『ドラマー永井利光 自叙伝 夢の途中に』著者インタビュー
ドラマー 永井利光は、なぜ“サポート”を貫くのか? 氷室京介、GLAYらのビート支えた音楽人生
ワクワクすることをいつまでもやっていたい
ーー永井さんはドラムクリニックを通じて、若い世代の方々に直接ドラムを教える活動もされています。若いドラマーたちと接してみて感じることはありますか。
永井:親に勧められてドラムを始める子も多いみたいです。俺らの場合は親の目を隠れて練習してたんで、本当に好きじゃないとできなかった。もしかしたら今は自分から何かを好きになることが、全てにおいて少ないのかなとも思います。そういう子たちに対してどう教えていくのか、興味を持たせるのか、というのもまた俺の課題です。
ーー永井さんが彼らと同じ年の頃との違いは?
永井:俺は貪欲だったからライブを観に行ったり、ドラムを教えてもらいに行ったり、自分からどんどん動いていましたね。今でも自分ができないことができる後輩には「教えて」と言いに行くし、彼らに面白いYouTubeを教えてもらったりしています。そういう積極性のある子はあんまり見受けられないかもしれません。彼らに責任はなにもないですが、これからの音楽業界やミュージシャンはどうなっていくんだろう? という不安はあったりします。もっと俺も考えつかないようなドラムを叩いてほしいし、進化した音楽や新しいジャンルを作り上げてほしい。そのために俺らが培ってきた基本的なルールは、彼らに伝えていきたいと考えています。俺もいずれいなくなるだろうし、叩けなくなるかもしれない。でも、進化していく音楽の世界でずーっと繋がっていく、一つの部品になれれば良いと思っていて。“Toshi Nagaiのドラムワールド”みたいな、ちっちゃい世界を作っても全然つまらないから。
ーーそのスタンスこそが、バンドではなくソロで活動してきたことに繋がっているのでは。
永井:でしょうね。一つのバンドに入るのは結婚するみたいに「一生一緒に音楽やるぜ」っていう気持ちがないとやっぱり無理だと思うんです。それがGLAYにないとか、他のバンドにないわけではなくて、自分にそれだけの覚悟ができなかった。「俺やっぱりジャズやりたいから辞めたい! 離婚させてください」っていうのはあまりにも身勝手だなと思うし。まだまだいろいろな音楽をやりたかったから、フリーでいたのかもしれません。
ーー永井さんのようなポジション、存在でご活躍されている方はなかなかいないですよね。
永井:俯瞰して見ると、氷室さんとGLAYという2大ロックスターのサポートを長くやっているのに、今やりたいのはジャズとか言ってるし、自分でも何なんだこいつって思うことはあります(笑)。でもそれは、ワクワクすることをいつまでもやっていたいからなんだと思うんです。
ーー常に更新されていく永井さんの姿があるから、GLAYのようにアーティストのみなさんも長く付き合っていきたいと感じるのでは。
永井:俺も飽きさせないドラマーでいようと思っているし、GLAYのみんなも停滞しないように、「もっと違う音楽を」と常に考えているので、同じスピードで歩んで来れているんです。TAKUROくんも5年くらい前から、ギターが上手くなりたいというところから始まってジャズにハマったり。今年はTAKUROくんのソロ活動で一緒にジャズをやることもできた。面白いですよね。
ーーでは最後に、どういう方々にこの本を届けたいですか。
永井:若いミュージシャンには是非読んでほしいですね。俺だけじゃなくて、この本に書いてあるような体験をしている人は他にもいると思う。共感できる部分があるはずだし、今不安を持っている人には自信を与えることができるはず。あとは、GLAYのファンだけど俺のことはあまり知らない人に、「Toshiさんってこういう人だったんだ」と思って読んでもらいたいですね。氷室さんのファンの方もそうですし。氷室さんとのエピソードにもふれてますし、今まで俺が一緒に後ろで叩かせてもらっていた理由もよくわかっていただけると思います。
ーーこの本を読んでまた永井さんがライブで活躍する姿を見ると、印象がだいぶ変わるかもしれないですね。
永井:変わるでしょうね。それも一つのお楽しみとして読んでもらえるとうれしいです。
(取材・文=久蔵千恵/構成=村上夏菜)
■書籍情報
『ドラマー永井利光 自叙伝 夢の途中に』
発売中
四六判/320ページ/¥2,000