ストレイテナー×秦 基博『灯り』特別対談
ストレイテナー ホリエアツシ×秦 基博が語り合う、共作で生まれた“新たな物差し”
来年で結成20周年、メジャーデビュー15周年という節目を迎えるストレイテナーが、アニバーサリーイヤー企画第二弾としてシンガーソングライターの秦 基博と、コラボレーションシングル『灯り』をリリースする。
同曲は、「冬のラブソング」をテーマに、大切な人の元へと帰っていく恋人の心の動きを歌ったミドルバラード。三拍子のリズムを基調に目まぐるしく変化していくコード、ダイナミックなバンドアレンジ、そして心のひだに染み渡るようなメロディは、ホリエアツシ(Vo)と秦が膝を突き合わせながら共作をしたからこそ、生み出されたものといえよう。さらにカップリング曲では、ストレイテナーが秦の「鱗(うろこ)」をカバーしており、テナー節全開にアレンジされたバージョンは両者のファン、共に必聴だ。
今回リアルサウンドでは、ホリエと秦の対談を実現。実際の共作が、一体どのように行なわれたのか、そのプロセスに迫った。(黒田隆憲)【※インタビュー最後には、チェキプレゼントあり】
「自分にない領域を持った人」というのが最初の印象(ホリエ)
ーーお二人が出会ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが主催するNANO-MUGEN FES.の会場だったそうですが、お互いの音楽については、それまでどんな印象を持っていました?
ホリエ:僕が初めて秦くんの音楽を聴いたのは、確か2007年くらいだったと思います。北海道の空港で、ラジオの公開収録を秦くんがやっていて。当時の僕は、いわゆるロックバンド界隈の人たちとしか交流がなくて、秦くんのことは名前を知ってたくらいだったんですね。で、その時にアコギを弾きながら歌っている姿を初めて見て、その存在感の大きさに感動したんです。「ギターの弾き語りって、こんなにいいものなのか」と思ったのは、それが生まれて初めてのことだったかもしれない(笑)。そのくらい印象深かったのと同時に、「俺はとてもじゃないけど、弾き語りなんてできないな」と思わされてしまったんです。
秦:僕がストレイテナーのことを知ったのは、自分がデビューする前ですね。シンプルな言い方ですが、「かっこいいロックバンドだな」と。そんな風にストレートに思えるバンドって少ないし、第一印象でそう思わせるってかなり重要だし難しいことだと思うんですよ。それをすんなり思わせるってすごいバンドだなと。もちろんそこには、サウンドの質感やメロディの良さ、ホリエさんの声の存在感など、すべて含まれていると思うんですけど。
ーーじゃあ、最初はお互いに自分にないものに惹かれているという感じだったんでしょうかね。
ホリエ:そうですね。「共感」というよりは、「自分にない領域を持った人」というのが最初の印象かもしれないです。弾き語りをやるようになったのが2012年くらいからで、最初は自分の曲ばかり歌っていたんですけど、弾き語りだと自分のことを知らない人が集まる場所で歌うことも結構多くて。そういう時、他のアーティストたちを見ると、The Beatlesの「Let It Be」やB.B.キングの「Stand by Me」のような、誰もが知る洋楽のスタンダードをカバーしているんですよね。それを参考にしつつ、自分はRadioheadなんかを歌ってみたんですけど、それだと子供やご年配のお客さんには分からないわけです(笑)。それでしばらくもがいていたんですが、ふと秦くんの「アイ」を思い出して。初めて日本人アーティストの曲を、カバーしてみようと思ったんです。
秦:そういうきっかけだったんですね。
ホリエ:そうそう。そしたらお客さんに「『鱗(うろこ)』も歌ってください」って言われて(笑)、やってみたりしていたら、そのうち秦くんが風の噂で聞きつけてくれたんです。
秦:どうやらホリエさんが歌ってくれているらしい、と。嬉しかったですね。ストレイテナーの楽曲って、ビートも激しかったりすることが多いじゃないですか。そんなレパートリーの中に、自分の楽曲を組み込んでもらえたというのは本当に光栄でした。
ーー聴いているのと、実際にカバーして歌ってみるのとでは印象はどう変わりました?
