『ワルキューレは裏切らない』レポート
ワルキューレは決して期待を“裏切らない” 3rdライブで見せた『マクロス』シリーズの伝統
レイナΔ東山奈央とマキナΔ西田望見が向き合いながら歌って愛らしいコンビネーションを見せた「ジリティック BEGINNER」、真っ白に染まった客席のサイリウムがアニメでの雪降る景色を思わせたフレイアΔ鈴木みのりのメイン曲「God Bless You」など、この日のライブにはメンバーそれぞれの見せ場が用意されていたが、そのなかにあって随一の輝きを見せていたのが、ワルキューレのリーダーでもあるカナメΔ安野希世乃だったのではないだろうか。レイナΔ東山奈央とマキナΔ西田望見を率いて躍動感あるダンスと歌声で魅せた「涙目爆発音」の爆発力も凄まじかったが、イントロから絶叫のような歓声が上がった「AXIA〜ダイスキでダイキライ〜」は本公演のハイライトとも言える一曲に。同曲が重要な役割を果たす劇場版の感動的なシーンがスクリーンに映し出される前で、祈り願うように歌い、最後には膝をついて崩れ落ちる安野の姿は、カナメが重なって見えるかのようだった。
〈マクロス〉シリーズを象徴する名曲「愛・おぼえていますか」のバンドによるインスト演奏(西脇によるハーモニカソロが絶品!)が哀愁味のある余韻を残すなか、衣装チェンジして再登場したワルキューレは、ここでとっておきの秘密兵器を投入する。情熱的なアップチューン「ワルキューレがとまらない」を歌っている最中に彼女たちの立っているステージが動き出し、なんとそのまま客席へとせり出すように前進したのだ。
ムービングステージと称するこの秘密兵器によってアリーナの最後方まで隈なく移動してヴァールのワクチンライブを届ける彼女たち。ステージの場所を動かしながら「いけないボーダーライン〜Album Ver.〜」「一度だけの恋なら」「絶対零度θノヴァティック」「破滅の純情」とキラーチューンを休みなく連発する。まるでフレイアのように無邪気にはしゃぎまくるフレイアΔ鈴木みのりも目立っていたが、ここで圧倒的な存在感を示したのはワルキューレのエースボーカルである美雲ΔJUNNA。歌い出しで気合いを溜めるようにしゃがみ込み、そこから一気に声を突き上げる全身を使った歌唱は彼女ならでは。特に「破滅の純情」での気迫に溢れた歌いっぷりは、まだ高校生とは思えぬ貫録と風格が備わっていたように思う。
ここまでのライブでヴァール発生危険率を25%まで低下させた彼女たちは、「歌は希望!」「歌は愛!」「歌は元気!」「歌は命!」「歌は神秘!」という各自の決め台詞のコール&レスポンスで会場とのシンクロ率をさらに高め、ダメ押しとばかりに力強い歌の五重奏が5人の結束と信念の固さを物語る「ワルキューレは裏切らない」、ラップ風の歌唱も交えたディスコ・ポップ「Dancin' in the Moonlight」という新曲2曲を立て続けに披露。劇場版のエンディング同様、この先の希望を感じさせる明るい雰囲気のなかライブ本編は終了した。
その後、盛大なワルキューレコールを受けてスクリーンに映し出されたのは、敵側であるウィンダミア王国の空中騎士団メンバー。ロイド、キース、ボーグの3人がライブビューイングでちゃっかりワルキューレのライブを楽しんでたという設定のコント風寸劇で会場に笑いを誘う。そして最後にキースが「ルンに未知なる風を感じる……このキラッとした風は?」と締め括り、その言葉に客席の期待が高まるなかステージに現れたのは、フレイアΔ鈴木みのりと、シークレットゲストとなる中島愛の二人だ。彼女たちは中島が演じた『マクロスF』のヒロイン、ランカ・リーの代表曲「星間飛行」をデュエットで歌唱。アニメの劇中でランカはフレイアの憧れの存在として描かれており、鈴木自身も中島に憧れてマクロスのオーディションに応募したという経緯がある。2ndライブに続いての共演と決め台詞の「キラッ!」にときめいた人も多かったのではないだろうか。
続いて中島がソロで『マクロスF』の楽曲「アナタノオト」を歌い、さらにワルキューレと6人で「不確定性☆COSMIC MOVEMENT」をコラボ。24日公演には『マクロスF』でシェリル・ノームの歌唱パートを担当したMay'nがゲスト出演して話題となったが、このように各世代のディーバたちが縁を繋ぎながら名曲たちを歌い継いでいく演出は、今年でTV版『超時空要塞マクロス』の本放送から36年目という長い歴史を持つマクロスシリーズだからこそできる部分だろう。
最後はTV版『マクロスΔ』前期エンディングテーマ「ルンがピカッと光ったら」で、会場全員があらん限りの声を張り上げ合唱して大団円。アンコール時のMCではそれぞれキャラクターを離れて個々人の想いを語ったメンバーだが、5人の中では年少組のJUNNAと鈴木が感極まって涙を流すシーンはあったものの、2ndライブの時のようなどこか“最後のライブ”を感じさせる雰囲気はなく、ワルキューレとしての“この先”があることを強く信じるような内容だった。それがいつどのような形で実現するかはわからないが、今回の公演でランカやシェリルといったかつての歌姫が復活したように、マクロスシリーズが続く限りワルキューレの灯も絶えることはないはず。鈴木、安野、東山の3人はそれぞれソロで来期のアニメ主題歌を担当することが決まっており、昨年にソロデビューしたJUNNAも春にはツアーを控えているが、そういった各自の活動を経て、きっといつかまた5人で息の合った歌声を聴かせてくれることだろう。ワルキューレは決して裏切らないのだから。
■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。