『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅱ』リリース記念特別企画(その2)

北川勝利(ROUND TABLE)と宮川弾に聞く、『Fate/Grand Order』〈新宿幻霊事件〉テーマソングに隠された秘密

「決して駅で迷っただけの曲ではない(笑)」(宮川)

ーーでは『FGO』に関わってみての作品自体の印象は?

北川:僕はいまだにあまりよくわかってないですね。関連作がいろいろあるというのは知ってて、僕は(坂本)真綾ちゃんのお仕事もやってるので、以前にその絡みでちょっとだけ作品についてレクチャーを受けたことがあったんですよ。なのでそのことを話したら「それは別のシリーズです」と言われて、わかってなさ加減を露呈したぐらいで(笑)。

ーー宮川さんは?

宮川:僕もよく知らなかったので、歌詞を書くにあたって猛勉強することになりまして。ただ、どうしても自分の中の新宿のイメージと、ゲーム内の新宿のイメージのすり合わせになっていくんですよね。僕はかつて新宿区に住んでたこともあったので、自分の中でも身近な場所ではあるんですよ。まあ今でも新宿駅の中で迷うことがあるんですけど(笑)。そういうのは歌詞に無駄に活かされてたりします。

ーー歌詞の1行目から<終わらない問いかけと迷図>ですから(笑)。

北川:そういうことだったの!?

宮川:いやいや。でも作品について勉強しつつ、イメージがそっち方向に行ったりもして。だから「ここはどこだろう? 何線にはどうやっていくんだろう?」みたいな問いかけですよね(笑)。

ーー実際にゲームのシナリオ内で新宿駅は迷宮化しますからね。では、曲や詞を作るにあたって『FGO』らしさを意識したり、特別工夫した部分はありますか?

北川:そこは基本的にはジャジーで夜の新宿っぽい感じを意識したということですね。弾くんが書いた歌詞も一発OKだったし。あと、弾くんには一応全パートを歌ってもらったんですけど、そこから自分で半分のパートを歌うときに、例えばAメロの僕のパートとかは、先に歌った弾くんの歌声を完コピする感じになるまで何回も歌ったんですよ。

宮川:そう、かなり僕の歌い方に寄せてくれてるなと思った。

北川:そっくりになるまでずっと歌ってたからね。弾くんの歌がすごく良かったので、この感じでいこうと思って。

宮川:北川くんの歌を聴いて、自分のクセを見せられてる感じがしたなあ。

北川:ほんと? 弾くんのクセはいつも気になってたから。

宮川:それ絶対悪口だよね(笑)。というか、そもそもおじさん声を求められた結果が僕だったというのは今初めて知ったんですよ。だから、ああそうなんだと思って、何というか……帰ってから泣きます。

一同:ハハハ(爆笑)。

ーーおじさん声というとアレですけど、大人の色気のある歌声を求められてのことだと思うので。

北川:弾くんの気持ちが落ちないように取り返そうとしてくれてるよ(笑)。

宮川:いやいや大丈夫です、実際におじさんなので(笑)。それに曲を聴いた時に夜っぽいと思ったから、そういう感じで呼ばれたのはわかったし。この曲は仮メロをいただいた時点で歌いながら歌詞がポコポコ出てきたので、登場人物が騙し合う部分とかも自然とメロディに乗ったんですよ。仮歌で適当に歌ってた時もわりと今の歌詞の通りに歌ってて。

ーーそんなにすぐ言葉が浮かぶものなんですね。

宮川:そうですね。新宿駅で迷ったこともあるし(笑)。

北川:駅で迷ってる歌だったんだ(笑)。

ーーだから「Lose Your Way」というタイトルだったり?

宮川:「Lose Your Way」という言葉自体には〈迷う〉というイメージもありますけど、僕はゲームの中に〈一度自分のやり方を捨てるべきだ〉という考え方があると思ったんですよ。そこを〈自分のいつも通りやってきたやり方だけだと進めないかもよ?〉と勝手に解釈して、そういう意味で「Lose Your Way」と歌ってるんです。なので、決して駅で迷っただけの曲ではないです(笑)。

北川:それだけだと面白かったのに(笑)。

ーーあと、個人的にはこの歌詞で初めて<ゴフェル>という言葉を知りました。これはノアの箱舟を作るために使った素材の木のことらしいですね。

宮川:僕はいわゆる海外の曲の英語詞を自分で訳すのが好きなんですよ。そういう曲を訳す時に、やっぱりキリスト教とかユダヤ教のバックグラウンドの雰囲気をわかってないと伝わらないところがあって、そういう言葉は普段から調べてるんです。だから今回もイメージとして何となくそういう言葉が出てきちゃったんですよね。

