橘慶太×☆Taku Takahashi対談【後編】 日本でダンスミュージックを作る難しさと将来のビジョン

橘慶太×☆Taku Takahashi対談【後編】

 3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。彼が作り出す現行のダンスミュージックの潮流を捉えた洗練されたサウンドは、国内外問わず多くの評価を獲得している。

 リアルサウンドでは、そんな橘慶太がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載をスタートした。第1回は、DJ、プロデューサーの☆Taku Takahashi(m-flo)をゲストに迎えた対談を前・後編でお送りする。後編では、ダンスミュージックの要である“低音”やボーカルディレクションに対する考えを中心にトークを展開。最終的にはマルチに活躍する二人が描く将来のビジョンにまで話が及んだ。【前編はこちら】(編集部)

「海外っぽいサウンドをやるとマニアックと言われていた」(慶太)

☆Taku:そもそもの話になっちゃうんですけど、w-inds.ってどうやってできたんですか?

慶太:僕は福岡県出身で、15歳の時に事務所のシンガーのオーディションを受けるために上京してきたんです。そのオーディションで僕が受かったタイミングと、今のw-inds.のメンバー2人が通っていた北海道のアクターズスクールからこっちに呼ばれたタイミングが一緒で。社長がその3人を並べて、「これだ!」って言ったのがきっかけですね(笑)。最初、僕はギターを弾いて、1人でデビューするって言われてたんですよ。そのオーディションで受かった時に商品券をいただいたんですけど、「それで、お前はギターを買え」と言われ(笑)、自分の欲しいものも買わずにギターを買ったんです。で、ギターを3カ月くらい一生懸命練習して、ついに「東京に来い」と言われて行ったら、ダンスグループだった……っていうのがスタートですね。

☆Taku:「話違うじゃんかよー!」ってならなかったんですか? 

慶太:思いましたね(笑)。3人並べて「これで歌って踊るんだ」って。でも、その時ダンスもやっていたし、デビューすることがなによりも夢だったので、まずはデビューできることがうれしかったんです。

☆Taku:本当はギターを持って歌うはずだったってことは、最初はもうちょっと違う音楽をやると思っていた? w-inds.の音楽にもいろんなサウンドがありますけど、ギターを弾いて歌うのとはちょっと違いますよね。

慶太:全く違いますよね! 最初は僕、全く曲作りもしていなかった状態で、とにかく歌と踊りを一緒にやるところからのスタートだったので、音楽の方向性についてのこだわりも特になかったんです。それがデビューして、どんどん音楽が好きになっていって、自分で作るようになって。ついに自分でミックスダウンまでできるようになって。

☆Taku:自分でミックスダウンまですることに対して、周りの反対はなかったですか? あるいは心配されることはなかったですか?

慶太:最初はありましたね。でも、そもそも自分はミックスへのこだわりが特に強かったんです。変な話なんですけど、自分たちの楽曲が海外で作られたトラックだった時に、日本のエンジニアがミックスする音をいいと思えなかった時期があって。それで自分でいろいろ勉強していくうちに、日本と海外ではミックスの手法が違うということを知りました。

☆Taku:それ、すごくよくわかる話で。外国のアーティストが日本のスタジオに来ると、「スピーカーから出る音の低音がちょっと足りない」と言ってくるんですよ。逆にその状態でミックスすると、足りてないと思って低音を出しすぎちゃう心配があるって。アメリカ人やヨーロッパ人が作る音の完成形の低音の出方と、日本人の着地する音の低音の出方って、やっぱり明らかに違っていて。海外はデモのトラックから低音が出るように作っているし、その文化の違いで着地するとイメージはだいぶ変わってくるというか。例えばデモが送られてきて、「おお! すげー! 低音が鳴ってる! いいじゃん!」と思ってもミックスダウンする時に、「なんか最初のデモと違うな」と思うことは全然よくあることで。

慶太:最初は僕もそこに結構悩んでいて、自分の中の一つのテーマでしたね。本格的なダンスミュージックをずっとやりたいという気持ちがあったし、特にEDMは低音の鳴りがよくないと音がかっこよくない。

☆Taku:アメリカでミックスダウンしたものが流れる場所って、アメリカがメインじゃないですか。もちろん全世界で聞かれているものではあるんですけど。アメリカに行くと、例えば、車の中のスピーカーシステムのチューニングからして低音が体感できるようになっているし、低音がライフスタイルに定着している。でも、日本では低音が鳴っている音楽を聴くことそのものが定着してないということが、一番難しいところだったりしますよね。

慶太:日本は低音が効いている音楽をいいと思える人が少ないということなんですかね?

