Ken Yokoyamaが語る、スプリット盤リリースの意義「当たり前のことをやっても面白くない」
お互いの出してる音の違いが出てる(Jun Gray)
ーー「Support Your Local」は、タイトル通り地元をサポートしようという内容ですが、こういうテーマにしようと思ったきっかけはあるんですか。
Ken Yokoyama:元々は、2010年に『Four』ってアルバムを出した時から思ってることなんですけど、CDが売れなくなって、KEN BANDもライブの集客が落ちた時期もあったんです。その時、世の中が変わっていっちゃうな、と思ったんです。街の風景が変わるなと。KEN BANDのアルバムの出来が悪くて売れなかったんだったらまだいいんだけど、絶対そんなことないんですよ。だんだん(音楽が)必要とされなくなった時期だったと思うんですね。一般的には音楽ソフトの売り上げは1998年がピークで、それ以降下がり続けているというデータもありますけど、僕たちは2010年まで売れてたんです。それ以降にがっくり落ちた。それを実感しましたね。CD業界が斜陽になって、僕はよその業界のことも考え始めるんです。なぜあの業界が衰退していったんだろう、なぜあの商店街がなくなっていったんだろう、とか。その時に「助けて」って言わなかったんだろうか、とか。
ーーなるほど。
Ken Yokoyama:「Support Your Local」という言葉は元々アメリカにあったんですけど、その頃からその言葉が重みを増してきた。ほんというとその前、90年代に自分が(ハイスタで)アメリカツアーをやって、いろんなスケートショップに行くと、彼らがしきりに「Support Your Local」ということを叫んでいて、それがとても眩しく見えたんですね。今でもあるんです。スケートカルチャーには「Support Your Local」というコンセプトが。それがすごく自分のカラダの中に残ってたんですね。それが2010年に音楽業界が、伝えられてる以上に斜陽であることを実感して、その後震災も経験して、地元をサポートすることの大切さとか、助け合うことの大事さとか、そんなことを強く実感するようになって、そういうものが形になった感じですね。
ーー自分の地元の仲間をサポートすることで、自分が困った時にサポートしてくれる仲間が増える。そうして助け合っていくことで、いい状況に持っていけるかもしれない。
Ken Yokoyama:もちろんそうです。僕は常々思ってるんですけど、「情けは人のためならず」なんですよ。人に与えた情ってものは、絶対自分に戻ってくるものだし、逆にいうと、人に情を与えない者に戻ってくるわけないんですよ。
ーーそうですね。
Ken Yokoyama:なのでそんな気持ちも入ってます。
ーー3曲目の「Come On,Let’s Do The Pogo」は、スカのリズムにあわせ、ポゴダンスをしようよと歌うシンプルな曲です。ポゴダンス(主にパンクのライブで、リズムに合わせて上にぴょんぴょん飛び跳ねるように踊る。Sex Pistolsのシド・ヴィシャスが創始者とも言われる)は今や死滅寸前だってことですね。
Ken Yokoyama:そうです。伝統的なパンクロックバンドのライブでしか見られないんじゃないですかね。僕らのライブではまず見ないですから。
ーー確かに。でも古臭いとか時代遅れとか、そんなこと気にせず自由に踊れと。お前はお前の踊りを踊れと。
Ken Yokoyama:そうです!
ーーそしてもう1曲はHANOI ROCKSのカバー「Malibu Beach Nightmare」ですね。これは単にお好きだから、ですね。
Ken Yokoyama:そうですね。カバーをやるときは、できれば自分には作れないような、自分にない要素の曲をピックアップしたいなと思ってます。結局好きな曲ってことになるんですけど。
ーーHANOI ROCKSの自分にできない部分ってなんですか。
Ken Yokoyama:そうすね……HANOI ROCKSは中学生の時から好きなんですけど、HANOI ROCKSみたいになりたいとか、HANOI ROCKSに負けてると思ったことは一度もない。でもこの曲が持つ破壊力は凄かったですね。
Jun Gray:この曲をやるって聞いた時は、そう来たか! と思いましたね。人気ありましたからね、日本で。あのポップさ、キャッチーさは日本人にも通用する。ビジュアルも派手だったけど。
ーー今回はスプリットということで、難波さんのバンドの曲も入っているわけですが、どうお聴きになりました?
Ken Yokoyama:コラムにも書きましたけど、KEN BANDにはないナウさがあると思いました(笑)。
ーー「ナウさ」ってどういうことです?
Ken Yokoyama:マスタリングの時に初めて聴いたんですけど、音圧が凄かったんですよ。それでびっくりしましたね。
ーースプリットだから当然合わせなきゃいけないわけですよね。
Ken Yokoyama:はい、だから合わせるのが大変だったんですよ。彼らはアメリカでマスタリングまで済ませた音源を、曲順並べるだけの段階まで仕上げてきたんですね。僕らは日本でマスタリングして、曲を並べる段階で初めてNAMBA69の音を聴いたんですけど、「うーむ、すごい音圧だなあ、参ったなあ(笑)」と思いましたもん。
ーーそれでどうしたんですか?
Ken Yokoyama:参って、オシマイですね(笑)。どうしたんだっけ?
