s-ken×甲本ヒロトが語る“70年代の熱狂”「火をつけて、燃えるところを見るまでやめられない」

 

「好きなものを全部やろうとすると、あまりにも取っ散らかってしまう」(甲本)

s-ken:好きなものをいろいろ聴いたうえで、自分流に勝手にやるっていう。いちばん最初の話に戻るけど、いろんな音楽に影響されていても、作品を作るとその人の“訛り”が出てくるからね。

甲本:訛り、手癖ってありますからね。

s-ken:マディ・ウォーターズが好きだったThe Rolling Stonesのメンバーも、ちゃんと自分たちの訛りを開拓したわけだし。忌野清志郎もそうだよね。彼はオーティス・レディングなんかが好きだった思うけど、日本人のグルーヴ、新内や長唄の心みたいなものをずっと持ってたんじゃないかなって。『Tequila the Ripper』を聴いて細野さんが「べらんめえな感じが決まってきたね」って言ってくれたんだけど、僕が好きなリズムとこうやって話している言葉がリズムが自然にブレンドできるようになってきたのかもね。

甲本:“s-ken訛り”ですね。僕は自分の創作について明確に説明できないんだけど、最初に言ったように、いろんなものを鍋のなかでグツグツ煮込んでるんです。そのなかにはゴスペルやブルース、ラテン、ジャズも入ってるんですよね。毎日聴いてるレコードもそうだし、今日のs-kenさんとの会話だったり、いま飲んでるコーヒーの味も入っていて。

s-ken:全部が混じってる。

甲本:そうです。よく思うんだけど、レゲエが好きで、レゲエだけをやるバンドっているじゃないですか。あれが理解できないんですよ、僕は。「もっといろいろ聴いてるでしょ? それを煮込んだら、わけのわからないものが出来上がるはずでしょ?」って。僕には「レゲエが好きだからレゲエだけをやる」っていう思考回路がないんですよね。

s-ken:なるほどね。僕も「ジャンルを飛び越えてますね」と言われるけど、そんな意識はなくて。自分がカッコいいと感じたものを分析してみると、全部アフリカから来てるもの、まとめて言えばアフロビートなんですけどね。R&Bも、ファンクもスカもブガルーも全部そう。そんな多彩なビートを感じながら演奏できるバンドを作りたいと思ってメンバーを集めたのが、hotbombomsなんですよ。最初は大変でしたけどね。サンバのバンドをやっていたヤヒロトモヒロ(Per)を連れてきたり、ロックの小田原豊(Dr)だったり、いろんなジャンルのミュージシャンを集めたので。

甲本:わかります。僕が自分でやるときは、縛りを付け加えてるんですよ。好きなものを全部やろうとすると、あまりにも取っ散らかってしまうから。Ramonesがおもしろいのは、アレしかやらないからなんですよね。彼らはいろんな音楽を聴いているし、いろんなことを知ってるんだけど、「コレしかやらない」と自分たちを縛っていたんだと思う。The Rolling Stonesにも縛りがあるような気がするし、僕も自分で音楽をやるときはロックンロールバンドという縛りを付けてるんです。

s-ken:「やりたくてもできない」ってこともあるよね。僕はボブ・マーリーが大好きだけど、あれをやろうとは思わないし、できないから。1975年に初めて彼のライブを観たとき、ビックリしたんですよ。言いたいことをハッキリ言っているし、楽曲も素晴らしいし、アンサンブルも最高で。

甲本:1975年にボブ・マーリーのライブを観てるんですか? どこで?

s-ken:L.A.のロキシーシアターですね。ジャマイカ人の夫婦がやってるレコード屋に行ったら、爆音でレゲエが流れていて、そのときにレゲエのイメージが変わったんです。その流れでボブ・マーリーのライブを観たんだけど、我が人生のなかでもいちばんの衝撃でしたね。前座のMartha and the VandellasのMartha Reeves がすごくいい演奏だったから「ボブ・マーリー、大丈夫かな」なんて思ってたんだけど、演奏が始まった瞬間に声が出なくなっちゃったんですよ。あまりにもすごくて。

甲本:開いた口がふさがらない(笑)。そのときのThe Wailersにはピーター・トッシュもいたはずですよね。

s-ken:彼はもうソロになっていて、ニューヨークで見ました。LAでは他にもいろいろ観たよ。Byron Lee & The Dragonaires、Toots & the Maytalsとか。

甲本:わあ、すげえ! Toots & the Maytals、大好きですよ。レゲエのコーラスグループのなかでも最高ですよね。いいな。僕も一緒に行きたかった(笑)。

ーー貴重なライブを観たり、刺激的な現場を体験したことが、すべてs-kenさんの血肉になっているんですね。

s-ken:おもしろい人生だなって思いますよ(笑)。ポーランド音楽祭に作曲家として呼ばれたのがきっかけなんです、信じられないことに数万人の応募者のなかから選ばれたんだけど、そのときに世界一周のチケットをもらって。大卒の初任給が3万円の時代に49万円のチケットをもらったんだけど、その旅の経験があまりにも大きかったんです。「もっといろいろなものを見たい」と思って、その後、ヤマハの海外特派員としてアメリカに行って。

甲本:いいですね。s-kenさん、好きなことやってるだけで、全然がんばってないですよね(笑)。

s-ken:うん(笑)。がんばってるって言ったことない。

甲本:それがいいんですよ。自分探しとかもしないでしょ?

s-ken:しないね。最初に「僕」「私」の話をしたけど、「I」って使いたくないんですよね。1980年代の現代思想ブームのときにジル・ドゥルーズやクロード・レヴィ=ストロースの本を読んだけど、彼らも「自分なんていない。転がる石みたいに人間はどんどん生まれ変わる」と書いていて。近代的な概念としての「I」「私」なんて、じつは存在しないと言ってるんです。音楽でも思想でも文学でもいいんだけど、何かに触れることで、モノの見方がすべて変わることもあるし。面白いものは100のうち2つか3つしかないけどね。それは昔も今も同じだね。

甲本:でも、だんだん鼻が利くようになって、おもしろいものを選べるようになりませんか?

s-ken:うん、どうにか選んでるよ(笑)。でも年のせいか、好奇心が衰えて保守的になったってことだと思うけどね。

甲本:保守的というより、不純物がなくなって、純化してるんだと思います。今日はおもしろかったな。s-kenさん、思った通りの人でした(笑)。

(取材・文=森朋之/撮影=外林健太/撮影協力=下北沢GARDEN)

■ライブ情報
2017年5月26日(金)
s-ken & hotbomboms「『テキーラ・ザ・リッパー』リリースパーティ」
会場:Billboard Live TOKYO
1st…OPEN17:30/START19:00
2nd…OPEN20:45/START21:30

チケット一般発売日:3月1日(水)
サービスエリア:¥7,000(税込、指定料・飲食代別)
カジュアルエリア:¥5,500(税込、指定席、1ドリンク付)

■リリース情報
『Tequila the Ripper』
発売:2017年3月22日(水)
価格:2,500(+税)
<収録曲>
1. 酔っ払いたちが歌い出し、狼どもが口笛を吹く
2. ジャックナイフより尖ってる 
3. 千の目、 友にはふさわしき贈り物を
4. 答えはNO!
5. HEY! TAXI! AMIGO!
6. 夜を切り裂くテキーラ
7. オールドディック
8. 最高にワイルドな夢を
9. 月に吠える犬
10. 泥水の中で泳ぐ鮫たち
11. 嵐のなか船は出る
12. 鮮やかなフィナーレ

OFFICIAL WEB SITE : s-ken.asia

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