V6、大原櫻子からバカリズムまで……秦 基博の”プロデュース力”を読む

 「鋼と硝子でできた声」と表現され、自身の曲を歌うのみならず大橋卓弥(スキマスイッチ)やさかいゆう、槇原敬之とのコラボレーション、レキシ、冨田ラボら楽曲への参加など、これまでは“ボーカリスト”としての側面がフィーチャーされることが多かった秦 基博。しかし近年、作曲やプロデュースにおける才能も注目を集めている。

秦 基博『All Time Best ハタモトヒロ』(通常盤)(2CD)

 2008年には一青窈に「空中ブランコ」(のちにアルバム『ALRIGHT』でセルフカバーも行なっている)、2012年には南波志帆に「髪を切る8の理由。」で楽曲提供を行なってきた秦。2014年、自身の歌唱曲「ひまわりの約束」のヒットを経て、デビューから10年を迎え『Augusta Camp 2016 ~produced by 秦 基博~』を開催した2016年に入ってからは、V6の「Beautiful World」に作詞作曲、クミコの「さみしいときは恋歌を歌って」に作曲、花澤香菜の「ざらざら」に作編曲で参加するなど、一段と他アーティストへの楽曲提供が目立つ。どれもそれぞれのボーカルがしっかりと生かされた楽曲となっており、花澤が「秦さんの曲の温かさと包容力で、私の歌詞がマイルドになってるかもしれないって実感できた」(参考:花澤香菜が新作『ざらざら』で見せた表現の深化「身体と心にリズムがある」)と語っていたような、秦の楽曲ならではの特徴も見られる。

 当サイトのコラムでライター黒田隆憲氏はメロディの印象が際立つコード進行を「秦節」と表現していたが、彼の作る楽曲は爽やかな印象で全体的に息継ぎが少なく、伸びやかに歌声を聴かせることが多い。もちろんそれは「鱗(うろこ)」「ひまわりの約束」といった秦自身の楽曲、そして先に挙げた提供曲にも当てはまる。例えばV6「Beautiful World」のサビ部分<ほら/今/君となら/世界はこんなに美しい>はブレスが少なく滑らかに歌われており、6人の伸びやかな歌声が楽しめる。

 秦が脚光を浴びているのは、メロディメイカーとしてだけではない。秦は今年に入り、上白石萌音の「告白」、大原櫻子の「マイ フェイバリット ジュエル」で作詞作曲のみならずプロデュースも担当。大原の歌入れに駆けつけて指導したり、上白石の仮歌に細かくアドバイスした、というエピソードもあり、大原の「ふんわりした方だろうなと思っていたんですけど、意外とスパルタでした」(参考:大原櫻子が語る、歌と向き合う姿勢とシンガーとしての自立「自分の音楽には優しさがあってほしい」)という言葉通り、曲を提供することにとどまらない“プロデューサー”としての一面を発揮している。実際「告白」はこれまでのストレートに歌い上げるような上白石の印象とは異なっており、優しく語りかけながらも芯を感じる歌い方に、表現の深みが増したことを感じた。彼女自身の才能や努力に加え、秦のプロデューサーとしての手腕が発揮された結果とも言えるだろう。

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