渡辺志保の新譜キュレーション:特別編

渡辺志保が選ぶ、年間ベスト・ヒップホップ・アルバム10 話題作続出のシーンを振り返る

 そして、ドレイク、フューチャー、トラヴィス・スコットら、最先端トレンドの音を創り出すラッパーらのアルバム群もどれも鮮やかだった。「One Dance」の爆発的ヒットに代表されるドレイクのトレンドセッターとしての無双っぷり、そして昨年に続き、ブレないアトランタ・サウンドを軸に、良質なアルバム/ミックステープを量産するフューチャー、多くのゲスト・ミュージシャンを味方につけて自身の限界能力を押し拡げていくような動きを見せるトラヴィス・スコット、そしてベスト・アルバム選には入れられなかったが、同じくキッド・カディ『Passion, Pain & Demon Slayin'』やマック・ミラー『The Divine Feminine』も素晴らしい音世界をアルバムに閉じ込めてくれていた。

 ほかにも、リスト外の作品に関して付け加えておく。ここ数年のヒップホップ・トレンドに言えることだが、A$APロッキーやジョーイ・バッドアスらの成功例に代表されるような、ヒットまでの距離感がどんどん短くなっている点に関しても、今年は特に顕著に感じた。リル・ウージー・ヴァート、コダック・ブラック、21サヴェージ、リル・ヨッティーら若手MCのミックステープ作品も、どれも粒ぞろいかつそれぞれの活躍っぷり(ラッパーとしてだけではなく、モデルなども務めトレンド・アイコンとしても注目を集めた)も目を見張るものがあったし、ヤング・サグのようにユニークな価値観を作品に落とし込む新世代ラッパーの台頭は、間違いなく来年以降も続いていくだろう。

 総じて、ヒップホップは常に革新的で、かつハラハラさせられる醍醐味を持ったカルチャー、スピリット、そして音楽性である、ということを再確認した一年でもあった。来年も血がたぎるような素晴らしい作品との出会いを期待して、本稿を締めくくりたく思う。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
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