ジャニーズ、女性アイドル、V系、K-POP……ファンの“浪費”から見える、各シーンの特徴と面白さ

『浪費図鑑』著者・劇団雌猫インタビュー

“買い支え”から“クラウドファンディング”まで、浪費への意識は千差万別

ーー『浪費図鑑』を読んでいて気になったのですが、浪費する理由や目的って対象によって変わるものなのでしょうか?

もぐもぐ:オタク趣味のない男性に「“V系バンドで浪費する女”の『このお金でメンバーに健康診断に行ってほしい』という感覚が自分にはまったくない発想だった」と言われたのが印象的でした。「ポール・マッカートニーのファンは多分そう思ってないよね」って言われて、うん、そうだなって(笑)。私も対象はV系バンドじゃないけどすごくわかる、投じたお金が本人の幸福や健康に直結してほしい欲求。

ユッケ:ポール・マッカートニーは私たちがお金払わなくても健康診断に行けるからね(笑)。私も“買い支え”系というか、私が払ったお金でこのグループが継続してくれたらいいなとか、この舞台を再演してくれたらいいなという気持ちはありますね。でも周りの話を聞いていると、その気持ち自体が推しを自分より下に見ていることになるから、そういう気持ちは持たないようにしていて、純粋にパフォーマンスへの対価として払っているという人もいます。

ーーお金を使う理由は応援する対象によって異なるというよりは、消費側の意識の持ちようということですね。

もぐもぐ:私の場合は、常にクラウドファンディングをやってるような感覚かもしれない(笑)。応援の気持ちをお金で示したい。舞台のグッズのブロマイドは、売れた分だけお金が俳優にバックされるんですよね。だから好きな俳優のブロマイドはたくさん買うし、同じ写真を何枚も持っています。同じものでも「今日も素敵でした」という気持ちを込めて買う!

ユッケ:ジャニーズの舞台やコンサートでもブロマイドが売っているんですけど、千秋楽の時に自分の担当のブロマイドを買い占める、“フォト一揆”と呼ばれる行動があります。ブロマイドの売れ行きはメンバーの人気を計る一つのバロメーターになので、売り切れになると事務所が「この子って人気があるんだ、じゃあもっと推そう」と思うのでは――そう考えたJr.担から始まった文化だと思います。Twitterに「【祝】◯◯くんブロマイド完売しました!」みたいなツイートが回ってきますし、たまに飲み会で、“一揆”を起こした首謀者からブロマイドが配られます(笑)。

ーーブロマイドが推しメンの宣伝活動にも使われるんですね(笑)。

ユッケ:だから“一揆”の場合は“買い支え”というよりも、「この子はこんなにお金になります! とにかく推しを推してくれ!」と運営側に訴える気持ちが強いですね。

もぐもぐ:みんな行き場がない感情をお金で表しているんだよね……。それで序列が変わるとは限らないけど、行動せずにはいられない。AKBグループの『選抜総選挙』文化はそれをおおっぴらにやってるからすごいですよね。実際にシンデレラストーリーもあるわけで。

ユッケ:ジャニーズにも『総選挙』的な文化は一応ありますよ! 雑誌『MYOJO』が年に1回行っている「あなたがえらぶJr.大賞」という読者ランキング企画。 雑誌に1枚だけ応募用紙がついていて、「弟にしたい」とか「歌がうまい」とか項目がたくさんあって、その項目ごとにJr.の名前を書いていくんです。中でも特に「恋人にしたいJr.」部門で1位になったJr.がその時いちばん勢いがあるという空気がなんとなくあって。第一回目の時は現V6の森田剛くんと三宅健くんが同率1位、そこから、山下智久くんや赤西仁くん、中島健人くんなど人気のアイドルはだいたい複数年連続1位を取っていて。……だからみんな自分の推しを1位にしたいんです。私も自分の担当に10位以内に入って欲しいから、『MYOJO』を何冊も買ってひたすら応募しています。

もぐもぐ:CDじゃなくて雑誌をいっぱい買うんだ! へえ~!