Jun Gray:結局ウチらの方が少し近づけようとしたけど……単に音圧だけでいったら勝てない。でもそこで勝負してない部分もあるしね。もちろん(音量の)レベル的なところで明らかに差があったので合わせましたけど。
Ken Yokoyama:音量を合わせたってぐらい。
Jun Gray:ナンちゃんの1曲目でブーンとくる低音が、ウチらだとチューニングが違うので一音下なんですよ。そういう低音の部分でも勝てないわけだし。でもそういうところで勝負してないから。
ーーやっぱり「勝負」って意識があったんですか。
Ken Yokoyama:まあね(笑)。マスタリングスタジオって物凄く音がいいんですよ。自宅とかカーステレオでは再生できないようなところまで聞こえてしまうので、なおさらビビったというのもあります。
Jun Gray:まあある程度予想はしてたけどね。ナンちゃんはいわゆるニュースクール系で来るだろうと。ウチらがオールドスクールだとしたら。
ーー難波さんのバンドはそういう指向であると。
Jun Gray:うん。今流行りのイージーコアといわれるような、ナンちゃんがやろうしてるジャンルは、ウチらは全然やろうとしてないし。
Ken Yokoyama:カラダの中にないもんね、ウチら。
ーーそういう指向の違いが、NAMBA69の曲を聴いて感じられたと。
Ken Yokoyama:はい、そうすね。曲と音圧と、すごい整合性があるって思いました。
ーーでもそこで自分たちの個性、良さを再認識したんじゃないですか。
Ken Yokoyama:そうですね。その対比はすごく面白いと思いましたね。
ーー難波さんの感想はお聞きになりました?
Ken Yokoyama:うん、やっぱりKEN BANDの「自由さ」を感じたみたいですね。特に3曲目のスカの曲。途中でフリーなセッションみたいになるじゃないですか。あそことか、「なんでああいうことになっちゃうのかなあ」って。
Jun Gray:健とナンちゃんはハイスタという同じバンドをやっていながらも、指向は違ってて。ナンちゃんはやっぱ新しいものとか好きですごく研究してると思うんですよ。
ーー打ち込みを使った音楽とかやってますもんね。
Jun Gray:そうですね。そういう点で健とは全く違うと思う部分もある。健はやっぱり古いものも好きだし。そういう意味でもお互いの出してる音の違いが出てると思いますね。
ーーハイスタでは、そこらへんの指向の違いはどう調整していたんですか。
Ken Yokoyama:うーん、そこでぶつかったことはなかったですよ。ナンちゃんがハイスタに打ち込みを持ち込んだりNAMBA69でやっているような一音下げの曲を持ち込むこともなかったし。なので衝突することもなかった。
ーーつまりハイスタでやるべきことを、難波さんも横山さんも、もちろん恒岡さんも完全にわかっていた。
Ken Yokoyama:そうですね、うん。今ふと思ったんですけど、HI-STANDARDの場合、3人の中で僕が一番、ハイスタかくあるべしというこだわりが強いのかもしれないですね。サウンド面で。うまく言語化できないですけど……簡単にいうと、新しいものを追わずに、3人の化学反応を楽しむ、というとこかもしれないですね。たとえば曲の長さだったりサイズ感だったりポップさだったり……BBQ CHIKENSみたいな90秒ルールはないけど……ポップというのともちょっと違うんだよな。なんとなくあるんです。自分の中のハイスタ像みたいなものが。そういうものでアルバムを仕上げた気がします。
ーーそのこだわりは健さんが一番強いかもとおっしゃったけど、でもちゃんと難波さん、恒岡さんとも共有できている。
Ken Yokoyama:……はずです。
ーーKEN BANDなりのこだわりは、ハイスタとは別にあるわけですよね。
Ken Yokoyama:うーん、でもハイスタほどはないかもしれないですね。
新しい試みの曲も、結果KEN BANDの音になる(Hidenori Minami)
ーー以前のインタビューで、KEN BANDかくあるべしというこだりは、むしろ健さんよりMinamiさんの方が強いと話されていたのが印象的でした。
Hidenori Minami:うーん、最近それはなくなりましたね。
Ken Yokoyama:昔はあったかもね。
Hidenori Minami:うん、昔の方がありましたね。たとえばクリーントーンで弾く「Yellow Trash Blues」みたいな曲とか、「A Beautiful Song」とか、ああいう新しい試みの曲も、結果KEN BANDの音になるんです。なので最近は全然、そういうこだわりはないですね。昔はロカビリー調の曲とかやらなかったですからね。
Ken Yokoyama:『Sentimental Trash』でだいぶ突破できましたね。
ーー何をやってもKEN BANDになるというバンド力がついた。
Hidenori Minami:そうですね!
ーー今回も曲調が自由でバラバラ。そういうのを許容できるのがKEN BANDなのかもしれません。
Hidenori Minami:その都度、健さんがやりたい音楽を、みんなで力を合わせて作るのが、KEN BANDのもうひとつのコンセプトなので。どんな曲を持ってこようが、とにかくやってみよう、という感じですね。
(取材・文=小野島大/写真=石川真魚)
■リリース情報
『Ken Yokoyama VS NAMBA69』
発売:2018年6月6日(水)
価格:¥1,800(税抜)
〈収録曲〉
1. Support Your Local <Ken Yokoyama>
2. Malibu Beach Nightmare <Ken Yokoyama>
3. Come On,Let's Do The Pogo <Ken Yokoyama> 4. FOR LIFE <NAMBA69>
5. PROMISES <NAMBA69>
6. SONG 2 <NAMBA69>
■ライブ情報
『Ken Yokoyama VS NAMBA69 Tour』
6月22日(金) 仙台 Rensa
6月24日(日) 新潟 LOTS
7月4日(水) 東京 Zepp DiverCity
7月5日(木) 東京 Zepp DiverCity
7月10日(火) 福岡 DRUM LOGOS
7月12日(木) 大阪 なんばHatch
7月13日(金) 名古屋 DIAMOND HALL