グランジ、オルタナに目覚める10代バンドたちーーニトロデイらが鳴らす本気のサウンド

 依然として夏フェスでは踊れて盛り上がれる邦楽ロックバンドも堅調で、そこにシティポップ以降の横ノリのグルーヴを持つバンドや、インディペンデントなR&B、そして当たり前のように生音とエレクトロが混在するダンスミュージックを鳴らすバンドも同じフィールドに並列するようになった2017年夏。日本ほどバンドというスタイルをチョイスする若者が多く、しかも表現方法として、まだ新鮮味を保っているポップミュージック消費国も珍しいんじゃないか? 去年まで言われていたようなガラパゴス化とはちょっと違った、前向きな意味で日本のバンドシーンを頼もしく思う機会が増えてきた。

 そんな夏の始まり、フジロック前の時期にナカコーこと中村弘二がこのバンドについて「いいバンド、日本のバンド。ニトロデイ。ピクシーズチルドレンとも取れるけど、でもたぶんそうじゃない懐も持っている音だね。時代的にも。要チェック」というコメントを「青年ナイフ」の動画とともにツイート。大阪FLAKE RECORDSの和田貴博氏やART-SCHOOLの木下理樹もツイートしていたことがニトロデイを知ったきっかけだった。早速、YouTubeでデビューEPのリードトラックである「青年ナイフ」のMVを観た。現役高校生らしいカジュアルな佇まいの4人だが、フロントマンの小室ぺい(ギボ、彼はギター&ボーカルという表記をしない。この傾向は他のメンバーも同様だ)はG.B.HのTシャツにカーディガン、履き潰したジャック・パーセルにボロボロのジーンズ。ルックスからして90sグランジである。松島早紀(ベイス オン ベイス)のダウンピッキングが生む重いビート、そこに選び抜いた単音で切り込んでくるやぎひろみ(ジャズマスター)の鋭いギター。冒頭20秒で、その唯我独尊、我が道を行くバンド像というか、態度に大いに喰らってしまった。唯一、ドラムスの岩方ロクローには若干、ラウドやモダンロックを通過してきた強靭でジャストなリズム感やセンスを嗅ぎ取ったのだが、それはむしろ彼らの音が単なる90s回帰じゃない前向きな要素として受け取った。

ニトロデイ『青年ナイフEP』

 その後、取材の機会を得て7月12日にリリースされたデビューEP『青年ナイフEP』を聴いた。リードトラックである「青年ナイフ」を音のみで改めて聴くと、舌ったらずな部分もありながら、冷静に自分のフィルターを通して接する世界への無関心と、真逆に世界をギョッとさせようとする青い企みのようなものが小室の歌に、元グランジ少年少女は揺さぶられてしまう。もちろん、バンドの演奏ありきで、投げやりなんだか世界に挑んでいるんだか、小室のアンビバレンツは、ヒリつくような、痛みのようなやぎの選び抜いたフレーズや繰り返されるチョーキングによっても立体化されているし、媚びないスタンスは重いビートと刻み込むような遅めのBPMが体現している。疾走感のあるビートの中で何もない虚無を最低で最高だと叫ぶ「最低」では暴風のように吹き付けるノイジーなギターが印象的。加えてMy Bloody Valentineのような眩惑的なシューゲイズ・サウンドを聴くことのできる「アルカホリデー」、ちょっとPavement的なセンチメント漂う轟音ロッカバラード「月曜日」。美しいメジャーキーのメロディがむしろ冷たく乾いた眼に映るもの、心に浮かんだものを鮮やかに浮かび上がらせる。共通しているのは、小室の歌詞は誰に向けられているものでもなく、増して共感されようとは端から思っていない内容であることだ。

ニトロデイ「青年ナイフ」

 インタビューで小室は現在の主流のバンドシーンに対してカウンター意識を以前は持っていたが、そもそも90年代のロックーーNirvanaを発端にさらに音楽を聴き進めていった中で出会ったナンバーガールなどの音楽に触れたことで、現在進行形のバンドに感じていた「嘘っぽさ」がないことや音の必然性といった、現在のニトロデイの共通認識に至ったと語ってくれた。小室以外のメンバー、特に女性陣においては、やぎは姿勢として田渕ひさ子の影響を受けていること、楽曲としてはカーネーションやBUMP OF CHICKENら90年代の作品を好んでいること、松島はベースを始めた当時、ゆらゆら帝国の亀川千代のスタイルに圧倒されたことについても明かしてくれた。岩方はエレファントカシマシの初期楽曲が好きだという。小室のみならずニトロデイというバンドの音楽的硬派ぶりも、ジャンルを問わず優れた楽曲を掘り当てる嗅覚も信頼できる。もちろんその信頼というのが、90年代をリアルタイムで過ごしてきた層からのものだけだったら、彼らも救われないだろう。実際、2000年前後に生まれた同世代は彼らのようなバンドたちをどう見ているのだろうか。

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