ーー女性アイドル全体で見た場合、特徴的な文化を挙げるとすると?

もぐもぐ:『浪費図鑑』では乃木坂46の握手会の話を書いてもらったのですが、握手会ってオタクじゃない人から見ると意味がわからないイベント代表だと思うんですよね。私も通い始める前は「たった数秒話すだけって何が楽しいんだ?」って思ってたけど……楽しいんですよ! 10秒あると、頑張れば2~3往復ぐらいは会話ができるので、成功するためには戦略が必要です。並んでいる間にずっとその子のブログを読みながら、何の話しようかな、どうしたら盛り上がるかな、と頭を悩ませて。短い時間で伝えたいことを伝えるの、面接の練習になると思うんだよなぁ……!

ーー『浪費図鑑』を手がけるにあたり、印象的だったジャンルはありますか?

ユッケ:私は“EXOに浪費する女”かな。K-POPアイドルって、ジャニオタから見ると同じ男性アイドルでありながら近くて遠い存在なので、「こんなに世界中を股にかけて活動しているんだ」ということにまずびっくりしました。メンバーが突然お休みするとか、突然ダブルキャスト的に入れ替わっているとか、推しが出てくる演出が翌日消えているとか、「推しがライブに出ない」というのはジャニーズJr.でもあること。でも、せいぜい長野で見て好きだった演出が大阪に行ったらなくなっていたというレベル。K-POPの場合、アメリカまで行って推しが出ないって、もう規模感が違いすぎて……。辛いのはすごく分かりますけど、アメリカに行って推しがいなかったらどんな気持ちになるのか。考えてみてもスケールが大きすぎてうまく想像できなかったです(笑)。

もぐもぐ:私は“東京ディズニーリゾート”かな。ディズニーはどうしても『浪費図鑑』に入れたかったのでした。

ーーそれはなぜでしょう?

もぐもぐ:まず、「リア充」の象徴ですらあるディズニーランドやディズニーシーをオタク的に楽しんでいる人がいるって、人によってはすごく新鮮だと思うんですよ。しかも、いろんな楽しみ方があるんですよね。建物が好きな人とか、植物に興味がある人とか、ダンサーを追いかけている人とか。「いつものディズニーにこんな見方が!」と知ってもらうことで、普通に遊びに行った時にも思い出してもらえたらいいなと。バズーカ砲みたいな大きいカメラを持っている人がいたら、この人毎日ここでミッキーの姿を捉えているのかな、と想像したり。今回はミッキーマウスが大好きな方に書いていただいたんですが、二次元キャラクターとも三次元のアイドルや俳優とも違う、ミッキーだからこその「推せる理由」が綴られていて、本当に名文です!

ーーでは、今回の『浪費図鑑』には掲載していない最近気になるジャンルのオタクはいますか?

ユッケ:私は最近、Twitterの美容アカウント(美容垢)を見るのがすごい好きで。モノとしてコスメが好きで、コレクターみたいにコスメを集めて、コスメの使用感を教えてくれるのが表の美容垢。裏の美容垢は、“整形依存の女たち”のドキュメントのようなんです。手術した後、腫れが引くまでの期間をDT(=ダウンタイム)と言うんですけど、DT中は普通に仕事に行くと整形したってバレちゃうから、イケてる美容垢はその間に海外旅行とか入れるんですよ。整形に何百万と使っているアカウントもあって、何の仕事をしているのか本当にわからなくて。韓国とかタイまで整形旅行に行く人もいるし……。美容垢の間でもブームな整形法があって、「次はこれやりたい」とかツイートしたり。そういうのって、実名だとできないですもんね。

もぐもぐ:確かに実名じゃできないね……! 知らない側から見ると整形を繰り返す感覚ってわからないけど、その投資の先に幸せな世界があるのかもしれないですよね。共感できるかは別として、どんなことを考えているのか知りたいなぁ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる