柳樂光隆の新譜キュレーション 第6回

ブルーノート・レコードは再び最高到達点に? 柳樂光隆がジャズ名門レーベルの新作を選盤

クリス・デイヴ『Chris Dave and The Drumheadz』

クリス・デイヴ『Chris Dave and The Drumheadz』

 そんなトニー・アレンとアート・ブレイキーとの関係を知ったあとに、『Chris Dave and The Drumhedz』に収録された「Black Hole」などでのクリス・デイヴのアフロビートへのアプローチを聴くと今、ブルーノートというレーベルがやっていることの重みと深みをすぐに理解できるだろう。アート・ブレイキーからの影響を受けたトニー・アレンが、フェラ・クティと共にアフリカのリズムとジャズとファンクを組み合わせるようにして生み出したアフロビートは今、こうしてクリス・デイヴに受け継がれている。その間にはディアンジェロやクエストラヴやロイ・ハーグローヴがアフロビートを再解釈していた2000年ごろのジャズとネオソウルの時代の音楽がある。そして、クリス・デイヴの中にはアート・ブレイキーと並びブルーノートの歴史を代表するドラマーでもある、トニー・ウィリアムス的な“4つの手足が自在にリズムを刻むポリリズムアプローチ”が入っている(このアルバムに収録されている「Lady June」はトニー・ウィリアムスがライフ・タイムというバンド時代に演奏していたレパートリーでもある)。そういった流れの先端に位置するのがクリス・デイヴだと考えれば、彼がブルーノートのアルバムの中でアフロビートを叩くことには大きな意味が宿ってしまう、と言ってもいいだろう。

 という視点で昨年リリースされたブルーノート・オールスターズを見れば、ここにはウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスやフレディー・ハバード、ジョー・ヘンダーソンらがブルーノートに残した作品群の総称でもある“新主流派”へのオマージュであることがわかるだろう。実際にハンコックとショーターが参加し、タイトルはハンコックへのオマージュで、ショーターのカバーが1曲収められている。

 そうやって、ブルーノートは様々なやり方で、自らが生み出してきた歴史を再提示しながら、同時に現在をプレゼンテーションしているのだ。それも極めて丁寧に、そして愛情をこめて。こんなレーベルを後にも先にも僕は知らない。

V.A.『All God’s Children Got Piano』

V.A.『All God’s Children Got Piano』

 そんな名門レーベルの全音源から僕が自由に選曲させてもらって作ったコンピレーションが『All God’s Children Got Piano』だ。このコンピレーションのコンセプトは“ジャズピアノ”で、80周年を間近に控えた「ブルーノートの長い歴史を網羅すること」、もう一つはここまで語ってきたドン・ウォズ以降のブルーノートによる「歴史の再提示」を選曲という形でやることでした。

 Disc1はセロニアス・モンクを柱に、1940年代のストライドピアノから現代のロバート・グラスパーまでを並べ、Disc2はハービー・ハンコックを柱に、ブルーノートの中でも現代ジャズの直接のルーツとも言える音源を集めた。

 それぞれに収録された過去の音源は、ロバート・グラスパーやジェイソン・モランといった現在のジャズと繋がるようにしている。それはつまりここまでに語ってきたことを形にしたということでもあり、大ベテランのチャールス・ロイドの作品でジェイソン・モランやエリック・ハーランドが、ノラ・ジョーンズの作品にウェイン・ショーターが参加しているような今、ドン・ウォズがやっている刺激的なチャレンジへの共感と賛同を形にしたものでもある。

 2010年代のブルーノート・レコーズのカタログの中に並んでも恥ずかしくない選曲ができたと自負している。ジャズの名門ブルーノートが残してきた偉大な音源を2018年に知るための入り口として、また、ロバート・グラスパーやジェイソン・モランといった現代ジャズ・ピアニストのルーツを探るためのヒントとして、このコンピレーションを聴いていただけたらと思う。ロバート・グラスパーとセロニアス・モンクのピアノを、クリス・デイヴとトニー・ウィリアムスのドラムを比べながら聴いてみてほしい。きっとジャズがもっと豊かに感じられるようになるはずだ。

※ウェブ用ライナーノーツはこちら

■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything's Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily's D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。

関連記事