ホリエ:まず、カバーするにあたって自分が本当に好きな曲というのが大前提としてあって。「みんなが知っている曲」という基準だけでは選べなかったし、実際に歌ってみて良くないと嫌だなと思ったんですよね。当たり前ですが(笑)。だから、歌うにしても秦くんの歌い方を、「研究」とは言わないまでも、声の出し方とか真似してみたんです。そうすると、「あ、この辺の音はこうやったら声が出やすいんだ」とか、発声の仕方の調整が、自分にないぶん、自分にとっても学ぶべきところがあって。
ーー普段、使っていない部分の筋肉を鍛えるような感じでしょうか。
ホリエ:それもありますし、例えば「鱗(うろこ)」だったら、一番高い音域を、最初はとにかく張って出そうとしていたのを、フッと力を抜いて歌ってみた時に、その高さがスコーンと出るみたいな。力の入れどころに関する新たな発見があって。それは、自分が今まで作ってきた楽曲にはない気持ち良さでもあったので、その後の自分の曲作りや歌い方にも少なからず影響されましたね。自分の体に、秦くんの作風が入っていく感じというか。
ホリエさんはジャッジが早い(秦)
ーー今回のコラボ曲「灯り」の制作プロセスについてお聞きしていきたいのですが、2人で共作することになって、まずはまっさらな状態でスタジオ入りしたそうですね。
ホリエ:そうですね、テーマだけは事前にざっくりと決めておきましたが。冬の時期に出す曲なので、「冬」をテーマにしつつ「誰に向けての曲なのか?」ということを考えました。
秦:実際の曲作りに関しては、スタジオで膝を突き合わせながら「こんなのどう?」、「あ、いいっすね」「じゃあ、次はこんな展開で」っていう風に、その場でどんどん作っては録ってカタチにしていきました。それでまず、1曲出来上がったんですよね。で、「別のアプローチも試したいな」ということになり、最終的に2曲作った。
ホリエ:まず初日に作っていた曲が、結果ボツになったんですけど、その日はほぼ1日それに費やしたっていうくらい、時間をかけて。「これはこれで、一つカタチになったことにしましょうか」ってなり、休憩している時に秦くんがふと弾き始めたのが、この「灯り」という曲のサビのコードだったんです。「こういう感じもアリっすよね」みたいな感じで。それを聴いた瞬間、「それで決まりだろ」って思った。
秦:(笑)。その日、1日かけて作った曲は、もう今日は「打ち止め」みたいな感じでもあったんですよね。この曲を今日、これ以上詰めても良くならないだろうと。「各自で持ち帰った方がいいよね」っていう雰囲気がおそらく漂っていたんですよね。
ホリエ:そう。時間をかければまあ、良くなるのかもなって。
秦:穴掘りに喩えると、掘って掘って行き止まったから、「じゃあ別の部分を掘ってみようかな」と思って試してみたら、ずいぶん土が柔らかくて(笑)。「おお、いけるいける」って感じで、その二つ目の曲もその日のうちに結構進んだんですよね。
ホリエ:そうだったね。それで候補曲が2曲できて、帰りに車の中でずっと鼻歌で歌っていたら、2曲目のイメージの方がどんどん湧いてくるんですよ。楽曲の展開や、アレンジにおける緩急のつけ方のような具体的なアイデアも、ほとんどその時点で思いついた。なので、翌日はその曲だけに集中して作業していきました。それが「灯り」なんです。
秦:サビのメロディをブラッシュアップしたり、展開部分を考えたり。そんな感じで、その二日間でメロディは全て完成しましたね。
ーー未完成の状態でも様々なイメージが浮かんでくる楽曲の方が、採用されやすいというか、いい曲に仕上がる可能性が高いということなんですかね?
ホリエ:うん、確かにそんな気はしますね。
秦:こねくり回さなければ展開が思い浮かばない曲というのは、その時点でちょっと無理があるというか。何にもしなくても次々にアイデアが浮かんで、どんどん進んでいく曲の方が仕上がりも良くなる傾向にありますね。
ーーもう一つ思ったのは、最初の曲を作るために行き止まりまで穴を掘り続けていたからこそ、「灯り」に続く柔らかい土を見つけることができた、とも言えますか?
秦:ああ、きっとあると思います。それと、最初の曲作りで、お互いのやり方が分かってきたからこそ、次の曲を進めやすかったというのもあったのかなと。最初は「さぁ、どうやって作っていこう?」っていうところから始まってますからね。それが、まず1曲作ってみたことで、お互いの出方が分かったというか。「あ、そんなに遠慮しなくていいんだな」「もっとアイデアをどんどん出して、取捨選択していけばいいんだな」と思えたことで、次の曲がすごく作りやすかったし、作っていて楽しかったのだと思います。
ーー共作者としての、お互いの相性も良かったのですね。
ホリエ:僕、ジャッジが結構早い方で、きっと秦くんもそうだと思うんですよね。「これはどうかな?」って思ったことは、とりあえず試してみて、そうするとアリかナシかがすぐわかる。
秦:ホリエさんはメチャクチャ早いと思いましたよ、ジャッジが(笑)。「ここ、こういうメロディにしてみたらどうですかね?」っていうと即答で「前の方がいいかな」って返ってくる(笑)。でも、僕もその方が助かるんですよ。新しいアイデアが、必ずしも前のアイデアを「更新」してくれるとは限らない。でも、アイデアを出した方は「新しい方が良い」ってつい思いがちなので、そういうホリエさんのジャッジはありがたかったし、やりやすかった。
ホリエ:ガチガチに締め切りが決まっていたわけでもないので、「今日はここまでにしようか」という見切りも早かったし、変に粘らないで済んだんだよね。