リアム・ギャラガー、メインストリームで勝負するための“英断” モダンな意匠施した新曲を解説
リアム・ギャラガーが新曲「Wall of Glass」を去る6月1日に緊急リリースした。これは彼にとって、2013年6月に発表されたBeady Eyeの2作目『Be』以来のニュー・マテリアルとなるわけだが、あまりの瑞々しさに驚いた方も多いのではないか。そんな同シングルについて、聴きどころや制作背景を掘り下げていくのが本稿の狙いだ。
まず、ここ数年のリアムといえば、Beady Eyeはなかなか浮上しきれないまま2014年10月に解散。隠し子発覚に端を発した同年の離婚騒動など、私生活のほうも何かと落ち着かない印象だった。片や、かつての宿敵であるBlurのデーモン・アルバーンと和解を果たすばかりか、Gorillazの新作『Humanz』ではコラボも実現、2枚のソロ作も余裕の高水準という兄・ノエルの世渡り上手に比べると、不器用なリアムは強気のdisを吐き散らしながらも、オアシス解散後は時代との接し方を見つけられず、必死にもがいていたように思う。
そんな積年の鬱憤を晴らすように、「Wall of Glass」は痛快に鳴り響く。まずはMVが素晴らしい。刑務所の面会室に押し込められたリアムが、トレードマークの仁王立ちスタイルで「お前が投げる石は/そのうちひっくり返るだろう/いつかガラスの壁みたいに粉々になるんだ」とがなり立てたあと、ガラスを突き割るくだり(再生開始2:30~)は、復讐劇のようなリリックと相俟って、同曲のもたらしたブレイクスルーを鮮やかに表現している。
このMVの監督は、リアムの大好きなThe Rolling Stonesのほか、ジャック・ホワイト「Lazaretto」(2014年)なども手掛けてきたFrancois Rousselet。彼は後者のMVでも、ガラスを割りまくった演出を披露しているので、ぜひ見比べてみてほしい。監督のなかに「ロックンロール=ガラスを割る」という勝利の方程式があるのか、リアムのマネージメントが「またお願いしますよ!」と依頼したのかは知る由もないが、いずれにせよ曲とマッチしている。
サウンド面で真っ先に耳を惹くのは、もちろんリアムの声だ。気付けば彼も44歳。しかし、衰えを感じさせないパワフルな声量に加えて、ルックスもきちんと保たれているあたり、それ相応のトレーニングを積んできたのだろう。圧倒的な記名性を誇るシンガーだけに、歴戦のスタイルを維持したまま歌えることが、そのまま最大の武器となっている。
そこは言わずもがなとして、「Wall of Glass」で目を見張るのは、往年のイメージを崩すことなく、唯一無二のボーカルを活かしながら、モダンな意匠を施したプロダクション&ソングライティングだろう。吹き荒れるブルースハープに、ノイジーなギターリフ、そして図太いバスドラムが雪崩れ込む……というイントロで掴みはOK。アレンジのテイストはブリットポップ直系だが、試しにヘッドフォンで聴いてみると、太い音圧と分離の良さ、解像度の高さなど、いろいろと今っぽい音作りに気が付く。
SPINに掲載された同曲のレビューでは、「Wall of Glass」と雰囲気の近いOasisナンバーとして、2005年作『Don’t Believe the Truth』に収録された「Mucky Fingers」と 「The Meaning of Soul」に言及しつつ(前者はノエル、後者はリアムが作曲)、そのあとには「Beady Eyeが発表した多くの楽曲みたいな、単なるパスティーシュ(模倣)とは思えない」とも添えられている。確かに聴き比べると「Wall of Glass」のほうが、やっぱり今っぽい。では、同曲が単なる模倣を越えて、2017年らしいポップ・ソングとなった要因とは何なのか?