「くるりライブツアー『線』」

くるり、新旧代表曲で見せた絶妙の塩梅 ライブツアー「線」東京公演レポート

「今日は、いろんな曲をダラダラやるので、ダラダラお付き合いください」

 くるりが3月30日、東京・お台場Zepp Tokyoにてライブを行った。この日は全国ツアー「くるりライブツアー『線』」の、最終日の前日。今年2月に31枚目のシングル『その線は水平線』をリリースしたばかりの彼らだが、オリジナルアルバムは2014年に『THE PIER』を出したきり。ライブの中盤、岸田繁(Vo/Gt)が冒頭の言葉を述べたように、今回のセットリストは新旧の代表曲を満遍なく披露するという、メンバーにとってもファンにとっても“来るべきニューアルバム”に向けての、予習的な内容となった。

 まずは2010年のアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』より、「東京レレレのレ」。メジャーとマイナーを行き来しながら、沖縄民謡を思わせるメロディとお囃子が飛び交う異色のナンバーだ。サポートメンバーである朝倉真司(Dr)のタメの効いたドラム、野崎泰弘(Key)のニューオリンズ調のピアノがじわじわと熱を帯び、長く引き伸ばされたエンディングでは岸田がワーミーペダルを踏みながらトリッキーなギターソロを披露すると、早くもフロアからは大きな歓声が上がった。

 間髪入れず、メジャーデビュー曲「東京」へ。大きな虚無感を抱え込んだようなギターの歪み、淡々とループするドラムの間を縫うように動く、佐藤征史(Ba/Cho)のベースが印象的だ。続く「愛なき世界」でも改めて思い知らされたが、シンプルなコード進行の中で、ルート音を避けるようにカウンターメロディを弾く彼のベースが、くるりの楽曲にある何とも言えない浮遊感を醸し出しているのは間違いないだろう。サビがあるようでない、ないようであると言った、冒頭の岸田の言葉を借りれば「ダラダラした」くるりの世界観は、この浮遊感によるところが大きいのだ。

 「ハイウェイ」からは松本大樹(Gt)が、続く「ワンダーフォーゲル」からは山本幹宗(Gt)がサポートメンバーとして加わり、トリプルギター編成に。2011年より正式メンバーとなったファンファン(Tp/Key/Vo)の、ファンファーレのようなトランペットが加わった“人力テクノ”とでもいうべき最新アレンジの「ワンダーフォーゲル」は、祝祭感が格段に増してこの日最初のピークを迎えた。

 トランペットとギターの掛け合いフレーズや、「よいしょ!」という合いの手がユニークなエキゾティック・ディスコチューン「Liberty & Gravity」のあと、未発表曲のお披露目に。「東京オリンピック(仮)」と名付けられたその曲は、変拍子や不協和音、ドープなディレイ処理が入り混じったプログレッシブなインスト曲。圧巻の演奏を前に、終わった後もしばらく呆気に取られているオーディエンスに向かって、「関係者の皆さん、東京オリンピックの公式ソングにいかがでしょう?」と岸田がジョークを飛ばすと、ようやく大きな笑い声が響いた。

 「スラヴ」と「春を待つ」を挟み、再び未発表曲タイム。「忘れないように(仮)」は、跳ねるリズムやヒネリの効いたコード進行がThe Lemon Twigs辺りを彷彿とさせる、ポップなナンバー。続く「ハイネケン」はスティーヴン・スティルスも、かくやと言わんばかりのサザンロックで、後奏ではThe Beatlesの「Dear Prudence」を思わせるアンサンブルをバックに、松本がキレッキレのギターソロを炸裂させる。岸田が嬉しそうに「もっともっと!」と煽ると、それに答えてさらに白熱していくギター。初めて聴く曲とは思えぬほど、会場の熱気も最高潮となった。

 火照った体を冷ますような、初期の名曲「ばらの花」、トランペットとギターのアンサンブルがバロック的な「loveless」、2本のレスポールギターを従えた岸田がニール・ヤングのようなソロを繰り出す「虹」と続き、まるでThe Beatlesの「The End」のように、トリプルギターが順番にソロを回していく「ロックンロール」で本編は終了した。

 アンコールではまず、岸田、佐藤、そしてファンファンだけで「ブレーメン」を演奏。微妙なタメやリタルダント、ブレイクからの一発目など、3人の息は完璧に合っていて、まるでバンドが一つの生き物のようだ。さらに、「まだ、やり残した新曲があるんです」と言って始めた「ニュース(仮)」、岸田のラップがコミカルな「琥珀色の街、上海蟹の朝」と続き、最後は新曲「その線は水平線」を演奏し、この日の公演は全て終了した。

 オープニングでまずオーディエンスの心をつかみ、新旧織り交ぜながら後半はラストスパート……といった、よくある起承転結のライブ構成と無縁な、最初に岸田が言ったように終始「ダラダラ」と進んでいくライブ。にも関わらず、全く飽きさせないどころかあっという間だった。見せどころ聴かせどころがテンコ盛りのライブですら、ついつい時計を見てしまうこともあるというのに、これといったクライマックスもない今日のライブが、時間を忘れていつまでも聴いていたくなるほど気持ちいいのは不思議としか言いようがない。おそらく、音の抜き差しやアーティキュレーション、サウンドの質感など、全てが過不足なく“いい塩梅”なのだろう。そう書くと身も蓋もないと思われるかもしれないが、この域に達することのできるバンドはそうそういない。デビュー20周年目を迎える彼らの“塩梅”に、唸らされた一夜だった。

(文=黒田隆憲/写真=AZUSA TAKADA)

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