清水翔太、SKY-HI、w-inds.、三浦大知……同世代の男性アーティストが台頭する理由は?
シンガーソングライター・清水翔太のデビュー10周年イヤー突入を記念し、彼のよき理解者でもある音楽ライターの猪又孝氏、編集者の佐藤公郎氏、ライターの鳴田麻未氏の3者を迎えた座談会。前編では清水の音楽性がより本格的なものに進化した背景やアレンジャーとしての技量について語り合ったが、後編ではライブパフォーマンスの変化や、SKY-HI、三浦大知、w-inds.など、清水と同世代の男性アーティストが新たなステージへと上がろうとしている機運について話が展開した。(編集部)
「清水翔太のピッチを4つ下げると鈴木雅之になる」(佐藤)
ーー後編では、清水翔太のアーティスト性がどう変わったかという部分についても具体的に掘り下げて行こうと思います。
佐藤:今回の座談会用に、過去に自分が担当したインタビューから、彼のパンチラインを抜粋してきたので、いくつか紹介したいと思います。まず、『Umbrella』をリリースした2008年の9月にインタビューした際に「このアルバムを聴いて、どんな人間か、どんなアーティストかわからないと思ってもらえれば本望です」と、デビューの時点でこれを言えてしまう生意気さですよ。「『Umbrella』が今後の僕の方向性を示唆する作品ではありません。それにこの作品には清水翔太がこの路線だと思わせるものも特にないし。曲作りの段階で思い浮かばなかったことは、今の僕がすべきではないと思うので」と、キャリアの最初期から達観した発言をしてたんですね。
猪又:達観というか客観というか。どこか他者目線だよね。
佐藤:優等生意見とひねくれ者意見のバランスが巧みなんですよね。『Umbrella』というタイトルについても「みんなを僕の傘に入れてあげたい」という発言もあれば、「僕をわかってくれない人は僕自身が傘で防ぐ」と言っていたり。3年後にリリースされた『COLORS』のインタビューでは、「音楽的にも人間的にも優等生のイメージを崩したかった」と前置きしつつ、「これまでは制作において無駄に気を使う部分があったけど、それは不満ではない。でも、僕が僕自身を自主規制していたんだなって」と話していて。そのときに「お前はKダブシャインか!」とツッコんだのを覚えています。
猪又:どこかで勝負をかけたいという気持ちの反面、自分自身でブレーキを踏んだりした部分もあったのかもしれませんね。
ーーその時期と比べて、現状はやりたいことをできるようになった、ということなんですね。
佐藤:あと、彼の変化についてはビジュアル面でも言及しておきたくて。『PROUD』をリリースした時から、サングラスをずっと外さなくて、どこか鈴木雅之化が進んでいるというか。その繋がりで紹介したいことがあるんですが、少し前に「一青窈『ハナミズキ』のピッチを落とすと平井堅になる」というのが流行ったじゃないですか。それと同じで「清水翔太のピッチを4つ下げると鈴木雅之になる」ということに気がついたんですよ。
(実際に「Midnight Flight」のピッチを下げて流す。一同似過ぎていて爆笑)
鳴田:息遣いまで似てますね!
佐藤:本人に「鈴木雅之さんの影響、受けてるでしょ?」と訊いたら「いえ、特に」って言われましたけどね(笑)。これを聴くと、彼にソウルシンガーとしての系譜が確かに息づいていると思うんですよね。
猪又:ソウルのエッセンスに関しては、本格派のR&B的な雰囲気と合わせて、清水翔太の作品からは常に染み出ていましたよね。
鳴田:私も小ネタがひとつ。ライブで「君が好き」を披露するとき、客席前方のファンから1人を選んで、その人をじっと見てサビを歌うのが恒例ですよね。そのことについて現場で会った猪又さんに「ああいうホストみたいなパフォーマンスはいかがなものか」と話したら、猪又さんから「あれはオーソドックスなR&Bメンのマナーじゃん。NYのジャズクラブだとしょっちゅうある光景だよ」と。一気にあの曲の見方が変わった瞬間でした。
猪又:あれはソウルミュージックならではの“おもてなし精神”ですよ。先日グラミーの舞台でブルーノ・マーズが女性客に向けて「真新しいドレスを身にまとったレディたちが見える。とても綺麗だ」と話し始めたのと同じ。
佐藤:本人もそれをやってもいやらしく映らないキャラですしね。
鳴田:R&Bの紳士な男性は跪いて女性に愛を伝えるのが鉄板のサービスで、それはすごくクールだとわかってはいつつも、果たしてそれがファンに伝わってるのかどうか……。
佐藤:取材では「ファンは清水翔太に何を求めていると思う?」というのをよく訊くんですよ。彼は「今回のアルバムはこうなるだろうな、と予想するファンは少ないほうがいい」と言ってました。「それを裏切りたい気持ちもあるけど、かえって自主規制につながることもある」と。
ーー先ほど鳴田さんから挙がった、R&Bマナーを踏襲したパフォーマンスや、ライブでの振る舞いについては、かねてからそのような見せ方を意識していたのでしょうか。
猪又:MCで関西弁を出し始めたくらいから、顕著に見えるようになってきたかもしれないですね。
佐藤:僕は、彼がSNSを始めたことが転機になっているんじゃないかと思っていて。一時期はSNSに対して斜に構えてた時期があった……どころか、アーティストがTwitterをやることに対しては、むしろ反対していたんですよ。それが期間限定でTwitterをやってから楽しくなったのか、正式にアカウントも開設しましたよね。その心境の変化も今のキャラクターにつながるのかも。
猪又:『ENCORE』くらいの時期に開設してましたよね。一時期はファンと繋がりたくないというか、繋がるのが怖かったのかもしれないよね。さらけ出したい気持ちもあるけど、そうすると何を言われるのかわからないというか。でも試しにやってみたらファンも受け入れてくれるようになって、それもあってライブでのキャラクターにも変化が見られてきたと思います。
佐藤:引きこもりだった頃の自分が、ファンとSNSを通じて交流することで削ぎ落とされているし、ライブでのコミュニケーション能力も高まっているのかもしれませんね。
鳴田:今は、その差し引きが上手ですよね。真面目に話している自分に恥ずかしくなって自分で笑っちゃったりして、女子は心を鷲掴みにされますよ。真面目さと砕けた部分のバランスが、天性の人たらしと言って良いくらい上手で、そういう人間臭さを出せるようになったからこそ、ラブソングの歌詞もどんどん振り切れたものになっているんだと思います。