ーーでもそれが作品の世界観と何となくマッチしてますし、『FGO』をプレイされてる方の中二心をくすぐる感じですよね。

宮川:まあもともと僕の考え方自体が中二病っぽいんですよね。

北川:中二マインドでおじさん声って、この曲にピッタリだよね。

宮川:北川くんはさっきから悪口しか言ってないね(笑)。

北川:ついつい言いたくなっちゃって(笑)。でもCMが放送された後に、それを聴いてくれた人が歌詞の聞き取り大会みたいなことをしてておもしろかったんだよね。<lose your way>の後に続く英語がわからなくてみんなで照らし合わせたりしてて。

宮川:<grope your way>とかはわからないかもしれないね。

山内:歌の中からヒントとかキーワードを見つけ出そうとするファンの方が多いんですよね。

北川:そうなんでしょうね。〈ROUND TABLE=円卓〉とかも含めて、歌詞を一個ずつ分析して「こういう意味だ」って考察してる人もいて。聞き取り間違えてるなあとは思いつつ(笑)、でもその人の中ではそういう世界観が出来上がってて楽しそうだなあと思った。

宮川:<道順は裏がえし>という歌詞があるんですけど、いまだにネット上では<日常は裏がえし>だと思われてることが多いんですよね。なんでお父さんのハネた休日みたいになってるんだろうと思って(笑)。

北川:でもこのCDが出たら答え合わせができるからね。カラオケとかにも入るだろうし。

宮川:カラオケに入ったら二人で歌えるね。

ーー二人でカラオケに行かれるんですか!?

宮川:いま適当に言ってみたけど、まあ、行かないだろうね(笑)。

北川:行く行く!

宮川:行く? よーし、じゃあ行こう。

ーーどこまで本気なのかわかりませんが(笑)。さて、今回はお二人で楽曲を共作したわけですけど、それぞれお互いの持ち味や魅力についてどのように感じてらっしゃいますか?

北川:僕は弾くんに弦アレンジをお願いすることが多いんですけど、花澤香菜ちゃんのプロジェクトで何回か曲を書いてもらった時も、詞と曲が上がってきたらいつも乙女心がすごいんですよね。しかもそこに秘密がたくさん入ってて、毎回歌入れが終わってからちょっとずつ解説してくるんですよ。「それ歌う前に言えや!」って思うんですけど(笑)。

ーーそうですよね(笑)。

北川:でも、その歌詞の秘密もそうだし、あまり聞いたことのない単語がいっぱい出てくるので、いつも楽しみですね。あと、弾くんが自分で歌ってるアルバム(2008年の作品『ニューロマンサー』)とか他の人に書いてる曲も含めてチェックしますけど、アレンジも毎回すごくて天才だと思ってます。

宮川:そんなこと、デモを送った時には全然言ってこないよね(笑)。いつも「OKです!」みたいな感じなんですよ。

ーーでも信頼があるからこそ、ずっと一緒にお仕事をされてるわけですし。

北川:そうですね。あと今回ここまで一緒にやるのは初めてだったので、いろいろおもしろくていいなあと思って。こういう企画だったからこそできた形というのもあるんですけど、また違う形での共作もいろいろやってみたいとは思ってます。弾くんはやりたいとは言ってないけど(笑)。

宮川:そんなことないよ。後でメールで「やりたい」にビックリマークを5個ぐらいつけて返しとくね(笑)。

ーー宮川さんから見て北川さんの魅力は?

宮川:僕は歌ったり歌詞を書いたりという仕事もしてますけど、基本的に自分は(曲を作る)職人みたいなものだと思ってるんですよ。そんな中で、北川くんの作曲能力はどんどん上がってきてて、本当に何年か前からちょっとビビり始めて。イメージとしては可愛い曲担当みたいなところがあると思いますけど、泣かせるときはちゃんと泣かせますし、すごい技術の持ち主だと思って尊敬してますね。

ーーそのビビり始めたきっかけの曲は何ですか?