☆Taku:というよりは、日本はそういったサウンドの出し方がまず習慣にないので定着していないということですよね。アメリカはガンガン音を鳴らすし、ひと昔前の日本の盆踊り大会感覚で音を鳴らしてみんなで踊る。それがそのまま文化・ライフスタイルの中に入っているから自然とポップスでもしっかり低音が鳴っているというか。ただ、日本にはそれがない分、コード進行のメロディアスな部分などアメリカにはない特徴があって、それをアメリカの人たちが面白いと言ってくれる。国によってサウンドの特徴もいろいろありますよね。

慶太:僕はその文化の違いに翻弄されているわけですね。

☆Taku:でもそれは、ダンスミュージックを取り入れる人たちみんなが抱えている悩みですよ。それこそ、アメリカではスピーカーで低音がドンドン鳴らされていた時代、日本の主流はガラケーで音を鳴らして音楽を聴くというスタイルだった。ガラケーで着メロをいっぱいダウンロードしてもらうという中で、低音は特に必要とされていなかったんです。ただ、今、Bluetoothスピーカー、イヤホンやヘッドホンが日本でも普及するようになって、低音やハイエンドの高音などが求められるようになっていますよね。5年前くらいまでは、日本のほとんどのポップスの中で音楽の進化は感じなかったけど、ここ最近、すごく進化してるじゃないですか。クリエイターとリスナーの感覚の溝はまだあるのかもしれないですけど、クリエイターがやりたいこととリスナーが求めていることはだいぶ近づいてきてるんじゃないかな。

慶太:それは、そうかもしれないですね。昔、日本でダンスミュージック、それこそ海外のトラックを使うということを全然やっていなかった時期に、w-inds.は結構早めに海外のトラックメーカーのトラックを使うということをやらせてもらっていて。やっぱり最初はめちゃくちゃ怒られましたもんね。「マニアックなことをやるな」って。基本的に海外っぽいサウンドをやるとマニアックって言われてたんですけど、今はそういうこともだいぶなくなりました。海外のトラックメーカーと一緒に制作する人も増えてきたし、そういう意味では、日本でもダンスミュージックの幅は確かに広がってきたなという実感がありますね。

☆Taku:いろいろと自分の自由な音楽ができるようになるまでの過程って、どうやって変えていったんですか?

慶太:めちゃくちゃ慎重に少しずつですね。やりたいことと求められていること、ちょうどいいところをすり合わせながら。そうすると、少しずつの変化だったら気づかれないっていう(笑)。一気に路線を変えて、スタッフやずっと応援してくれていた人から「変な方向に行っちゃったね」と言われるのはよくないなというのはわかっていたので。

☆Taku:受け手の視点でも考えると、ちょっとね。

慶太:そうなんですよね。自分の中では本当は一気に振り切りたいっていう気持ちもあったんですけど、そううまくはいかないだろうなと。

☆Taku:その時のフラストレーションとはどう向き合っていましたか?

慶太:今、こうやって元気にやってるので、きっとうまくやってこれたのかなと(笑)。当時はかっこいいことを言いたい、大人っぽいことをやりたいという、ちょっとつんつんした自分がいたんだなと今となっては思います。でも、僕も自分の中の葛藤というか……言葉を選ばずに言うと、状況的にも環境的にもテレビに出られる機会も少なかったし、他のグループと同じようなサウンドをやりたくない気持ちがあって。なので、J-POPとは違うところに行きたい、それが自分たちの違いだと背伸びして見せることしか、たぶん自分を保つことができなかったんだと思うんですよね。

☆Taku:結構、厳しいですね、自分に対して。

慶太:自分に厳しいです。すごく(笑)。

「一番の幸せは自己批評を忘れられている瞬間」(☆Taku)

☆Taku:音楽を始めた時、デビューすることのほかに目標はあったんですか?

