小熊俊哉の新譜キュレーション 第4回
FOB、Son Lux、Shame……「モデルチェンジと新世代台頭」を感じる新作4選
Shame『Songs of Praise』
そこから10年以上の月日が流れ、今度こそ中身の詰まったリバイバルが訪れるのかもしれません。激震地となっているのはサウスロンドン。Shameのデビューアルバム『Songs of Praise』は、NMEも満点の5つ星を進呈したフレッシュな充実作です。映画『T2 トレインスポッティング』でも楽曲がフィーチャーされていた過激派集団、Fat White Familyが拠点にしていたライブハウスで腕を磨き、Micachuことミカ・リーヴァイがMVの監督を引き受けるなど、今のロンドンが誇るアウトサイダーたちに愛されてきた平均年齢20歳の若き5人組。そのガレージサウンドは、今年1月に亡くなったマーク・E・スミス率いるThe Fallを連想させるものです。
といっても、The Fallは日本だとピンとこない存在かもしれません。例えば、サイモン・レイノルズの名著『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』では、The Fallに関するくだりで「本当に不気味なヴォーカルがのった、荒々しい音楽」「白い稲光のような不協和音の襲撃」「不機嫌な頑固」などゾクゾクする形容が並んでいます。あるいは、一昔前のリバイバルでは参照元として抜け落ちていたけど、上述したロマンポルシェ。のコンピにはSucideやNapalm Deathなどと並んで収録されていました。そういう「本物」ゆえのヤバさが、Shameの音楽にもパンパンに詰まっているように思います。
そもそも、不良っぽくてニヒルな音楽性なのに、『Songs of Praise』のジャケットではみんな子犬を抱えているという、その皮肉めいたインテリジェンスも只者ではないというか。それに、ジェイムス・ブレイクと一緒に1-800 DINOSAURを運営するダン・フォートと、彼の相棒であるネイサン・ボディが本作のプロデュースを担った点でも明らかなように、Shameは現代的な耳とクレバーさも持ち合わせている。どんなふうに発展していくのか、非常に楽しみな存在です。
それにしても、最近はサウスロンドンに注目が集まっているようで、どこに出かけてもその話題になります。実際のところ、ポストパンクの遺伝子を受け継ぐGoat Girlのようなロック勢から、2018年の顔になりそうなトム・ミッシュやCosmo Pyke、Puma Blue、UKジャズのEzra Collectiveなど新世代がどんどん台頭しており、噴火寸前の盛り上がりを感じずにはいられません。今年のキーワードとして注目してみるのは、大いにアリだと思います。
■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3。