『agehasprings Open Lab. Vol.2』レポート

agehasprings『Open Lab.』第二回に感じた“音楽の奥深さをポップに伝えることの重要性”

 ここからは、玉井と百田が録音したボーカルをイベント中にリアルタイムでエディットし、ワンコーラスの音源として仕上げる作業をするため、2人は一旦ステージをあとに。少し休憩を挟み、第二部の飛内将大と遠山によるトークセッションがスタートした。前回は田中隼人が『公開アレンジワークショップ』として、DAWの画面を開きながら、自身がアレンジを手がけた楽曲を徹底解説していたが、今回の飛内は、自身のキャリアを紐解きながら、楽曲の制作手法を伝える内容だった。飛内は18歳で「表に出るのが向いてない」と思い作曲活動をはじめ、神奈川の音楽大学に入学、19歳から作家としての仕事をスタートさせ、22歳でagehaspringsへ加入したという経歴の持ち主だ。田中と決定的に違ったのが、その作曲方法。田中はロジカルに組み立てていく理論派の作家だったが、飛内は「アーティストの歌ものの場合は、ほぼ鼻歌。散歩したりサイクリングしたりお風呂に長めに入ったりしたときに浮かんだメロディをiPhoneのボイスメモに録音しますし、声を出せないところではカタカナ音階でメモをします」と極めてアナログな手法を使用していた。

 しかも、完成した楽曲を聴いてみると、その鼻歌のフレーズがほとんど使用されているのだからすごい。飛内によると、鼻歌を録音した時点で、他の楽器を含め、全体のアレンジメントも頭の中では完了しているという。「頭に浮かべば、形にするのに1時間半くらいしかかからない」と、かなり感覚派の天才肌。それに加え、これまで作ってきた楽曲は9500曲ぐらいになるのでは、と明かし、遠山を驚かせた。

 最後に、飛内は「心を平穏に保って色んな状況を客観的に見れば、曲はどんどんできてくる。あと、作曲をしたいなら色々な楽器を愛するべき。あらゆる音が出るものを聴いて、『こういう楽器と重なる・こういう響きになる』と日常的に考えることで引き出しは増えます」と、アドバイスを送り、第二部が終了した。

 第三部『公開ボーカルレコーディングワークショップ(後半)』には再び玉井と百田が登場。玉井は「彼が世の中にどう出ていくのかシミュレーションしたんですが『真っ当に嘆く人』になるべきじゃないかなと。背中を押してくれたり元気にさせてくれるアーティストがいるように、その手前で『一回嘆いていいんですよ』と言えるアーティストになれば」と、方向づけをした上でダイレクションしたことを種明かし。富田も「頭をあえて強く、サビで感情を抜く、といったハッとさせられるアドバイスばかりで楽しかったです」と感想を述べると、エディットした音源を公開。歌い出しのアタックを強くしたことで歌詞が聴き取りやすくなり、サビはシンプルになったことで力強く響くようになった。

 百田がエディットについて「少しだけボーカルピッチの調整をして、その上で言葉を立たせたり音を聴かせるようにしました」と解説すると、玉井は「よく『ピッチを直す』という表現を使うんですけど、それが僕には疑問なんです。歌が正しいピッチなら売れるのかと言えばそうではなくて、曲に合わせて最適な方向にディレクション、エディット、トラックダウンすることが大事なんです」とコメント。冒頭では今回の工程について「我々は“さらなる最適化”と呼んでいる。定めた目的に向かって、少しだけ色をつけたり修正したりするのが本来やるべきこと」と語っていたように、何を目的とするか、アーティスト自身はどんなビジョンを描いているか、ということが重要であることを再認識させられる回だった。

 また、玉井は「百田の職人魂に火がついて……」と紹介し、ドラムやアコギ、ストリングスを追加したアレンジ音源を公開。百田は大胆なアレンジを施したうえで、原曲について「やっぱりコードの使い方が素晴らしい。テンションコード(3和音のコードに非和声音を足して『緊張感=テンション』を演出するコード)を上手に使っているなと。どんどん曲を書けば、ヒット曲を作れる素質がある」と改めて賛辞を送り、イベントが終了した。

