兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第17回
Theピーズの日本武道館はハイライトの連続だったーー“生きのばし”てきた30年とこれから
曲が終わり、さっきも書いたように、いつまでもステージを去りがたい風情のふたり、それを待つひとりーーという構図になる。はるがふたりの手を取ったので、客席に向かって腕を挙げるのかと思ったら、そのまま手をつないで輪になってグルグル踊り始めるという、「アニメ『アルプスの少女ハイジ』の主題歌のハイジとペーターがやるやつ」(とツイートしていた人がいて「そうだあれだ!」と思いました)になる、という意表をつく展開。客席、大笑い&大拍手。
エンディングSEの「好きなコはできた」が響く中、3人はようやくステージから去ったが、オーディエンスは曲がフルコーラス終わるまで残り、終了と同時に大きな拍手を贈った。
この日本武道館は、Theピーズにとってふたつの意味で「これで最後」「これで一区切り」であることを、開催発表時からはるは公言していた。僕は二度ほどインタビューする機会があったのだが、こんなことを言っていた。
「でっかい音出せんのは、50すぎの身体にムチ打てんのは、これがいいチャンスだなあと思って。こっから先は、音量を下げていかなきゃ、歌う時の音程もとれなくなってきてるから。でも武道館までは、でかい音でやらしてもらおうかな、なんでもここを区切りにできるチャンスかな、と思ってさ」
「耳とかの問題で、演奏がきっちりやれなくなるから。あと、叩く方も、筋肉の問題とかさ。そんな力まかせな、青春まかせじゃないような音の出し方とかを、改めて3人で……今までは、でかい音を出してたまたまひとつになった時に『気持ちいいね』だったのが、武道館終わってからは、ひとりひとり演奏して『あ、そうきたか、じゃあこっちは……』って、アンサンブルみたいなことを始めていかないと、この先ライブやれねえなと、俺、思うんだよね」
つまり、この日本武道館を機に、ライブのやり方を変える、ということだ。
そして、もうひとつの「これで最後」に関して。スタッフと佐藤シンイチロウに仕組まれ、武道館を押さえたあとで提案された時、それまでやるつもりはなかったのに考えを変えた理由を、はるはこう説明してくれた。
「断らない方が、応援する方も、応援してきた方も、みんなせいせいできるチャンスだな、っていうのはすごく思う」
「結婚式なのか、生前葬なのかわかんないけど、とりあえず今まで関わった人みんな集まって、30年どうもありがとうって言えるのは、すごくいいことだなと思って」
「ここで会えるのが最後になるっていう人、いっぱいいると思うんだよ、日本中から集まったとしたら。お客さんも、友達とかも」
「日が暮れても彼女と歩いてた」の前に、はるはこんなMCをした。
「だって、会えなかったかもしれなかったからね。やっと会えたね」
「ほんとは自分らがいっぱい回らなきゃいけなかったんだけど、こんなに1カ所に集まってくれて。今日、冠婚葬祭全部ここで行われてるような感じで、便利ですよ」
また、二度目のアンコールに応えて出てきた時は、こう言った。
「そろそろお別れの時間だ。みなさんできるだけ、元気でね。もう充分楽しいことがあったので、僕ももう大丈夫です。あとはみなさんのお葬式に出席するだけです、ははっ。なかなか死ねない、こんなにいっぱいいるんだもんね。ああ、うれしー」
みんな知っていることだが、2002年に復活して以降のTheピーズは、「活動に制限あり」で動いている。アビさんは本業の(はる曰く)「セメント屋さん」の仕事があり、シンちゃんはthe pillowsがある(はるがメンバー紹介の時「佐藤シンイチロウ先輩 from the pillows」と必ず「the pillows」を付けるのは、そこを忘れまいという意識があるからだと思う)。
だから、ライブもそれ以外も含め、活動は基本的に週末だけ。全国津々浦々を回るような本数のツアーはできない。長くやれても1ツアー10本以内くらい。