『オラシオンのテーマ ~共に歩こう~』リリースインタビュー

映画『ポケモン』20周年記念作品主題歌はどのように生まれた? 本間昭光×Aqua Timez太志対談

 『ポケットモンスター』の映画20作目を記念して制作された『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』。このエンディング主題歌「オラシオンのテーマ ~共に歩こう~」が、ファンの間で話題を呼んでいる。この楽曲は劇場版1作目以降、全てのポケモン映画で音楽を担当してきた作曲家の宮崎慎二が、2007年に公開された劇場版10作目『劇場版ポケットモンスター ダイアモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ』の劇中曲として手掛けたファンにも人気の高い「オラシオンのテーマ」がベースとなっている。この名曲をポケモン映画20周年記念作品のエンディング主題歌として再構築するため、Aqua Timezの太志(ふとし)が歌詞を、本間昭光が補作曲と編曲を手がけ、更には14年ぶりにポケモン映画の主題歌に起用された林 明日香が歌唱した。今回リアルサウンドでは、太志と本間にインタビューを行ない、楽曲制作の裏側について徹底的に話を訊いた。(編集部)

【公式】2017ポケモン映画エンディング主題歌「オラシオンのテーマ ~共に歩こう~」

 まずこの対談の前段部分として、ポケモン映画の20作目の『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』の主題歌が、なぜ「オラシオンのテーマ ~共に歩こう~」になったのか、その決定までのプロセスを説明しなければならない。

 同作品のエグゼクティブプロデューサー岡本順哉さんは「20周年にふさわしいエンディング主題歌とは何か散々悩んだ結果、このシリーズとしては異例なんですが、アーティストではなく楽曲から決めることにしました。そこでファンからも屈指の名曲として名高い「オラシオンのテーマ」を主題歌にできないかなと思いつき、レコード会社さんに相談しました」と、制作裏話を教えてくれた。「オラシオンのテーマ」は同シリーズ10作目『劇場版ポケットモンスターDP ディアルガVSパルキアVSダークライ」(2007年)の劇中で流れていた、宮崎慎二作曲の壮大なインストゥルメンタルの楽曲。それに歌詞をつけ、歌にするという試みだった。岡本さんから相談を受けたレコード会社担当者は、ファンの中では神曲とされている「オラシオン」を主題歌にするというアイディアに驚きつつも、早速動き始めた。詞をAqua Timezの太志に発注し、補作曲と編曲を本間昭光に依頼。プロジェクトがスタートしたが、この時点ではまだ誰が歌うのかは、決まっていなかった。(田中久勝)

「“始まりの歌”として、シンプルな言葉の歌詞を乗せられてよかった」(太志)

――本間さんにこの曲の依頼がきた時は、まずどう思われましたか?

本間:原曲「オラシオン」を改めて聴くと、音程感の跳躍の激しさがあって、変拍子で、壮大な曲調が劇中でピッタリはまっていました。そして、なんといってもメロディが非常に美しい! インストの楽曲を歌ものに変えて欲しいという、なかなか無い、難しいリクエストでしたので、はじめは少し心配でしたが、楽曲を聴いてイメージがすぐに広がりました。この楽曲を、主題歌として、より分かりやすいポップスの世界に落とし込むためには、まずはコードワークを変えなければいけなくて、メロディに対してのリハーモナイズをやっていくうちに、作曲した宮崎さんの書かれたメロディの奥に、やはりコードがいくつも隠されているのに気づき、それを引き出す作業である程度のバランスを取りました。その上で、楽曲の起承転結をよりはっきりと際立たせるため、転の部分を補作曲して、メロディや長さの調整をし、結の部分にどうアレンジを施して収めるか、ということをしました。自分の中では、冨田勲さんが手がけた、NHKの『新日本紀行』のオープニングテーマのようなイメージですね。

――太志さんは歌詞がなかった曲に歌詞をつける、しかもこの国民的映画の主題歌になるということで、最初に話を聞いた時はどう思われました?

太志:恐怖でした。サビに向かっていくところとかは、どうやって言葉を紡いでいこうか悩みました。それでオリジナル曲が流れる映画10作目の、ラストシーンを何回も観直していくうちに、やっぱり壮大なイメージ、世界に入ってしまい、影響されて、エンディングの主題歌として、ストーリーの“終わり”を壮大に締めくくる歌にしようとしていました。

――何回か書き直しをしたとお聞きしました。

太志:ある日レコード会社のプロデューサーから呼び出されて、「これ絶対書き直しじゃん」(笑)って思いながら、ストリングスの録音をしているスタジオにお邪魔した時、「結局壮大じゃん」って感じて(笑)。でもそこで余計なことを考えすぎていたということに気づいて、まさに遠回りをしたけど「共に歩こう」という着地点に向かうことができました。映画を観る人たちがどう思うかということに立ち返って、発想を変えて、“サトシとピカチュウ”という不変のテーマに視点を戻しました。最近思うのが、難しい言葉で歌詞を書いて、煙に巻く感じにするのは実は簡単で、逆にすごくシンプルな言葉で素直な歌詞を書くことの方が、時間がかかるということ。でも今回は20年を迎えたサトシとピカチュウの関係の、また新たな章の始まりといっていいこの作品の主題歌に、“始まりの歌”として、シンプルな言葉の歌詞を乗せられてよかったと思いました。

ーーAqua Timezの優しくて強い歌詞をずっと書き続けてきた、太志さんだからこその歌詞という感じがしました。

太志:メンバーと試写を観に行ったときに、隣を観たらドラムのTASSHIが泣いていました(笑)。

――(笑)。でも嬉しいですよね。

太志:嬉しかったです。このシリーズを観て感じるのは、旅を始めて、それを続ける、すごくシンプルな事だけど、でも僕は本当に旅をし続けることが目的というよりは、その途中で生まれるもの、それが絆だと思うし。でも絆って言葉にしてしまうと、今の時代そんなの本当にあるのかよ、みたいな冷めた風潮というか、ひねくれた見方を描いたりするものも多いけど、やっぱり大切な事だと思います。

ーー確かにそうですね。「絆」って、どこか絵空事のように捉える人も多いですよね。

太志:そうなんですよね。例えば昔、小学生の時友達とケンカして、次の日に「おはよう」って言うまでの勇気、そこに至るまでの葛藤が子供なりにあって。でも「おはよう」って言って、「おはよう」って返ってきて、絆が生まれた瞬間。あれほどの宝物って、大人になるにつれてなくなっていきます。それがお金で買えないもののひとつだと思うし。例えば僕がアルバムで歌詞を書く時に、すごく否定的な意見として「小学生が書いたみたいな歌詞」と言われることがあって。でも小学生の書いた作文って本当に素直でいいじゃないですか。だから逆にそこを目指しているし、サトシとピカチュウがまさに自分にとって、財産になるようなものを映し出してくれていました。

――本間さんは試写を観て、この曲が最後に流れてきた時はどういう感じを持たれました?

本間:実は試写に行けなくて、でもスタッフが観に行って、「みんな泣いてました」と報告を受けました。

――実際観に行った方がネット上で、泣いたと書き込んでいる人が多いですよね。

本間:そうなんですよ。僕もネットや試写会の反応を見たり聞いたりして、伝わる作品を一緒に作れたんだなと感じました。なかなかハッピーエンドの曲で泣かせるというのは難しいのですが、だから本当の意味での感動を作り出せたというか、観ている人に寄り添う曲を作ることができたと思います。劇伴をやった経験や、ポップスを作り続けてきた経験、今までの自分の経験値も含め、色々なものを今回の作品には昇華させることができました。

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