DISH//にとって「MUSIC BOIN」とは何だったのか? 雨空の日比谷野音で伝えた音楽への情熱
びしょ濡れのステージに跪き、シャウトする北村匠海(Vo/Gt)。客席でレインコートを振り回し、観客を煽る橘柊生(Fling Dish/RAP/DJ/Key)。セクシーにささやくような「Shall We Dance????」の歌声で観客を沸かせた矢部昌暉(Cho/Gt)。ぶっといグルーヴを奏でつつ、ダンスパートではメンバー&ダンサーズを牽引した小林龍二(Rap/Ba)。確かなドラミングでバンドを支えた泉大智(Dr)。豪雨のなか、<この“5人”は家族同然>と歌いながら笑いあっていた5人の姿が忘れられない。
9月17日、台風18号の影響による荒天の中で決行された『DISH//日比谷野外大音楽堂公演17’秋 「MUSIC BOIN!!(ミュージックボイン)」』は、想像を上回るほどの悪いコンディションでスタートした。序盤でステージは水びたし、匠海のヘッドセットから音が出なくなり、ダンサーたちが見せ場でステージ上の水たまりに足を取られるなどアクシデントが多発。それでも彼らはアーティストとして、最高にエモいステージを見せてくれた。
“謎の至宝「MUSIC BOIN」が何者かに盗まれた!”というニュース映像がスクリーンに流れたあと、特効が炸裂し最新シングル「僕たちがやりました」(ドラマ『僕たちがやりました』(テレビ東京)主題歌)がスタート。徐々にスモークが薄くなり、黒のロングコート姿で現れた5人のクールなビジュアルに思わず息をのむ。
歌えて踊れて楽器も弾けるDISH//のパフォーマンス形態は楽曲や場所によりさまざまだが、この日のセットリストの8割がたがバンド演奏によるものだった。4曲目には「サイショの恋~モテたくて~」、5曲目には「FLAME」(ともに2014年発表)と、メジャーデビュー当時の代表曲を続けてパフォーマンス。バンド演奏で披露する初期の楽曲には、不思議な感慨がある。この日はDISH//にとって4度目の野音となったが、2014年の同会場ではステージ上で盆踊りを行っていたことなどをふと思い出す。まぎれもないロックバンドである今日の彼らの姿を、当時想像していた人はいただろうか。すでにセットした髪もびしょ濡れの匠海の先導で大合唱するスラッシャーたちを見て、そんなことを考えていた。
ダンスロックバンド・スタイルで「HIGH-VOLTAGE DANCER」などをパフォーマンスしたあとは、大智のドラムソロへと突入。加入してまだ1年に満たない大智だが、力強いドラミングにはすでにバンドの屋台骨としての風格が漂っていた。インタビューで「大智はDISH//になるために生まれてきた男と言っても過言じゃない」と柊生が話していたが、彼の加入がバンド内における新たな化学反応を誘発したことは間違いないだろう。(参考:『SUNDAY FOLK PROMOTION』 DISH//インタビュー)
そんな空気感は、数曲挟んで披露された柊生のDJから始まる各メンバーのソロコーナーでも感じられた。柊生はドラムンベース風サウンドでクラブ系フェスのような空間を演出。続けて龍二は骨太なチョッパーで、昌暉はソロ曲「Pa Pa Pa パンティー!」のフレーズをコラージュした遊び心のあるソロで会場を沸かせ、一音一音を楽しむように笑顔でセッションを繰り広げた。
このソロコーナーに至る合間の「ザ・ディッシュ ~とまらない青春 食欲編~」では、5人が客席でスラッシャーたちと触れ合うサプライズもあった。後輩のSTAR BOYSがステージを盛り上げるなか柊生が通路を駆け抜け、龍二は三日月スマイルでファンとハイタッチ。大智が通路に設置されたお立ち台で四方のスラッシャーを盛り上げたかと思えば、昌暉は投げキッスを繰り出し、匠海は「もうぐちゃぐちゃになれー!」とシャウトするというカオスな空間。この辺りから、雨脚はさらに激しさを増していった。
DISH//一番のキラーチューン「愛の導火線」ではギターがやや聴こえにくくなるトラブルもあったが、リズム隊とキーボードが強調されてジャズっぽく聴こえるという、レアな演奏を堪能できた。「皿に走れ!!!!」では、ハンドマイクを持った匠海が客席に下りてスラッシャーにマイクを向けたり、ラストで「横浜スタジアムーーー!」と彼らの夢である会場の名前を叫びながら熱唱。この日この場限りのステージが持つエモさが、5人とスラッシャーの中でどんどん膨らんでいくように感じた。
続けて、匠海がギターをアコギに持ち替え、じっくりと歌を聴かせるナンバー「モノクロ」(匠海が作詞参加)へ。前述のとおりDISH//は多面的な魅力を持つグループだ。この『MUSIC BOIN!!』の“本題”は、本人たちが作詞作曲に関わった曲が続くここからのブロックにあったのではないだろうか。大智を含めた5人が、ダンサーを交えてスタイリッシュかつキレのあるフォーメーションダンスを披露した「Loop.」(柊生が作詞・作曲に参加)も、バンド演奏する彼らに慣れた目には衝撃的だった。DISH//として初めて作詞作曲したという「また明日。」では、龍二が<この4人は家族同然>というリリース当時のリリックを<この5人は~>と歌い替え、柊生は大智に向けて手で“5”のサインを出し、それを観た大智が顔をほころばせる。ほんの一瞬だったが、雨と風で気温が下がりきった中で、心が温まるような一幕だった。
繊細で美しい楽曲の世界観にバレエダンサーが華を添えた「暮れゆく空の彼方に」に続けて、ステージにじっと見入るスラッシャーたちが息をのんだのは、この日がライブ初披露となった「猫」(『僕たちがやりました』カップリング)だった。柊生のピアノによるイントロが一瞬やみ、匠海の伸びやかなアカペラが日比谷の雨空に響き渡る。この曲は、個性派シンガーソングライター・あいみょんの提供曲で、歌詞の主人公は匠海をモデルにあて書きしたと明かされていた。視界が悪くはっきりとは見えなかったが、ぬぐいようのない失恋の悲しみを抱えた主人公の胸の内を歌い上げる匠海は、少し涙ぐんでいるようにも見えた。
この日のハイライトといえるドラマティックな楽曲のあとに再度ニュース映像が流れ、“MUSIC BOINを盗んだのは音楽を愛するロックバンド・DISH//!”だと報じられた。そこからステージは、「Newフェイス」(『僕たちがやりました』カップリング)へと突入。ショッキングピンクのライティングに照らされ、彼ら史上最高に激しいデジロックサウンドを叩きつける5人にただただ圧倒される。本編ラストの「東京VIBRATION」では、(おそらく予定にはなかったと思われるが)柊生が客席センターまで飛び出して、タオルを回すスラッシャーたちを大いに盛り上げていた。