欅坂46が開拓する“アイドルの可能性” 1stアルバムの主な新録曲から分析

メンバーの個性を引き出す3つの新しいソロ曲

 アルバムにはメンバーの魅力を引き出すソロ曲が新たに3つ収録されている。たとえば、長濱ねるのソロ曲「100年待てば」はどこか懐かしいサウンドで構成された好楽曲だ。アルバム上次の曲にあたる「沈黙した恋人よ」の<黙ってちゃ夏は終わるよ>のような急かすメッセージとは裏腹に、<今すぐ好きだと言わなくても人生は長いから>という歌詞にあるような、ゆったりとした雰囲気を漂わせている。半音下降クリシェが多用される序盤の脱力感、波に揺られているような王道進行のサビの安定感と、ポップスの雛形からも楽理的にも逸脱がなく、非常に安心して聴くことができる。どんな時も決して声を荒げたりしない落ち着いた彼女のイメージがよく表われているだろう。

 一方、平手友梨奈による昭和やさぐれ歌謡風味の「自分の棺」は、今年に入ってから「自分のことが嫌い」と各メディアで発言していた彼女の現在の心境を掬い取る一曲だ。グループの絶対的センターゆえに、グループイメージをさらに濃ゆくしたような楽曲にもなっている。<値札を貼られたしあわせが これみよがしに並んでる>なんて16歳の少女に歌わせているのだから面白い。今にも消えて無くなりそうな彼女の存在感にこちらとしては冷や冷やさせられるばかりだが、その意味では長濱とまったく対照的な二人と言えるだろう。

 こうしたソロ曲は、グループの表面的なパブリックイメージからは感じ取れない細部の魅力にフォーカスしている。しかしその中で、Type-Bに収録されている「夏の花は向日葵だけじゃない」は、歌い手にあったもともとの魅力を膨らませることに加えて、新たな一面を発掘した一曲だ。ファンの間ではおバカキャラや、よく笑う姿から天真爛漫で純真無垢なイメージが定着している今泉佑唯。ピアノとストリングスがふんだんに用いられた2000年代J-POPの王道バラードといった趣のサウンドは、彼女のその幼く清純なイメージを少しだけ大人にシフトさせ、年齢相応の女性の魅力を演出する。彼女の成長を音で祝福するピアノの伴奏。それに応えるメンバー内随一の歌唱力。冠番組で楽屋裏の隠し撮りをした際に、ずっと歌っていた姿とも重なる(「青空が違う」の<ひまわりの種を持ってきた>の箇所を口ずさんでいたのが恐らくタイトルに繋がっている)。また、今年の4月13日に活動休止を発表して以来、ファンの前から姿を消していた彼女。この約3カ月間は病気療養という意味以上に、ファンとどう向き合っていくのかということを考えさせられた期間だったのではないだろうか。これまでグループにはなかった曲調にトライしたこの曲は、ソロ曲としての役割を全うしつつ、歌い手の新しい魅力を掘り起こし、さらにはグループが直面した課題にも接近するような姿勢を見せる。彼女が参加するフォークデュオ・ユニット、ゆいちゃんずの新曲「1行だけのエアメール」と合わせて、アルバム全体を通してのハイライトと言っても過言ではないだろう。

その他バラエティに富んだ新曲たち

 その他、アルバムにはまだまだ多彩な楽曲が収録されている。ブラックミュージックのエッセンスを取り入れた「少女には戻れない」、ダンスチューン「東京タワーはどこから見える?」「AM1:27」、四つ打ちEDMの「太陽は見上げる人を選ばない」、サビの盛り上がりが期待できる「危なっかしい計画」、90年代エレクトロポップ風の「君をもう探さない」など、ライブでのパフォーマンスが映えそうな楽曲が揃う。人気ユニットに与えられた新曲「ここにない足跡」や、爽やかな王道アイドルソング「永遠の白線」など、昨今のグループアイドルらしいストレートなポップスもある。漢字欅とひらがなけやきの混合ユニットによる「猫の名前」や、Queenを彷彿とさせる「バレエと少年」など、実験的な試みも多い。こうした楽曲群は、グループの可能性をあるひとつの方向に固めてしまうことを防ぐのにとても重要な要素だ。

 欅坂46は、以上のように楽曲それ自体も非常に魅力的なのだが、それよりも振付師であったり映像作家であったり、作品の周りにいる(もちろん彼女たち自身も含む)クリエイター陣のそれぞれの解釈がファンにとって重要な意味を持っている。MVの爆発的な再生回数であったり、CDのロングセールスや音楽番組でのダンスが話題になったりするのは、他でもなくその証左だ。となると、今週末の富士急ハイランド・コニファーフォレストでの野外ライブ、夏の音楽フェス行脚、そして8月に開催される全国アリーナツアーで、以上の楽曲たちがどのようにパフォーマンスされるのかが気になるところ。

 アイドルシーンの最前線でまさに今、アイドルの可能性を開拓している欅坂46。そのひとつひとつの動向に目が離せない。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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