渡辺美里が歌う“大人のポップス”の魅力 「夏が来た!」アナザーソングの新曲を徹底分析
デビューから32年、さまざまな心模様や景色を力強く芳醇なボーカルで彩ってきた渡辺美里が、3年ぶりのニューシングル『ボクはここに』をリリースする。1990年代から今なお愛され続けている、「サマータイム ブルース」(1990年)や「夏が来た!」(1991年)、そして「BIG WAVE やってきた」(1993年)など、夏を舞台にしたシングルはいくつかあるが、この「ボクはここに」もまた渡辺美里の夏の曲として深く刻まれていく曲となりそうだ。また、曲を聴いて、リスナーのなかには、この歌のシーンから「夏が来た!」を思い起こす人もいるかもしれない。渡辺美里自身、この曲について“はじめてなのに、どこか懐かしい気持ち。そう、「夏が来た!」の主人公のアナザーストーリーのような曲に出会い、鼻の奥がツンとなりました。今だからこそ、届けたい曲です”と寄せている。
「ボクはここに」の作詞・作曲を手がけたのは、真心ブラザーズの桜井秀俊。公園に夏祭りの櫓がたってふと思い出す、“君”のことや、ほろ苦い恋心を綴った歌は、そのまま真心ブラザーズで歌っても、ハマりそうな曲だ。なかでもパンチラインは、<一歩ずつ 青春は遠ざかるくせに 大人になった気になれないのは 何故なのだろう>という一節。これぞ桜井節というべき滋味深いフレーズだ。この無常観と、そこに絡みつく悲哀とにアクセントを置かずに、そよ風のようにさらりと歌う渡辺美里のボーカルもとてもいい。
“ボク”は今も、青春時代を過ごした街に暮らす。慣れ親しんだ街並みは平穏で、なんとなく集まって退屈をしのぎ、酒を飲む変わらない仲間もいる。“君”だけがここにいなくて、“ボク”はまだここにいるということが、飄々とした筆致で描かれていて、胸をくすぐる。筆者自身、年齢を重ねてきて感じるのは、恋心はとくに、うまく実らなかったものほど、時を重ねていくごとに、記憶のなかで旨味を増していくというか、悲しみも後悔も馴染んでいってきれいに澄んだものになるように思う。そんな記憶にダイレクトに触れて、切ないような、でもそれだけではない、えも言われない気持ちが広がっていく。そういう歌だ。
渡辺美里はこの曲を、“ボク”の知らない街で笑顔で暮らしているだろう“君”に語りかけるようなボーカルで歌う。歌詞に描かれた街の風景、匂いや風、ざわめきをも想像させて、肌に感じさせるナチュラルな歌声だ。きっとこの“君”は、渡辺美里自身にとっても、懐かしく親しみ深い存在に思えたからだろう。
桜井は明言してないけれど、「ボクはここに」は、1991年リリースの「夏が来た!」のもう一つの物語にも、時を超えたアンサーソングにも聞こえてくる。大江千里が作曲し、渡辺美里が歌詞を書いた「夏が来た!」は、友だちだったふたりが恋人同士となった夏を、初々しく爽やかに綴ったラブソング。おそらくは、進学をして生まれた街を離れている主人公に対して、“夏祭りには 帰ってこいよ”と彼が暑中見舞いをよこすところから、歌の物語はスタートしていく。会わなかった間に、伸ばした髪をカールさせたり、彼にマドンナのレコードを貸したりと、歌詞に描かれる主人公となる女の子は活発で、都会的なイメージだろうか。<本当の夏が来た 生きているまぶしさ>と晴れやかに、躍動感たっぷりに歌うボーカルから、主人公の女の子の屈託のない笑顔が浮かび上がってくる。彼のことについては詳しくは描かれないものの、<真っ白なTシャツ>や<まっすぐな目をした>という描写から、なんとなくどんな青年かは伝わる。「ボクはここに」で歌われる“ボク”と“君”のキラキラとした夏の一瞬が、「夏が来た!」に封じ込められていたと想像すると、とてもロマンティックだ。また約26年という時間を経て、当時のヒットチューンに新しい角度やストーリーをもたらしたことは、音楽の遊びや魅力のひとつだろう。機会があれば、2曲を聴いてそれぞれの青春時代と今とを想像してみるのも面白いし、もちろん、大人のサマーチューンとしてじっくりと噛み締め味わいたい曲でもある。ちなみに、ミュージックビデオには俳優の東幹久が出演し、曲の世界観を伝えているというから、こちらも楽しみにしたい。
今のJ-POPシーンでは、ささやかな日常や、さりげないワンシーンに宿る心の機微を歌う、大人の曲はそう多くない。2015年にリリースした、渡辺美里30周年記念のオリジナルアルバム『オーディナリー・ライフ』では、伊秩弘将や佐橋佳幸、そして大江千里といったデビュー時からタッグを組んできた作家陣に加えて、山口隆(サンボマスター)やYO-KING、片寄明人、Caravan、WEAVERといったアーティストからの楽曲提供やコラボレーションをし、ボーカリストとしてバラエティに富んだ曲を表現した。イメージにある力強さや、優しい包容力のある曲と歌は、日々の支えになるようなエネルギーが詰まった、アッパーで華やかな作品となった。
