レジーのJ-POP鳥瞰図 第15回
山本彩、アイドルとシンガーの境界線壊す存在に? J-POP追求したソロ作がシーンに残すもの
融解する「アイドル」と「ソロシンガー」の境界線
2010年代に興った女性アイドルのブームは2016年時点ですでに「ブーム」から「文化」へ移行した感があり、音楽シーンにおける一つのジャンルとして定着しつつある。一方で、隣接するジャンルとも言える女性のソロシンガーの世界においても非常に活発な動きが展開されている。その代表格でもあるmiwaは2010年のメジャーデビューから人気を着実に拡大しているし、「ギタ女」ブーム(最近ではこの言葉を聞く頻度もめっきり減ったように思えるが)から頭一つ抜けた感のある大原櫻子は次なるスター候補として支持を着々と広げつつある。他にも月9ドラマのヒロインを務めた藤原さくらや映画『君の名は。』で注目を集めた上白石萌音など、歌だけでなく俳優業もこなしながらそれぞれの立ち位置を確立しようとする存在が多数ひしめき合っている。
ところで、ここで名前を挙げたような面々は「ソロアイドル」ではないのだろうか? 例えばソロアイドルとして活動していた(今は活動休止している)武藤彩未と何が違うのか、という問いに対して明確な答えを出すのが実は難しい。「自分で曲を書いているかどうか」という話でもないし、「ダンスをするか」というのも基準にならないだろう。結局このあたりに明確な定義があるわけではなく、「自分のことをどう名乗っているか」という部分の積み重ねで「どちらのカテゴリーとして認識されるか」が決まってくるというのが実態である。
「ソロシンガー」「ソロアイドル」というとても曖昧な区分けがうっすらと存在する現状において、山本彩のソロ活動開始はこの境界線を一気に融解させる起爆剤になる可能性がある。アイドルシーンど真ん中に軸足を置きながら亀田誠治をプロデューサーに立てて(大原櫻子と同じプロデューサーである)J-POPそのものとも言うべき音を届けるという「ソロシンガーとソロアイドルのハイブリッド」とでも言うべき活動スタイルは、「○○はアイドルか、アーティストか」という使い古された問いをますます不毛なものに追いやってくれるかもしれない。
呼び名はどうあれ、華やかさと実力を共に兼ね備えたソロの女性が様々な領域から飛び出してきているのは喜ばしいことである。余計な分断が解消され、それぞれの才能が(無意識の部分も含めて)相互に刺激し合うことで、シーン全体の底上げがなされることを期待したい。
■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。