88risingが示唆するポストYouTube時代の音楽のあり方 “横断的なプラットフォーム”が鍵に

 他方で、彼らはミュージシャンとオーディエンスを仲介するだけではなく、ミュージシャンと密接にコラボレーションして、ときに活動の方向性に影響を与えもする。

 たとえば、jojiは、もともとFilthy Frankという名のYouTuberとして知られていた。スキットやイタズラ動画で人気者だった彼は、joji名義でローファイなR&Bサウンドに自身の歌声をのせた楽曲をSoundCloudにアップロードしていた。あくまでサイドプロジェクトだったjoji名義の楽曲を正式にリリースすることを提案したのは、他ならぬミヤシロだった。蓋を開けてみれば、jojiのEPは好評を博し、さまざまなメディアに取り上げられる時の人となった。

joji - will he

 jojiにしろ、Rich Brianにしろ、もともとは数多いるインターネットセレブリティのひとりだった。しかし、88risingはそんな彼らの活動を単なるバズとして切り捨てず、その才能とシリアスに向き合ってサポートすることによって、彼らひとりひとりだけではつくりだせなかった大きなうねりを生みだし、熱狂的なファンダムをつくりだした。

 YouTube以降の時代にあって、メジャーレーベルに頼らず、完全にインディペンデントな活動でファンベースを築いて活動していくことがこれまでになく容易になった。それにともなって、ミュージシャンをサポートする側のあり方も変化が求められている。

 明確なコンセプトにもとづくビジョンの展開。メディアやレコード・レーベルといった慣習的な分業にとらわれない組織づくり。インターネットのバズを巧みに利用しつつも、ミュージシャンのクリエイティビティをアシストするスタンス。88risingの躍進を裏付けるこうした彼らの姿勢は、ポストYouTube時代の音楽を考える上で重要な示唆に富んでいる。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

関連記事