今回のシングル「ボクはここに」は、もっと等身大で、そこにあるささやかな光景と、過ぎる情緒を歌う。渡辺美里の歌心に、よりフォーカスした1枚だ。本間昭光によるサウンドアレンジ&プロデュースで、瀟洒なシンセやストリングス、サックスが効いていながらも、歌の背景としてピタリと寄り添ったサウンドは心地よい。すっと心に浸透して、いつのまにか自分の記憶ともシンクロする、そんな大人のポップスが新鮮だ。
(文=吉羽さおり)
■渡辺美里 出演情報
7月6日(木)10:25~11:30(関東地区などで生放送)
日本テレビ「PON!」
■リリース情報
『ボクはここに』
発売:2017年7月5日
価格:1,111円+税(税込1,200円)
<収録内容>
1.ボクはここに
作詞・作曲 桜井秀俊(真心ブラザーズ)
プロデュース・編曲 本間昭光
2.My Revolution (めざましクラシックス ver.)
■ツアー情報
『渡辺美里 M・Generation Tour 2017』
7月8日(土) 石川県/金沢市文化ホール
開場17:00/開演17:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:4月15日(土)
7月9日(日) 大阪府/NHK大阪ホール
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:4月15日(土)
7月14日(金) 埼玉県/三郷市文化会館
開場18:00/開演18:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:4月15日(土)
8月5日(土) 千葉県/印西市文化ホール
開場17:00/開演17:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:5月13日(土)
8月20日(日) 茨城県/取手市立市民会館
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:5月20日(土)
8月26日(土) 宮城県/日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)
開場17:00/開演17:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:5月13日(土)
8月27日(日) 北海道/札幌 道新ホール
開場17:00/開演17:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:5月13日(土)
9月3日(日) 東京都/昭和女子大学 人見記念講堂
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:6月3日(土)
9月10日(日) 福岡県/福岡国際会議場 メインホール
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:6月3日(土)
9月15日(金) 広島県/はつかいち文化ホール さくらぴあ
開場18:00/開演18:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:6月3日(土)
9月18日(月・祝) 栃木県/真岡市民会館
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:6月3日(土)
9月22日(金) 愛知県/名古屋市青少年文化センター(アートピア)
開場18:00/開演18:30
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:6月3日(土)
10月09日(月・祝) 埼玉県/パストラルかぞ 大ホール
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:7月8日(土)
10月15日(日) 茨城県/日立市民会館
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:7月8日(土)
10月29日(日) 群馬県/笠懸野文化ホール・パル
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:7月8日(土)
11月23日(木・祝) 愛媛県/松山市民会館 中ホール
開場16:30/開演17:00
料金(税込):全席指定¥7,300
チケット一般発売日:8月19日(土)
※全公演、未就学児童入場不可
※客席を含む会場内の映像・ 写真が公開されることがありますので、予めご了承ください。