KREVA『嘘と煩悩』座談会

DARTHREIDER × STUTSが語り合う、KREVAのスキルと功績「ヒップホップを広げる役割を担ってきた」

 

独自のメロディ・センス

ーーKICK THE CAN CREW、あるいはKREVAさんの楽曲で最初にインパクト受けたものは何でしたか?

STUTS:KICK THE CAN CREWの「クリスマス・イブRAP」(2001年)と「マルシェ」(2002年)ですね。「クリスマス・イブRAP」では山下達郎の「クリスマス・イブ」をサンプリングしていますけど、当時、ああいう大ヒット曲をサンプリングする試みは日本のヒップホップではあまりなかったですよね。

DARTHREIDER:うん。あの曲のサンプリングには批判もあったんですよね。有名な曲をサンプリングすることを“大ネタ使い”と言うけれど、そういう場合その“大ネタ使い”がアリかナシかという議論になる。「クリスマス・イブRAP」の時もコアなヒップホップ・リスナーの間ではそういう議論が起きた。もちろん有名な曲を使ってセルアウト(ヒップホップの専門用語で、商業主義に走った際などに批判的に使われる)したと批判する人の主張の根拠はわかります。ただ、グッド・ミュージックという観点で考えれば、あの曲はグッド・ミュージックですよ。しかも、誰もが知っている曲をサンプリングしてヒップホップを作るのは実は一番ハードルが高い。「クリスマス・イブRAP」はそういうチャレンジの曲で、結果的に大ヒットしたわけだから、KICK THE CAN CREWが勝ったんですよ(笑)。

STUTS:ラップのスタイルはストイックなのにポップでキャッチーな曲を作るのがKICK THE CAN CREWにしかない魅力だと思います。

DARTHREIDER:KICK THE CAN CREWは3人のラッパーのリズミカルな掛け合いでキャッチーなムードを作っていましたね。「スーパーオリジナル」(2001年)とかはまさにそういう曲です。

STUTS:その頃のKICK THE CAN CREWは小節の最後の5文字とかで韻を踏んだりしていましたよね。そこで僕はラップで韻を踏む面白さに初めて触れたんです。僕みたいな初めてラップを聴く人にもそういうことがわかった。

DARTHREIDER:小6か中1のSTUTSにも理解できるぐらいわかりやすく日本語のラップの面白さを見せたということですね。それはとても重要でしょう。ソロデビューアルバム『新人クレバ』(2004年)の頃のラップには韻を踏むために倒置法を多用しながら、意味を通していく面白さもあったりする。ヒップホップのルールをまったく知らない人にもラップの韻の魅力を伝えていったんですよね。そういうわかりやすいラップに対して、コアなリスナーから反発があったのも事実です。その気持ちはわからなくはないけれど、KREVAさんがそうやってヒップホップを広げる役割を担ったことについては、いまだからこそまた見直されてもいいはずですよ。

ーーソロデビュー曲「希望の炎」(2004年)、それに続く「音色」(2004年)をMPC-4000というサンプラーで作ったと本人が語っています。この2曲は、ヒップホップ・プロダクションのプリミティブさがありつつ、メロディアスでもあるという、その後のKREVAプロダクションの一つのプロトタイプでもあると思います。いかがでしょうか?

DARTHREIDER:KREVAさんは「希望の炎」で歌うことに挑戦しますけど、それ以前のKICK THE CAN CREWでラップのリズムの面白さを見せているのが大事なんです。そういう段階を経て、フック(サビ)で歌うという曲を作っている。だから、KREVAさんの歌は、リズムと深く関係している。

STUTS:僕もこの2曲をリアルタイムで聴いていました。先ほどダースさんがおっしゃったようにKICK THE CAN CREWの頃は3人のラップのリズミカルな掛け合いが面白かったから、ソロになったKREVAさんがメロディを強調した「希望の炎」と「音色」を出された時、方向性がガラリと変わったと感じたんです。でもその後、いろいろヒップホップを聴いて、改めてあの2曲を聴くとまた違って聴こえるんです。サンプリングだけでああいうメロディアスなトラックを作って、しかもすごいポップに仕上げていますよね。オートチューンを使うのも本当に早かったです。KREVAさん独特のメロディセンスってありますよね。そのメロディセンスはインディーズの頃から全然変わらない。僕は「瞬間speechless」(2009年)もすごく好きなんです。ああいう絶妙にポップなKREVAさん節があるから、いろんな人がKREVAさんの音楽を聴くようになったのかなと思います。

STUTS

DARTHREIDER:「瞬間speechless」のああいう叙情的な感じは日本の歌謡曲との親和性も高いと思う。ちなみに「瞬間speechless」はサイプレス上野のカラオケ・バージョンっていうのがあって、どこかに動画がアップされてます(笑)。

ーー探してみてください(笑)。

DARTHREIDER:「希望の炎」と「音色」のメロディは、サンプリングした短い音の組み合わせで作られていますよね。だから、やっぱり肝はリズムなんですよ。メロディアスなんだけど、歌謡曲を作る手法とは違う。ピアノやギターといった楽器を弾いてメロディを作るのではなくて、サンプラーでサンプリングした複数のパーツの組み合わせでメロディを作っている。それが当時の日本のポップスの世界では斬新だった。

STUTS:僕は2ndアルバム『愛・自分博』(2006年)を一番聴き込みました。メロウで、ミニマルで、ポップでKREVAさんのメッセージ性もすごくわかりやすいんです。『愛・自分博』の頃は当時流行していたカニエ・ウェスト的なサンプリングの早回しもやっていますけど、ただの模倣にならないで、ちゃんとKREVAさんの色が出ますよね。

DARTHREIDER:ティンバランドっぽいサウンドを取り入れていた時期もあったよね。それをKREVAさんがやるとドラムの打ち方が日本のお祭りっぽい雰囲気になったりするのも面白いんですよ。

 

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