「テレビが伝える音楽」第4回:日本テレビ 演出/プロデューサー・利根川広毅氏
日テレ音楽特番『THE MUSIC DAY』総合演出が語る、アーティストの魅力伝える映像へのこだわり
熱量が伝わる映像へのこだわり
ーー今年出演されたアーティストで印象に残っている方はいますか?
利根川:僕がブッキングした方々で言うと、布袋寅泰さん、竹原ピストルさん、UVERworldですね。布袋さんに関しては、今回番組のテーマ曲を書いていただきました。僕が小学生の時って、BOØWYが一番の“アイドル”だったんです。だから布袋さんとは話しているだけでも緊張しますが、テーマソングの書き下ろし、しかもそれをオープニングで弾いてほしいという企画書を持っていったのはかなり緊張しましたね。ご一緒できることが決まってからはどんな曲にするか意見を出させてもらったり、布袋さんがいつも使っているロンドンのスタジオでのレコーディングに立ち合わせてもらったり、カメラで密着させてもらったり……とても貴重な日々を過ごさせていただきました。
ーー布袋さんの『THE MUSIC DAY』への出演、一番よかったと思う点は?
利根川:僕としてはBOØWYを知らない若い世代に、布袋寅泰さんの音楽やギタリストのかっこよさを伝えたいという思いがあって。最近バンドシーンも少し元気がよくなってきましたけど、もう立ち姿だけでかっこいい、演奏してやっぱりかっこいい、カリスマ性のある人たちが少ないと感じているんです。そういうかっこいいミュージシャンの存在を知ってほしくて、布袋さんにご出演いただいたという経緯もあります。布袋さんは今年でキャリアが36年目なんですが、その間には映画『キル・ビル』のテーマ(「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」)や嵐の「心の空」、ももいろクローバーZの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」、今井美樹さんの「PRIDE」、もちろんBOØWYの楽曲など、ソロ以外にもたくさんの曲を手がけられてきていて。番組ではそれらを全部凝縮したメドレーも披露していただきました。ほとんどの曲はギターインストで、「さらば青春の光」だけワンコーラス歌っていただきました。ソロのギタリストというかっこいいジャンルがあることを、若者に知ってもらえるきっかけになっていたら嬉しいです。
ーー竹原ピストルさんは、どういった点が印象に残っていますか?
利根川:竹原さんは、僕がここ数年とにかくライブで一番衝撃を受けた方で。ライブを観て完全にやられてしまって、「一緒になにかやらせてください」とアプローチし続けていた一人ですね。彼はライブをたくさんやる方で、特に土日は早くから埋まってしまうので、ブッキングできるかわからない状態の時から放送日のスケジュールを空けておいていただくようお願いしていました。それくらい出てほしかった。僕が竹原さんのライブで一番やられた曲が、番組でも披露した「Amazing Grace」。特番の出演であれば、CMで使われていた「よー、そこの若いの」、ドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)の主題歌だった「Forever Young」を歌うのが普通の流れだと思うんですけど、彼にはどうしても「Amazing Grace」を歌ってほしくて。
ーー歌唱時の映像の熱量が、ネット上でも話題になっていた記憶があります。
利根川:竹原さんの歌唱シーンで特にこだわったのは、照明をピンスポットのみにしてステージを真っ暗にしたこと。あと、僕が竹原さんを撮る時は、絶対カット割りをしないようにしていて。歌に画が引き込まれるというか、カメラマンもスイッチャーも照明も、なにも手出しできない感じになるんです。彼が歌い出すと引き込まれて、表情のアップで押し切りたくなる。カメラワークをしなくてもいいんですよね。逆光でエッジが出た横顔を映すのが一番熱量が伝わるし、陰影ができることで歌っている時に飛ぶツバまではっきり映るんですよ。それがかっこよくて。
ーー画面に動きをつけずに暗がりの中で見せ続ける。かなり勇気のいる演出なのでは。
利根川:そうですね。勇気はいりますけど、迷わなかったです。テレビの画面は明るい方が数字が取れるという定説があるんですが、僕はそれを全然信じてなくて。最初に日テレに来た時もよく演出の人に「暗いぞ。どういう発注してるんだ」と怒られていました(笑)。自分が演出をやるようになってからもブレずにどんどん暗くしていて、たまにチーフプロデューサーからやりすぎだと怒られることもあるくらい(笑)。
ーーアーティストごとにもっとも良い見せ方を追求しているんですね。竹原さんのステージは、まさにライブで観た時のような臨場感がありました。
利根川:もちろんアイドルは明るくていいですし、アーティストや曲によってですよね。曲とその方の世界観に合っているかどうかだけだと思うので。
テレビ出演への道を切り開いていくという役割
ーーそして印象に残っているアーティストのもう一組、UVERworldも今回の出演が視聴者の間で大きな話題を呼びました。どういう経緯で出演が決まったのでしょう?
利根川:昨年、復活タイミングでTHE YELLOW MONKEYに出演してもらったのですが、これがかなりインパクトがあったようで、その流れでいろいろなテレビ番組が決まるなど、1年間の盛り上がりの一端を担えた感じがありました。そのTHE YELLOW MONKEYのチームの近いところにUVERworldのチームがいて、「来年はUVERworldを盛り上げましょう」と声をかけたのがきっかけです。彼らはここ6年くらいほとんどテレビには出ていなかったのですが、まずは秋の『バズリズム LIVE 2016』に出てもらったりしながら、『THE MUSIC DAY』の出演へとつなげていきました。
ーーアーティストのテレビ出演への道を切り開いていくのも、役割の一つなんですね。
利根川:まさに僕らのやりがいでもあります。スタッフ一丸となって培ってきた、ミュージシャンとの信頼関係を大事にしながら進めている部分でもありますね。音楽番組のレギュラーは深夜枠の『バズリズム』しかない、あとは年に2回の特番しかないチームなので、正直アーティストに出演交渉することが難しい立場ではあって。だからこそ小さな番組でも良い仕事をして、特番の1回でも一生懸命良いかたちでオンエアして……という日頃の積み重ねです。昨年のTHE YELLOW MONKEYの出演がなかったら、UVERworldの出演もなかったと思いますし。布袋さんも実はかなりの年月をかけて交渉して、やっとご出演いただけた一人なんです。
ーーテレビ出演に対するミュージシャンの考え方は、今と昔で違いがもちろんあるとは思いますが、出たいという方ばかりではもちろんないですよね。
利根川:テレビに出ない方々の、出たくない理由もよく分かります。テレビに出るとかっこ悪く見えるんじゃないかとか、テレビに出る必要がそもそもないとか。でも、僕らは良いと思ったミュージシャンが少しでもいろんな人に届くお手伝いができると信じていて、少しでも多くの人に音楽を届けたいし、知ってほしいと思っています。UVERworldもすでに人気があるアーティストですが、彼らのライブの凄さをまだ知らない人たちに少しでも届けたいという思いで臨みました。
ーー特番はより多くの人が観る番組ということもあり、どうしても視聴者が望む、誰もが知っている出演者を揃えるというイメージもありましたが、新たな出演者にも積極的に目を向けていると。
利根川:ブッキングに関してはチーム全体で近い感覚を持つことができていて、新しいミュージシャンたちにもどんどん出演いただきたいという思いがあります。