 イベントはほかにも、レコチョクが運営する共創・体験型プラットフォーム「WIZY(ウィジー)」を活用して2018年春より展開している完全会員制の研究室『agehasprings The Lab.』に加入した研究員のみが参加できるスペシャルトークセッションがあり、そこでは今回展開したテーマのさらに深い部分や、改めて気づきを得ることができる玉井からの逆質問など、示唆に富んだ会話が展開されていた。

 改めてこの日を振り返ると、ざっと見渡した限りではあるが、音楽経験者とそうでない人が半々くらいの比率だった。この手のワークショップでは珍しいバランスだが、参加者はいずれも楽しそうに話を聞いていたことが印象に残っている。プロフィールからアーティストのインタビューまで、あらゆる一次情報が簡単に手に入る現在において、『Open Lab.』やagehaspringsの蔦谷好位置も出演している音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』のように、専門家がマニアックな切り口をポップに伝える取り組みを求めるファンやリスナーは、日に日に増えているように思う。玉井は『The Lab.』のイベントで「自分たちの時代がようやく訪れた」と語っていたが、まさに時代は今、彼らのような専門家集団を欲しているのかもしれない。

 なお、次回の『agehasprings Open Lab.』は6月23日に『京都岡崎音楽祭 OKAZAKI LOOPS 2018』にてトークセッションイベントを開催。同日にagehaspringsがプロデュースを手掛け、阿部真央、家入レオ、Aimerらが京都市交響楽団とともに共演する公演『agehasprings produce《node_vol.2》』の制作背景や今後のライブエンタテインメントについて語る内容となっており、料金は無料となっている。参加はagehasprings Open Lab.オフィシャルサイトから申込可能だ。

(取材・文=中村拓海/撮影=保井崇志@_tuck4(Instagram/Twitter))

■イベント情報
『agehasprings Open Lab. presents agehasprings Produce 《node_vol.2》 クリエイターズトークセッション』

音楽プロデューサー・玉井健二(agehasprings CEO)をホストに、業界をリードする様々なプロフェッショナルたちをゲストに迎え、《node_vol.2》制作の舞台裏や本公演で披露される楽曲の解説など、この日この場所でしか聞けないトークセッションを開催。

<前半第1部(18:30~19:00予定)>
「先進性と普遍性」(仮)
出演:玉井健二(音楽プロデューサー/agehasprings CEO)
柴田智靖(京都市交響楽団シニアマネージャー代行 チーフマネージャー)
内容:コンセプトライブシリーズ《node》誕生秘話、京都市交響楽団とagehaspringsがコラボレーションすることになったきっかけやオーケストラを従えてのライブイベントの制作背景を語ります。

<後半第2部(19:00~19:30予定)>
「これからのライブエンタテインメント」(仮)
出演:玉井健二(音楽プロデューサー/agehasprings CEO)
中村和明(ヴィジュアル・アーティスト/プロデューサー/wamhouse CEO)
笹原貴彦(西日本電信電話株式会社 アライアンス営業本部 ビジネスデザイン部 ビジネスクリエーション部門 事業開発マネージャー)
内容:音楽の交点《node》をテーマにしたこのライブに込めた思い、様々な演出について実際の映像を見ながらプロデュース・制作の背景を解説し、これからのライブエンタテインメントについて語ります。
モデレーター:沢木祐介(構成作家)

日時:2018年6月23日(土)開場18:00 / 開演18:30 / 終了19:30(予定)
会場:ロームシアター京都 パークプラザ3階 BOOK & ART GALLERIA 共通ロビー
https://rohmtheatrekyoto.jp/recreation/

料金・参加方法:無料 (事前申込優先着席)
一般参加応募受付はagehasprings Open Lab.オフィシャルサイトから
(応募受付期間:2018年6月1日(金)~6月15日(金)23:59まで)
※『agehasprings The Lab.』会員優先で先行申込の受付を行いますので、一般枠の定員には限りがあります。お早めにご応募ください。

企画・制作:aspr / agehasprings Open Lab.

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