『リトルウィッチアカデミア』劇伴の仕掛けは“キャラクターの個性”にあり? 作曲・選曲の手腕を読む

 2017年1月より2クールにわたり放送中のTVアニメ『リトルウィッチアカデミア』(TOKYO MXほか)がいよいよクライマックスを迎えようとしている。日本はもちろん海外での人気も高いと言われている本作の劇伴(映画、テレビドラマ、アニメーション、アニメーション映画、舞台などの「劇が存在する作品」で流れる背景音楽のこと)は、オーケストラに加えてシンセサイザーやクワイア、さらにたくさんの民族楽器も使用したハイブリッドなものとなっている。今回は、クライマックスを前にその劇伴の特徴を幾つかの側面から考察してみたい。

 まず、TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』について簡単に触れておきたい。本作は、前2作、アニメミライ2013『リトルウィッチアカデミア』、『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』の続編という位置づけではなく、新たなストーリーが展開されている。幼い頃にシャイニィシャリオの魔法ショーを見て魔女になることを夢見た主人公アッコはシャリオと同じ伝統ある魔女養成名門校「ルーナノヴァ魔法学校」に入学。魔女学校の中で次々と騒動を巻き起こすが、時には友人や学校の危機を救ったりしながら、魔女としても人間としても成長していく物語である(参考:『リトルウィッチアカデミア』オフィシャルサイト)。

 様々な要素が次々と急速に進行していくストーリーと、主人公の持ち前の明るさや生き生きした部分が、劇伴におけるメインテーマとリンクし、映像も音楽も活きている。劇伴の項では、まずこのメインテーマについて述べるところからスタートする。

メインテーマとその他の劇伴との関連性

 本作の劇伴は、「溜め録り」(完成映像を見る前に台本や打ち合わせ内容を素材として劇伴を書き、まとめて収録する方法)によるものなので、第1話から同じ楽曲が繰り返し使用されている。一般的な映像作品の溜め録りによる劇伴は、映像完成後のどんなシーンにでも対応できるように色々な種類の楽曲が必要になり、これらを全て「予測」で作曲することになる。しかし、メインテーマのテーマアレンジで多くの劇伴を構成してしまうと、それらが似たような楽曲になりがちであるため、「選曲の際に意図した楽曲が見つからない」といった事態が起きることがある。こういった事態を回避する意味でも、溜め録りの場合はメインテーマのテーマアレンジを極力控えて色々なタイプの劇伴を作る方が得策とする考え方もあり、その結果、映画作品などに比べるとメインテーマとその他の劇伴との関連性が低くなる傾向がある。しかし、本作ではある工夫によりこういった部分での関連性の高さがポイントとなっている。

 メインテーマ(と位置付けられるであろう)楽曲は、以下のティザーPVを参考にしてほしい。30秒辺りから始まるブラスによるメロディが、特に重要な要素である。

TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』ティザーPV

 はじめに、本作のメインテーマとその他の劇伴の関連性について大きく区分しておこう。

1.メインテーマのブラスによるメロディ(以下、「メインテーマ」)をほぼそのまま、
楽器編成などのアレンジを変えて劇伴に使用する。
2.メインテーマのモチーフのリズムのみを引用する。
3.メロディは異なり、メインテーマの「旋法」(厳密には異なるが、広義の「音階」を意味する。高度な楽曲では1曲の中で様々な旋法が使用されるケースも多い)のみを引用する。

 記憶に新しい第23話「Yesterday」を参考にこの3点について解説していく。

 メインテーマでは部分的に「ミクソリディアン」という旋法が使われてモーダル・インターチェンジが起きている。ミクソリディアンは「快活さ」などを感じさせる旋法として劇伴でも度々取り入れられている。第23話の中で、ダイアナ・キャベンディッシュがシャリオ・デュノールのショーを観に行った幼き頃の回想シーンが描かれるシーンで流れる劇伴は、メインテーマでも使われた「ミクソリディアン旋法」のみを引用(上記「3」)。楽器編成もアコースティック・ピアノとストリングスを中心としたサウンドに変えることで、子供だった時のダイアナのピュアな印象を高める効果が確認できる。また、この劇伴は楽曲の後半で編成はそのままで「メインテーマのテーマアレンジ」へと自然に変化するため、上記「1」の要素も兼ね備えている。

 また、ルーナノヴァの教員アーシュラ・カリスティスの若き日に自分がシャリオとして活躍していた頃を想う回想シーンでは、メインテーマのモチーフのリズムのみを一部引用したメロディをオーボエ族にとらせて、メランコリーな雰囲気で楽曲が開始する(上記「2」)。これによりメロディ自体は異なっていてもメインテーマとの関連性は確保できるため、同じ映像作品の中で複数の楽曲に統一感を持たせることにも成功しているのだ。

 それぞれの具体例を一曲ずつ挙げたが、実は上記3つのうちに区分できる楽曲は他にも相当数見られ、劇伴の構成面での綿密さがうかがえる。注目すべきポイントは、テーマアレンジと言っても単にメインテーマのメロディをそのまま使用している楽曲ばかりではない、ということだ。そのために、前述した「似たような楽曲ばかりになりがち」という事態も回避できている。

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