乃木坂46 3期生舞台『見殺し姫』が示した、アイドル×演劇の新たな理想形

 何より重要なのは、月日が流れて離別の時を迎えた12人が、それぞれの決断と運命に身を任せながら、散り散りになってゆくまでを描ききっていることだ。再度、アイドルとしての彼女たちの属性に引きつけるならば、以下のようなことがいえる。すなわち『見殺し姫』は、元来ばらばらだった者たちがある刹那に結束し、いつしかそれぞれの道を選びとってゆくという3期生たちのまだ見ぬ道程を、演劇的な設定の中で想像させる作品になっている。ラストシーン、曼荼羅として描かれる絵面は、在りし日の12人の姫たちの活き活きとした姿の記憶であり、同時に3期生たちがこれから見せる未来の想像図でもある。

 演者としてのスタート地点に立った若者の身体を通じて、人間の一生分、もしくはそれ以上の長さを見通す普遍的な景色を描いてみせることは、アイドル×演劇のひとつの理想形である。乃木坂46はこれまでも演劇作品を通じてそうした試みを続けてきたが、『見殺し姫』では松村武の手による当て書きで、その系譜につらなる新たな形を手にした。それに応えて、3期生の各メンバーが、『3人のプリンシパル』から急速な進歩を見せて物語世界を成立させたことも、来年以降に期待を抱かせる。

 今年の乃木坂46はかつてなく、世間的に大きな存在として人気を博してきた。トップグループになることはポジティブな成果と背中合わせにさまざまな制約を生み、グループが草創期のようなペースで主導権を握って自前の物語を紡ぐことを困難にもしてゆく。そうした環境下にあって、3期生については独自路線を保ち、乃木坂46メンバーとしての基礎を着実に、かつ急速に育んだ。2017年の乃木坂46の活動を後から振り返るとき、3期生の躍動は大きな財産として記憶されるはずだ。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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