小野島大の新譜キュレーション 第6回
ニコラス・ジャー、オヴァル、ROVO……小野島大が選ぶ“音質”にこだわって聴きたい新譜8枚
結成20周年を迎えたROVOの4年ぶり11作目『XI (eleven)』(ROVO organization/wonderground music)。珍しくナカコー、U-zhaanといったゲストを迎えての一作ですが、いい意味で不変のROVOらしい強靭なバンド・サウンドが聴ける圧巻の内容です。20年というキャリアの蓄積だけがなしうる、ビルドアップされた肉体のような恐ろしくマッシヴで緻密でダイナミックでレベルの高いアンサンブルは凄いの一言。バンドもののレコーディングでは今や日本を代表するエンジニアと言える益子樹(kbd)が手がけた躍動する音響も素晴らしい。いいオーディオで、大きな音で聴くとヤバいですよ。11月26日発売。
アレックス・パターソン、トーマス・フェルマンによるジ・オーブ(The Orb)の1年3カ月ぶりの14枚目のアルバムが『COW / チル・アウト,ワールド!』(Kompakt/Beat records)。彼ららしい大河のようにゆったりと流れていくアンビエント・エレクトロニカを堂々と展開しています。フィールド・レコーディングやライブ音源を録り溜め加工したという奥行きのある立体的な音像が美しく心地よいですね。ドルビー・アトモス等の立体サラウンド音源があれば、ぜひ体験してみたいものです。
ヒューマン・リーグ「Human」の垢抜けたカバーを収録したロバート・グラスパー・エクスペリメントの新作『Artscience』が話題になってますが、そのグラスパーがプロデュースしたシェウン・クティ&エジプト80(Seun Kuti & Egypt 80)の3曲入りEP『Struggle Sounds』((Sony Masterworks)も負けず劣らずの秀逸な1枚。もともと親父フェラに比べるとスマートで洗練されたアフロ・ビートを身上としますが、グラスパーらしい緻密でモダンなリズム・アレンジが加わって、エネルギッシュでダイナミックなサウンドに仕上がっています。HDTracks等の海外の配信サイトでは24bit/48kHzのハイレゾ音源がリリースされてますが、日本ではなぜか圧縮音源のみ。HDTracksでは地域制限があり日本からは購入できないので、ぜひmoraあたりでハイレゾのリリースをお願いしたいところです。
最後に、とびきり美しく激しく重厚な1枚を。日本が世界に誇るポスト・ロック・インストゥルメンタル4人組MONOの2年ぶり9作目となる『Requiem For Hell』(MAGNIPH/Hostess)。アルバム・タイトルが示すように、生と死の狭間で激情がスパークするような壮絶な演奏は、ヘタな歌ものよりもはるかに饒舌で感動的です。スティーヴ・アルビニのプロデュースによる、前作をはるかに上回る大傑作。
■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebook/Twitter