慶太:最初はキャーキャー言われたいとしか思ってなかったです(笑)。

☆Taku:とても健全だと思います(笑)。

慶太:とりあえず、キャーキャー言われたいし、歌もダンスもうまくなりたいという感覚でしたね。でも今はもうクリエイティブなことが好きすぎて、その腕を磨きたいとか人のプロデュースをしたいとか、そういう思いがどんどん生まれていて。

☆Taku:ひょっとしたら、もう、歌を辞めて、プロデューサーに……。

慶太:って言っても過言じゃないぐらい好きですね。だからスタッフがそわそわするくらいにのめり込んじゃってます(笑)。

☆Taku:でも、辞める必要はないんじゃないんですか? そもそも解散って意味あります?

慶太:いや、僕もよく考えるんですけど意味ないですよね?

☆Taku:やりたい時にやればいいんじゃないっ? って思います。 まぁメジャーレーベルだと契約とかいろいろあるかもしれないけど……それは自分が選んだ選択・約束事なので。

慶太:確かにそうなんですよね。でも、僕本当にプロデュースするのが好きなんです。人の歌を録るのもめちゃくちゃ好きで、歌のニュアンスを人から引き出すのが好きなんですよ。本当にそれは結構今後もやりたいことではあって。

☆Taku:ボーカルレコーディング?

慶太:ボーカルレコーディング、めっちゃ好きです。エディットも好きです。

☆Taku:僕もエディットが大好き。

慶太:本当ですか!

☆Taku:でも、ボーカルレコーディングは一番嫌なんですよ。神経がすり減るから。

慶太:疲れますよね? あれ、何でなんですかね? やっぱり気を使ってるんですかね。

☆Taku:すっごい気を使いません? 自分の生むものじゃないじゃないですか。歌は歌っている人が生むものなので。その中でいいものが出るまで待ち続けなければならないし、相手の心が折れる時もある。そういう時、下手ななぐさめ方をしちゃうと、かえって逆効果になることもある。でも信頼関係は大事だし……。

慶太:自分が作った曲の歌録りは自分でやりたいですよね?

☆Taku:しなくていいなら、僕はやりたくないです。

慶太:でも、そうすると、エディットの時に思った歌い方になっていないこともありません?

☆Taku:エディットでどうにかなる。

慶太:そうなんですか? 例えば「あ」と「を」を繋げて歌っているけど、本当は「あ」と「を」で発音してほしかったっていう時もありますよね? それも、エディットで?

☆Taku:そういうもんだ! ってそれはそれで受け入れます。

慶太:なるほど(笑)。それはもう根本的に僕とTakuさんの人間性が違いすぎるから(笑)。

☆Taku:でもそこで、ほかの遊びを考えるようにしますね。

慶太:違うことで補うというか、ある素材をどうするかっていうことなんですね。

☆Taku:声もボーカルも、要はサンプリングみたいな感覚があるんです。とは言いながらも、録らなきゃいけない時はたくさんあるし、録るんですけどね。僕がディレクションしたから、これが生まれたっていうものはあるし、その時の快感ももちろんあります。多分なんですけど……僕、録るの上手いと思うんですよ。偉そうなこと言ってるような感じかもしれないですけど、わりと客観的に見て、そこそこガイドが上手い方だと思うんです。

慶太:エディットが上手い人は上手ですよね。エディットが上手いということは、全体のイメージをしっかり持っているということですから。

☆Taku:そうですよね。要は工程があって、その工程をどこから攻めるとか、どこを切り捨てるとか。あと、相手にどう伝えるかとか。だからご指名いただければ喜んでやるんですけど、本当はできればずっとお家でパソコンと向かい合って作業していたい(笑)。僕はなんでも客観的に分析できるようにしようとしたがるくせがあって。いいものはいい、悪いものは悪いっていうことをなるべく俯瞰で見られるようにしていたいタイプなんです。常に魂がちょっと上にあるくらいな状況じゃないと、不安になっちゃうというか。

慶太:のめり込みすぎると不安になる?

☆Taku:いや、常に自己批評をしているということであって、のめり込んでる自分は好きですよ。だから逆に僕の一番の幸せは自己批評を忘れられている瞬間なのかもしれないですね。のめり込んでる瞬間。「はまるのが怖い」っていうフレーズが、僕にはわからないんですよ。はまってる瞬間が一番幸せだから。客観性が失われている瞬間ってすごく幸せかなって。だからある意味、僕はすごく気にしいでもあって。相手に悪いなって思わせるのが嫌なんですよ。嫌われるのはまだいいんですけど、相手に申し訳ないなと感じてしまうんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる