村尾泰郎の新譜キュレーション 第15回
Deerhoof、アリエル・ピンク……アートか天然か? アバンギャルドなセンス炸裂した新作5選
チャド・ヴァンガーレンはカナダ出身のシンガーソングライター/マルチプレイヤーで、アニメも手掛ける映像作家の顔も持つ男。名門<SUB POP>からリリースされる新作『Light Information』は、いつも通り、ほとんどの楽器を自分ひとりで演奏していて、彼の二人の娘がゲストで参加している。荒々しくてヨレヨレなロックンロールのなかを、シンセや奇妙なエフェクトが飛び回り、サイケデリックで歪んだポップセンスが炸裂。60年代ロックをベースにしたローファイでオルタナティブなサウンドはGuided By Voicesあたりに通じるところもある。ザラついたサウンドのなかに美しいメロディが隠されていて、曲の核にあるのはチャドの生々しい感情。スクラップ置き場を掻き分けるようにアルバムを聴き進むにつれて、内省的でエモーショナルな歌の世界が広がっていく。
グラムロック〜テクノポップ〜ニューウェーヴなど、50年近くに渡ってモダンなポップセンスに磨きをかけてきたベテラン、Sparks。そのサウンドは、辛口のモリッシーを魅了するほどオリジナリティに溢れている。そんな彼らの新作『Hippopotamus』は、バンドの中心的存在、ロンとラッセルのメイル兄弟が中心になって緻密に作り上げられた。重厚なオーケストラ、エレクトロ、ギターサウンドと彼らの特徴を巧みに織り交ぜた、奇抜で洗練された音作り。そして、ラッセルの年齢を感じさせないハイトーンボイスと複雑なコーラス・アレンジが生み出すドラマティックでウィットに富んだ楽曲の数々は、まさに“スパークス劇場”。現在、彼らはフランス映画の鬼才、レオス・カラックス監督のミュージカル映画のサントラを制作中だが、カラックスはSparksの大ファンで、なんと本作にゲスト参加している。映画とサントラの仕上がりが楽しみになる快作!
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。