宮川:やなぎなぎさんの「ユキトキ」(2013年)かな? あんなに声とキャラクターが合った曲はないし、真芯に当てるバッティングというのはこういうことなんだろうなと思いました。本当にヤバイ曲だったから、これは潰すべきなのかなと思って(笑)。

北川:そんな風に思ってくれてたなんて今初めて知りました(笑)。そういえば、こないだワルキューレの「Dancing in the Moonlight」(2018年)を一緒にやった時は何も言ってこなかったんだけど、その後に一緒に手がけたまだ言えない曲(※安野希世乃「ロケットビート」(カードキャプターさくらOP曲/2018年))の時は、デモを送ったら「いい曲だね」って返ってきて、「うわっ! 初めて褒めてくれた!」と思った。

宮川:初めてだったかなあ(笑)。でもあれはいい曲だったね。

ーーそれは発表が楽しみです。あと、せっかくなのでお伺いしたいのですが、最初に話題に挙がったお二人の出会いの曲「Let Me Be With You」は、アニソンの中に渋谷系の流れが入りこむきっかけになった重要な楽曲という印象がありまして。なかでもストリングスの使い方が特徴的な楽曲だと思うのですが、実際はどんなイメージで作られたのでしょうか?

北川:あの曲は最初に発注された感じとは全然違うものになったんですよ。もともとリズムとかも全然違ってたんだけど、ある日、歩いてる時に「ウッウー♪」というのを思いついて、それで1曲作ってやろうと思ってツルっとできたんです。たしかストリングスは「いっぱい動いてる感じでお願いします」とか雑な感じでお願いしたような気がする(笑)。

宮川:自分の中では最初はもうちょっと派手な弦を考えてた気がするんですよね。そしたら打ち合わせのときに「駆けあがりでパーンといくような感じばかりではなくて、心の動きを出すような内省に気を付けたアレンジにしたい」というような話があって、あの感じになったんです。

ーー北川さんが作られた楽曲でストリングスを使う場合、例えば長谷泰宏(ユメトコスメ)さんや、最近だとrionosさんが弦アレンジを手掛けることも多いですが、その中で宮川さんにお願いするのはどんな時なのでしょうか?

宮川:それは興味深いね。

北川:弾くんは大先生なので毎回は呼べないし、プロジェクトによっていろんな制限があったりするので、その中で「ここぞ!」っていう時にはお願いするようにしてますね。弾くんを呼べば間違いないので。

宮川:すごく良いことを言ってくれた(微笑)。

ーーたしかに先述の楽曲以外にも、花澤香菜さんの「星空☆ディスティネーション」(2012年)など、ポイントとなる楽曲でご一緒されてますね。ちなみにお二人はそれぞれ作家として多くのアニメソングやキャラソンを手掛けてますが、作り手としてそれらにどんな魅力を感じますか?

北川:タイアップのテーマ曲は作品の顔なので、自分のやりたいことだけではなく、作品の求めるものや間を繋いでくださる方の要望とのすり合わせという部分があるんですよ。そこは難しいところでもあるんですけど、それがあるからこそ出てくるものがあるし、作品に関わる人たちが求めるものを掬って、さらに自分のやりたいことをどう提示していくか、ということができて楽しいですね。

ーー今回の「Lose Your Way」という楽曲も、自分のみの発信からでは生まれることはなかった曲でしょうし。

北川:そうですね。最初は弾くんが歌うってことも知らなかったから(笑)。でも、山内さんは今までいろんな作品でやり取りする中で僕の持ち味をわかってくれてるところがあるので、今回は言われたままスッときてスッと返す感じでしたね。

ーー宮川さんはアニソンやキャラソンならではの魅力についてどう思われますか。

宮川:僕はキャラが存在してる時点で楽しいんですよね。僕はメロディと言葉が同時に出てくるタイプなので、そこにキャラが前提としてあると、自分がいつも考えているものとは別の物になったりするのがいいなあと思うんです。例えば和ものっぽいアニメの曲でもないと、あまり鼓を入れたり、ペンタトニックっぽい音階を使ったりはしないので、それを大手をふってできるのが楽しかったり。

ーーそこは作家をやってて面白みを感じるところでもあるでしょうね。

北川:自分だけでやってるときには出てこないものとか、やらないだろうものにもチャレンジすることになるし、自分が持ってないものから素敵なものが出てくるのが楽しいですね。

ーー今回二人でやることになったきっかけも『FGO』ですし。また別の機会でもROUND TABLE feat. Danとしての活動が行われることを期待しております。

北川:まずはカラオケからですかね(笑)。あとはわからないですけど、僕はもうあまり歌詞を書きたくないので、自分の曲を作る場合も弾くんに歌詞を書いてほしいとは思いますね。

宮川:歌詞書きたくないの?

