワートを手がけた売れっ子ポール・エプワースで、レーベルの期待がうかがえます。
ゴスペルやクラシカルな要素のあるエクスペリメンタルなエレクトロニックR&Bという路線は変わりませんが、EPと比較しても、すべてにわたって完成度を高めています。アノーニを思わせる中性的なボーカル、厚みのある古典的なオーケストレーションと、ノイジーで刺激的なエレクトロニックの融合が美しく新鮮。今年のフジロックにも出演決定。今もっとも注目されるべき才能です。
この欄でも何度も取り上げてきたNY在住のエレクトロニックR&Bのプロデューサー/シンガーソングライター、クライン(Klein)のニューEPが『cc EP』。前作はロンドンの老舗<Hyperdub>からのリリースでしたが、今回は彼女自身の自主制作によるもののようで、配信のみのリリースです。これまで以上にエクスペリメンタルでノイジーでケオティックな音響アートが展開されていますが、フリークアウトした狂気の音像でありながら、最終的には辻褄があって美しく収束していく様子は、まさしく乱調の美。恐ろしいほどの才能だと思います。Bandcampで買えるダウンロード(CD音質)は、謎の静止画つきの楽曲がボーナス?でついてきます。
レオン・ヴァインホール(Leon Vynehall)は、早くからその才能に注目が集まっていた英国のDJ/プロデューサー。その彼が<Ninja Tune>に移籍して発表した1stアルバム『Nothing Is Still』(Ninja Tune / Beat Records)は、出色の大傑作に仕上がりました。フォー・テットやフローティング・ポインツなどとも比較される甘美にしてロマンティックなディープ・ハウスがダンス・フロアで高く評価されてきましたが、アルバムではあえてダンス・ビートを封印し、ミニマルでドリーミーなダウンビート〜ミニマル・エレクトロニカ〜アンビエント〜ドローン・サウンドを提示しています。10人編成のストリングスなど生楽器と電子楽器と現実音を絶妙にレイヤーしたアブストラクトでジャジーなストラクチャーと、デリケートで繊細なテクスチャーが完成度高くバランスした世界はセンス抜群です。6月15日発売。
UKブリストルのレーベル<BANOFFEE PIES>からの一作は、謎のアーティストHow Du(ハウ・デューと読むのでしょうか)の1stアルバム『The Landing』。これまでカセットテープのみで作品を発表していたという経歴からもわかる通り、いわゆるローファイ・ハウスに分類されるアーティストで、ダブステップやエレクトロ、ブレイクビーツ、UKガラージなどを複合したディープでスピリチュアルなUKベース〜ミニマル・ハウス〜ダウンビート・エレクトロニカを展開しています。マッシヴ・アタックやポーティスヘッド以来のブリストルの伝統を感じさせる静謐でスピリチュアルな音像がクセになる逸品ですね。