石井恵梨子のチャート一刀両断!
BTS、『FACE YOURSELF』は日本ファン“待望の”アルバムに? チャート動向から考察
今週の1位は松任谷由実の3枚組ベスト『ユーミンからの、恋のうた。』。これは、2012年に発売され、数年をかけてミリオンを突破した3枚組ベスト『日本の恋と、ユーミンと。』と対をなす作品で、楽曲のかぶりは一切ナシ。この2枚で「ベストアルバム二部作完結」となるそうです。
前ベストは歴代の大ヒット曲、「ユーミンといえばこれ!」みたいなラブソングがずらりと並んでいましたが、こちらは松任谷由実本人が「今、こんな時代だからこそ聴いて欲しい」との思いを込めて選曲したもの。ゆえに、華やかな知名度はないけれど、詩人・ユーミンの筆致がしみじみと染みるような曲が多数。全体からは、生き方や歩み方といった彼女流の人生論が伝わってきます。初週で10万枚を突破したこのベスト盤が今後どこまでセールスを伸ばしていくのか、じっくり見守っていきましょう。
そして今週アツいのはK-POP勢。2位のTWICE、4位のFTISLAND、5位のBTS(防弾少年団)、10位のEXO-CBX(EXOのメンバー3人からなるスペシャルユニット)など、4つのグループが10位圏内に入りました。一口にK-POPと言っても、TWICEは大所帯アイドルグループ、FTISLANDは5人組のロックバンド、そしてBTSは現在グローバルで人気を拡張させているヒップホップ/ダンスグループ。音に共通点は見当たりません。日本人が韓国のポップスに触れたのは、思えばBoAや神話あたりが最初だったと記憶していますが、いまやその選択肢は星の数。K-POPの土壌はほんとうに豊かになっています。
中でも注目したいのはBTS(防弾少年団)の3枚目『FACE YOURSELF』。3枚というのは日本での数字であって、韓国での5枚目となる『Love Yourself 承‘Her’』は昨年秋にリリースされたばかり。そして、輸入盤ながら10万枚近いセールスを叩き出し、10月9日付けチャートでは見事1位も奪取しています。
当時のコラムで、米国のR&B/ヒップホップにシンクロする音楽であり、特にラップは押韻や語感が重要だから全部訳せばいいわけではない、このグループの日本盤は本当に必要か……というような内容を書いたのですが、蓋を空けてみれば全然違いましたね。『FACE YOURSELF』は先週28万2千枚、今週が1万2千枚と、早くも30万枚に届きそうな勢いで売れまくっています。日本ファン向けの日本語バージョンは「必要か」ではなく「待望の!」だったのですね。ごめんなさい。
『FACE YOURSELF』を一言で言うなら、とんでもなくスリリングでエッジのあるJ-POP、でしょうか。ここでいうJ-POPとは「言葉がそのまま聴き取れる大衆向けのポップス」という意味ですが、逆にいえば、日本のメインストリームでこんなにも攻めている音楽は他にない。レゲトンを筆頭とするラテン音楽のリズム。EDMやトラップをスムーズに取り入れた、時にゴージャス、時にギョッとするほど音数が少なくなるサウンドプロダクション。ラップ/アジテイト/メロディを分け隔てなく行き来するボーカル。まったく、どれも問答無用でカッコいいです。
ちなみに現時点で29.4万枚セールスの本作は、1月に発売されたWANIMAの『Everybody!!』の累積売り上げ(20.5万枚)をあっさり上回り、今のところ2018年の上半期で一番売れたアルバム・男性アーティスト部門の1位となっております。さて、今後この記録を抜いていくのは誰でしょうか。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。