北川:あんまり。だって面倒じゃん(笑)。

ーー曲を書くのは面倒じゃないんですか?

北川:それは全然。

宮川:僕は曲を書くのが少し面倒になってきたから、ちょうどいいかもね(笑)。

【その1:DracoVirgo×毛蟹が語る『Fate/Grand Order』の魅力と「清廉なるHeretics」制作秘話
【その3:『Fate/Grand Order』1.5部楽曲はどのように生まれた? TYPE-MOON・芳賀敬太に聞く

(取材・文=北野創/撮影=林直幸)

『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅱ』

■リリース情報
『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅱ』
発売:2018年3月28日(水) 発売 
価格:4,104円(税抜3,800円)
仕様:全3枚組
初回仕様特 :三方背ケース

<収録楽曲リスト>
【Disc1】
1.Epic of Remnant
2.Lose Your Way
作詞:宮川弾 作曲・編曲:北川勝利 歌:ROUND TABLE feat. DAN
3.悪性隔絶魔境:新宿
4.幻霊都市
5.アンチヒーローズ ~BATTLE 3~
6.歌舞伎町の怪人
7.Dance with Black ~子犬のワルツより~
8.Stormfang ~FATAL BATTLE 3~
9.その命題 ~GRAND BATTLE 2~
10.Indelible illusion
作詞:Yamachang 作曲・編曲:高慶CO-K卓史 歌:YURIKO KAIDA
11.伝承地底世界:アガルタ
12.新天地に舵を切れ
13.密告の不夜城
14.エルドラドの女王
15.幻想空中都市:ラピュタ
16.それぞれの理念 ~BATTLE 4~

【Disc2】
1.moon salto(Ⅱ) ~FGO~
2.spinal sg coaster
3.BB channel ~FGO~
4.anima ataraxia ~FGO~
5.深海電脳楽土 SE.RA.PH:BATTLE FINISH
6.spinal swan coasterⅠ
7.spinal swan coasterⅡ
8.spinal swan coasterⅢ
9.一刀繚乱
作詞:毛蟹 作曲・編曲:西岡和哉 歌:六花
10.屍山血河舞台:下総国
11.刀匠の庵
12.血風 ~BATTLE 5~
13.御前也
14.極限の刻へ
15.鏖殺を斬る ~英霊剣豪七番勝負~
16.勝負あり
17.エミヤ ~無元の剣製~
18.残焔
19.清廉なるHeretics
作詞・作曲・編曲:毛蟹 歌:毛蟹 feat. DracoVirgo
20.禁忌降臨庭園:セイレム
21.迷信の町
22.異端の夜
23.魔女裁判
24.恐怖への呼び声 ~BATTLE 6~

【Disc3】
1.日差しの中で ~FGO~
2.ぐだぐだショップ大炎上 ~寺~
3.ぐだぐだショップ大炎上 ~誠~
4.cha cha ka wa ii !!
5.激突する魂 ~FGO~
6.光と闇 ~FGO~
7.運命 ~剣舞~
8.BURN OUT!
作詞:毛蟹 作曲・編曲:家原正樹 歌:乃藍
9.デッドヒート・サマーレース!:マップテーマ
10.Crazy Machines
11.Overtake
12.Venus Racer ~SUMMER BATTLE 2~
13.デスジェイル・サマーエスケイプ:マップテーマ
14.Connacht Breaker ~SUMMER BATTLE 3~
15.light step ~FGO~
16.超絶縦長魔城:チェイテ
17.エリチャンファイト
18.天然特撮魔城:チェイテ
19.ハロウィン・ストライク!:ショップテーマ
20.The Sun in the Abyss

タイトル名:Fate/Grand Order(フェイト/グランドオーダー)
ジャンル:FateRPG(フェイトRPG) iOS/Androidにて好評配信中
開発・運営:DELiGHTWORKS Inc.(ディライトワークス株式会社)
製作:TYPE-MOON / FGO PROJECT
価格:基本無料(アプリ内課金あり)
公式サイト:https://www.fate-go.jp/
公式Twitter:@fgoproject(#FGO)
著作権表記(C)TYPE-MOON / FGO PROJECT

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