AKB48グループと乃木坂46・欅坂46、“特性の違い”より明確に 2016年の活動から見えたこと

欅坂46 『サイレントマジョリティー』

 他方、2016年春にデビューした坂道シリーズの新鋭・欅坂46がまずインパクトを残したのは、デビュー曲「サイレントマジョリティー」のミュージックビデオだった。大規模なイベントの開催もまだなく、個々のメンバーが有名タレント化する前の段階で、既存の48・46ファンの外側にまでリーチできたのは、まずはこのMVの力によるところが大きい。楽曲や衣装、歌詞、振付にいたるまでのコンセプトの一貫性が、このMVの完成度の高さを支えている。それは、AKB48のように外側の社会を自らの構造に取り込んでいくベクトルではなく、プロダクト単位での物語性・世界観を純度高く完結させる方向が功を奏したといえよう。

 この欅坂46の成功は、坂道シリーズの先達・乃木坂46がデビュー以来、ドラマ性の高い映像作品の精度を上げ続けるなどの蓄積をしてきた、その先にあるものだ。乃木坂46もまた今年、「サヨナラの意味」MVでは柳沢翔、湯浅弘章、山岸聖太ら、これまでグループのMVのドラマ作りを支えてきたスタッフを集結させ、ここまでの蓄積の集大成的な映像を制作した。フロントメンバー橋本奈々未の卒業に際してのセンター起用というイベント化しやすい要素を持ちながらも、これまでグループの映像作品が基調にしてきた物語世界の作り込みによって完成度を上げる方向性は変わらず保っている。

 このようにして見るとき、ともに大きな支持を得て2016年の「紅白」に出演したAKB48グループと坂道シリーズという2つの組織は、相似形の二者が拮抗しているというよりは、社会に向けた機能や影響の持ち方において大きく性質の違う者同士が、それぞれの特性をもって巨大な存在になってきたというべきだろう。

 乃木坂46および欅坂46は、一つ一つのプロダクト内で完結する物語世界を丁寧に紡ぐことで、ブランディングを強めていった。欅坂46の誕生もあって、乃木坂46の結成以来、組織全体で過去最高にインパクトを残した2016年の勢いが、「紅白」までの道程につながったといえる。他方、AKB48グループは、これまでも「紅白」をメンバーの卒業発表やグループの歴史を振り返ってみせる場として用いるなど、自らの組織のダイナミズムを絡めながら、「紅白」という“世間”に接近してみせた。

 そして今回の紅白でAKB48グループは、自前の恒例企画である「投票」という一大イベントを、「紅白」という自らが主導できない場、さらにいえばファンの間で流通する文脈や論理が必ずしも通用しない場に持ち込んだことになる。これがAKB48グループと総選挙イベントになにがしか意味の変化をもたらしていくのかは、今年以降の展開を待つほかない。AKB48グループは今年、STU48の始動を控える。もともと、全国への姉妹グループ展開自体が、「自らのダイナミズムに世間を巻き込んでいく」スタイルの代表的な施策であった。さらにその手を広げる48グループの動きはどうなっていくのか。一方では欅坂46が2年目を迎え、乃木坂46のフロントメンバーにも変化が生じていく坂道シリーズが、これまで蓄積してきたプロダクトの強みをどう進化させていくのか。2017年の両者の動きを見るとき、それぞれが持つこれらの特性は、ひとつの指針となるはずだ。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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