ミナーラ、ビバラポップ!……2018年GWに誕生した二つの新アイドルフェスを振り返る

 多くのアイドルファンが足を運ぶゴールデンウィークの恒例イベントといえば、福岡の『博多どんたく港まつり』と、広島の『ひろしまフラワーフェスティバル』がある。2018年は、そのラインナップに二つの新たなフェスが加わり、大きな盛り上がりを見せていた。一つは、『NARA MINARA IDOL FES』(ミナーラ)。4月24日に奈良にオープンした商業施設「ミ・ナーラ」のオープニングイベントとして、28日から30日までの計3日間に渡り開催されたアイドルフェスだ。もう一つは、『VIVA LA ROCK EXTRA 「ビバラポップ!」』。さいたまスーパーアリーナで2014年より開催されている大型ロックフェス『VIVA LA ROCK』の翌日5月6日、同フェスのインフラを活用した新たな音楽フェスティバルとして初開催された。

 開催地、規模、成り立ち、とそれぞれまったく異なる二つのフェス。しかし、初開催にも関わらず大きな注目を集め、参加者たちに大きなインパクトを与えたという点では共通している。今回、この二つのフェスの初開催に足を運んだアイドル現場事情に詳しいガリバー氏に、実際に参加してみた上での所感やそれぞれのフェスの特徴について振り返ってもらった。(編集部)

ミナーラ「ハプニング続出も初開催ならではの面白さ」

 ミナーラは1日目に参加しました。このフェスは、とにかくラインナップが豪華だったんです。浅香唯さんといったレジェンドから、田村芽実というアイドルフェスでは見られないアーティストや、sora tob sakanaや東京パフォーマンスドール、フィロソフィーのダンス、さんみゅ〜といったメジャー級のアイドルたちまでが一堂に会しました。そんななかにまざって、リコーダー演奏や一輪車のパフォーマンスで異彩を放っていた現役小学生グループ・ひまわり少女隊のようなスクール生も出演。初開催にもかかわらず、ふだんのフェスでは見ることのできないブッキングができていたのはすごいと思います。

 僕もそういった出演者の組み合わせの面白さに惹かれて足を運んだのですが、初回ということもあり、とにかく運営体制がひどかった。僕の知り合いが「リリースイベントが3箇所で行われているみたい」と表現するような簡素なステージで、音響トラブルで度々ライブが中断、出演者の控え室もろくにないという状況。なにより衝撃的だったのが、商業施設の中で行われているフェスだったため、様々なトラブルでタイムテーブルが押しすぎて施設の閉館時間が来てしまい、パフォーマンスができないアイドルが出たということ。彼女たちのステージは翌日に振替になりましたが、あれはフェス史上初めての出来事でしょう。

 ミナーラの会場にはステージが4つあったのですが(うち1ステージは有料エリア内設置)、エスカレーター真横にある吉野ステージでは、ハニーゴーランというアイドルがステージを飛び出して上階行きのエスカレーターに乗り、それを逆走して戻るというありえないパフォーマンスが行われていました。アイドルたちのパフォーマンスはこれまでもいろいろ見てきたつもりでしたが、エスカレーター逆走ライブは初めて見ました。危険なので本来やってはいけないことではありますが、それだけ警備も手薄だったということです。ステージの立地上、一番さまざまなドラマが生まれたのが吉野ステージでした。

 そんなカオスな状況の中、アイドルたちの臨機応変な対応が光る場面もありました。ファンの間でもともと有能な存在として知られていた柳瀬蓉さんというソロアイドルは、公式で当初出されていたタイムテーブルの横軸のズレを修正・紙に印刷して、当日会場でエリアマップとともに配布していたんです。もちろん自主的に。さらにステージの案内表記がなく、スタッフも場内にいなかったため、オタクたちが彼女にステージの場所を聞くというコミュニケーションまで生まれていました。いろいろと不便な点もありましたが、オタク同士の情報交換が活発に行われ、アイドルもファンも、戸惑いつつ手探りでその環境を楽しもうとしていたのが印象的です。それが初開催ならではの面白さにつながっていたように思います。

 僕は参加できませんでしたが、2日目以降は運営体制も改善され、結果“いいフェス”として終えられたよう。良くも悪くも話題になりながら、しっかり爪痕を残しました。もともとアイドルフェスの少ない西日本で新しいフェスをはじめようという試みは素晴らしいことですし、関西のアイドルシーンにとっても新たな一歩となったことでしょう。

ビバラポップ!「総合満足度でこれを超えるものはなかなかない」

 ビバラポップ!はVIVA LA ROCKのプロデューサー鹿野淳さんのほかに、大森靖子さん・ピエール中野さんをプレゼンターに据えて、主催の顔を前に出していたのが最大の特徴です。アイドルフェスは主催の顔が見えないことが多いのですが、アイドル好きとして知られる大森さんとピエールさんが前に出て、自信をもって厳選したラインナップを届ける。そして欅坂46やラストアイドルのような秋元康プロデュースのテレビアイドルからアップフロント勢まで、バランスよくブッキングされていたのが良かった。タイムテーブルの並びも絶妙で、セットリストにも満足しました。

 加えて、最後の1時間に設けられていた大森さんのコラボステージでは、このフェスならではの特別感が生まれていました。鈴木愛理さん、金子理恵さん、アップアップガールズ(仮)と吉川友さん、あの(ゆるめるモ!)さん、アイナ・ジ・エンド(BiSH)さん、長濱ねるさん、道重さゆみさんといったベクトルがまったく異なるアイドルたちに対し、大森さんが自分の立ち振る舞いを変えながら、それぞれの個性を最大限生かすように演者として共演を果たしていました。主催者がアイドルと同じステージに立つことはこれまでにもありましたが、ここまで密接な物語性を持ち、大森さんがこのフェスをやる意味があったと全員が納得して帰ることができる、一つのショーとして成立していたものは今まで見たことがなかったように思います。

 また、2ステージに絞っていたのも良かった。とにかくアイドルの数をたくさん出して、ステージもたくさん作るということが今までの大型フェスのありかたでしたが、その楽しみ方は一側面でしかないということを大森さんとピエールさんが提示してくれたように思います。一方で、そういった贅沢さはVIVA LA ROCKの4日目的な位置づけだからこそ実現できたものでもある。欅坂46とBiSHの出演時には賑わっていましたが、さいたまスーパーアリーナという会場規模の集客としては心配な部分もありましたので、そこは次への課題なのかなと。

 さらに、ビバラポップ!はホスピタリティが素晴らしく、快適に過ごすことができました。200LV以上は座って見ることができるし、傾斜があってステージが見やすい。近年、単体のライブではよく見かけるようになった女性限定エリアはもちろん、車椅子エリアや、会場アリーナ前方の両端にはキッズエリアまでありました。VIVA LA ROCKの方針をそのままアイドルフェスに取り入れただけなのだろうけれど、僕らからしたら衝撃的なことばかり。至るところでおもてなしのレベルの高さを感じましたし「客としてちゃんと扱われていいんだ」と(笑)。内容と環境の2点から個人的には早くも今年のベストフェスになる予感がしています。総合満足度でこれを超えるアイドルフェスはなかなかないでしょう。少々大げさですが、アイドルフェスにおけるエポックメイキングな日であり、「アイドルフェスってもっとこういうふうにできるんだ」という発見があった一日でしたね。

関連記事