クライン、マイサ、バルトラ……小野島大が選ぶ、今夏必聴のエレクトロニック・ミュージック

 スウェーデンのテクノ・アーティスト、アブドゥーラ・ラシームが本名アンソニー・リネル(Anthony Linell)としてソロ・アルバム『Emerald Fluorescents』を、北欧ミニマルの拠点<Northern Electronics>からリリース。徹底して音数を削ぎ落としたストイックで無愛想なダーク・ミニマル・テクノが強烈すぎです。これをしょぼいオーディオ機器で蚊の鳴くような小さな音で聴いても面白くないわけで、できれば地鳴りがするようなフロアの爆音で浴びるように聴きたくなる作品ですね。DJのためのツールとしての側面が強いことは確かですが、このヒプノティックでドープなサウンドスケープは、テクノでしか味わえない快楽があります。


 
ダフ二『Fabriclive 93』

 マニトバ、カリブーなどの名義で活動するダン・スナイスの、よりダンス・フロア向けに特化した別名義ダフ二(Daphni)が、定評あるDJミックスCDシリーズ「Fabriclive」に参加。『Fabriclive 93』(Fabric)は、DJミックスとはいってもミックスされる全27曲中23曲が彼自身による新曲で、残りの4曲もこのCDのためのダフ二・エディットなので、実質的にダフニのニュー・アルバムといっても差し支えないでしょう。となるとダフ二名義のアルバムとしては2年ぶりということになります。パーカッシヴでトライバルな(でも決して泥臭くはない)ハウス・ミュージックを軸にミニマル、テック、ラテン・ハウス、エレクトロニカを、歌モノからインストまで縦横に展開します。「1曲決めた後、次の曲を既にある音楽の中から選ぶ代わりに、ゼロから新しく作った」と彼自身が言うように、ダフ二にとってのダンス・グルーヴの理想型がこれということでしょう。スタジオでの収録でしょうから当然といえば当然ですが、現場の熱気溢れるというよりは、実験室で組み立てていったようなクールで端正なノリが良くも悪くも特徴のCDです。

 

レイク・ピープル『Phase Transition』

 ドイツのプロデューサー、レイク・ピープル(Lake People)ことマルティン・ヘンケのセカンド・アルバムが『Phase Transition』(Mule Musiq)。今回は日本発の世界的レーベル<Mule Musiq>からの一作ですが、前作よりもフロア・コンシャスなディープ・ハウスに仕上がっています。デトロイト・テクノにも通じる叙情性から、アシッドなエレクトロ、IDM的な鋭角性までわりあい幅広く多彩なサウンドメイクですが、隅々まで丁寧にトリートメントされた、きめ細かく柔らかでメロディアスでアトモスフェリックなミニマル〜テック・ハウスが最高に心地よい佳作です。私はCDで入手しましたが、ファットな中低域は、ヴァイナルで聴くと映えそうな音でもあります。


クロン・ダンプ『Klon Dump Versus The Open Air』

 オーストラリアのレーベル<A Colourful Storm>からリリースされたクロン・ダンプ(Klon Dump)のアルバムが『Klon Dump Versus The Open Air』。シングル等も含めこれがファースト・リリースで、おそらく新人と思われますが、詳細は不明です。アクフェンを思わせるポップでカラフルで歯切れのいいファンキー・ミニマル〜テック〜クリック・ハウスで、耳にもカラダにもグリグリと気持ちのいいダンス・トラック集となっています。 

 

 


Ametsub『Mbira Lights 1 EP』

 最後に日本人アーティストの作品を。東京在住の電子音楽家Ametsub(アメツブ)の5年ぶりの新作にあたるEP『Mbira Lights 1 EP』(nothings66)です。アフリカの民俗楽器アレイムビラをフィーチャーし、Ametsubらしい繊細で奥深い電子音響で加工・構築していった手工芸品のようなアンビエント・エレクトロニカで、ある意味でオリジナル・アルバム以上にこのアーティストの美点を凝縮したような素晴らしく美しいEPです。シーフィールやオースティン・シーザーによるリミックス入り。そういえばシーフィールも7年前にアルバム『Seefeel』をリリースしてからしばらく音沙汰がありませんでしたが、そろそろ新作を聴きたいものですね。

Ametsub - Mbira Lights 1 EP (snippet)

 ではまた次回。


■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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