ステージ上には“最新形”のローゼズがいた 熱狂の空間に包まれたThe Stone Roses武道館公演
ここで、ちょっと唐突だが、ざっくりとおさらいをしよう。
バンドの解散劇が1996年のこと。それまでに離れ離れだった彼らだが、マニの母親の葬儀でイアンとジョンが再会したのが2011年の夏のこと。再結成は急転直下でその年のうちに決まり、翌2012年から世界ツアーが始まったのだ。そして日本には同年の『FUJI ROCK FESTIVAL ‘12』、さらに翌2013年の『SONICMANIA 2013』と『SUMMER SONIC 2013』で来日。この年にはドキュメンタリー映画『ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン』も公開されているが、バンドの活動自体はここでひと区切りとなる。
そこから数年のインターバルを置いて去年再び動きはじめ、新曲リリースとライブがあった(ここで武道館公演も決まっていたが、レニの負傷によって中止になっている)。そして今年の来日があり、この後の6月からはウェンブリー・アリーナをはじめとしたUKでの大きな公演が予定されている。ということは、彼らはその合間に? あるいは一連のライブが終わってから? またスタジオに入るのだろうか……。
ただ、こうした気持ちの一方で、心のどこかでは、3枚目のアルバムの完成をそこまで「早く!」と期待することはないかな、という思いもある。もちろん、聴きたいのはやまやまだ。だけど彼らは一度終わったバンドなのである。若い頃の、あの時代のローゼズでは、もはやない。
そんなふうに思うのは、映画『メイド・オブ・ストーン』を観た時に、昔からのローゼズのファンの姿を見て感じることがあまりに多かったのもある。みんな、いい歳なのだ。たまたまこのトレイラーに、アルバムを週1回は聴いているというファンのインタビューがあるので、見てみてほしい。
この映画には他にもたくさんのファンが出てきて、中には学校の副校長をしているという男性もいた。これがもう5年前のことなので、今頃彼は校長先生になっているかもしれない(笑)。
それだけこのバンドは歳も重ねているのだ。もちろん演奏は冴えてはいるのだが、今回のライブを観ていて、イアンの白髪とお腹の出具合がちょっと気になったが、客席を見ていると、こちらも言えた義理ではないな、と思った。
また、先ほどセットリストのことを触れたが、実は彼らのギグは大枠の流れがずっと変わっていない。今回の曲順も、去年のマンチェスターでのライブと同じである。だから僕は今回のライブで「Beautiful Thing」が披露されないことは予想していた。
もちろん新作アルバムは待望する。時代も変わってきていて、生前のプリンスが「アルバムって覚えてる?」と言ったことまでが脳裏を巡るが、それだけじゃなくて。何よりも、The Stone Rosesが、あの4人がこうして今もライブをやり、観衆を沸かせているという事実が一番大切だと感じるからである。
何しろローゼズはずっとトラブル続きだったバンドだ。かつては契約や移籍の問題がつねにあったし、騒動やケンカだって絶えなかった。90年代にはそんなニュースをしょっちゅう聞いていたもので……もっとも当時はインターネットが普及する前なので、あくまで雑誌で情報を確認していた時代だったわけだが。だから去年の来日中止も、不謹慎ながら、心のどこかで「ああ、ローゼズらしいな」と思ったりしたものだ。
だからアルバムなんて、ほんとに気の遠くなるような話である。それだけに今回のようにライブがしっかりと実現されたのは、最上の喜びなのだ。
人生は、一寸先はわからない。それは音楽もしかりで、ここからのローゼズがどうなるのかも、わからない。ただ、当面はポジティブな方向に行くであろうことは期待できる。
そしてもう一度、彼らの音に接する瞬間があるとしたら……そこでまたあの屈強でしなかやなグルーヴが轟いていることを心から願う。今はあらためて、あの4人がまた日本に来てくれて、素晴らしいライブを見せてくれたことに感謝したいと思う。